「First Circle」 Pat Metheny Group
記念すべき第一回。
見事その座を射止めたのは――
パットメセニーグループの、ファーストサークルです!!!!
はい実はこれ、ジャズじゃないです。
フュージョンです。
しかも、ブラジリアンフュージョン。
……大丈夫か、この企画。
始めた奴、頭沸いてんじゃないのか?
そうお思いでしょう?
いや、沸いてないです。大丈夫です。
むしろ正常です。
多分、しょっぱからガチのジャズ薦めてもハマれないんで。
気を利かせて聴きやすいのを選びましたから。
安心してください。
決して単に俺が好きだからとか、そういうことではありませんので。
決して。
じゃあまず、フュージョンとはなんぞや?
ということから解説します。
フュージョンができたのは、まあ1970年ぐらいですね。多分。
でもそんなことどうでもいいです。
ジャズにおいて歴史なんて意味ありませんから。
――真実は、音の中にしかない。
これ、覚えといてください。
で、フュージョンっていうのは簡単に言えば、
――ジャズと何かが混ざって、親しみやすくなったもの。
こう表現していいと思います。
ロックだったり、ソウルだったり、ラテン音楽だったり。
ハイブリッドで、かっこいいもの。
でも、決して高度ではないんです。
むしろ、ジャズだけじゃ煮詰まってきたなぁ……
ってところに風穴をぶちあけるために生まれた音楽ですから。
奔放で、ラフで、わかりやすい。
だから初心者がとっつきやすい。
私はそう考えてます。
次は、パットメセニーについてですね。
彼はギタリストです。
同時に、作曲家です。
その両方で、世界有数と言っていい存在です。
活動の幅もバカみたいに広いです。
ちなみに、私が一番好きなミュージシャンです。
先月来日してたんで聴きに行きましたが、まぁバカうまかったですね。
一日十時間近く練習し続けてるらしいんで、六十五になっても微塵も衰えてません。
怪物です。
それではとうとう、肝心のディスクレビューの方に入ります。
まず、このアルバムは、
ジャズ×ブラジルのロック炒め
だと思ってください。
全曲、メロディがゴリゴリにキャッチー。
何も難しい事を考えずに聴けるアルバムです。
じゃあここで一つ“Tips”みたいな感じでメロディについて話します。
ジャズは、アドリブ=インプロヴィゼーション=即興。
そう考えられがちですね。
まあ、それはある程度のところまでは事実です。
でも、全てじゃありません。
ジャズは、もっと包括的な概念です。
極論を言えば、私はショパンもジャズだと思ってます。
ドビュッシーも、ラヴェルも、リストも。
ピアノソロの曲であれば、ですけど。
さすがに管弦楽曲はジャズだとは考えていません。
しかし、ジャズに通ずるものは常にあります。
構成美、そんな点を評価をされる作品においても。
だって結局、同じ演奏なんて二度とありませんから。
どんなにうまい演奏家でも、二回弾けばアクセントが変わる。
テンポが変わる。音色が変わる。
それは、即興ではないんでしょうか?
そんなわけはありません。
ただもう一つ言っておくならば、機械演奏もまた、ジャズです。
何度でも同じものを再現できるということは、一回性の裏返し。
つまり、アンチジャズもジャズの一部って訳です。
どうです?ジャズ、最強でしょう?
そんなこんなを踏まえてメロディについて話します。
ジャズには、『テーマ』があります。
例を挙げます。
じゃあ、「ジングルベル」でジャズをするとします。
その時、ほぼ全てのジャズプレイヤーは、
1、ジングルベルのメロディを最初に提示して、
2、次にインプロ=アレンジして、
3、最後にまた元のメロディを提示して曲を終えるはずです。
つまりインプロっていうのは、即興のアレンジングと言えるのです。
そして、その元のメロディのことを、『テーマ』と呼びます。
もっとも、いくらでも例外はあって、
テーマの一部を変えたり、
テーマをわざと省いたりなどなど。
しかし、「ジングルベル」をやる!
そうと決めたからには「ジングルベル」の何かしらを踏襲しなければいけない。
その時に、最もその曲をその曲たらしめるのは、間違いなくテーマです。
次いで『フック』とも呼ばれる、その曲特有の『コード進行』。
しかし、その辺りについてはまた機会を改めさせて頂きます。
それじゃあ一曲目から見ていきます。
1.「Forward March」
この曲を初めて聞いた時私は、
「頭狂ってんのか?」
そう思いました。
なんか、童心に帰ります。
小学校時代の音楽の授業とかそんな感じ。
へったくそなリコーダーとか
ブッ叩いてるだけの太鼓とか。
いやあ、懐かしい。
私自身リコーダーにはいろんな思い出がありまして、
喉を鳴らしながら吹いて、ロックギターみたいな音を出したり、
それで人の頭ぶん殴ったり、
発表会で、頭上で振り回して踊ったり……。
本当にろくな思い出が無い。
昔はマジで音楽の授業嫌いでしたからね。
なんで今こんな好きなのか全くわかんないです。
とにかく、そういう自由な曲です。
面食らわないでください。
フリージャズです。
2.「Yolanda, You Learn」
あぁ、よかった。
パットが正気に戻ってくれた……。
というぐらいにいい曲です。
いや、一曲目も超名曲ですが。
こっちはわかりやすくいい曲です。
曲調としては、フュージョン。
ガチフュージョン。
これがフュージョンです。
感じてください。
この爽やかな解放感。
懐の広さ。
メロディのキャッチーさ。
この爽快感の秘密を教えます。
まずは、コード。
これ、『モード』に近いですね。
聴くべきはベースです。
常にベースは大事ですが、曲が異様に推進力持ってるな、
と思う時、特に注意してください。
この曲においてベースの弾くライン(メロディ)は、ほとんど変化していない。
ほぼ、リフと言ってもいいです。
もっとかっこよく言えば、『オスティナート』でもいいですが、同じことです。
ベースがメロディアスなラインを弾くと、曲はガンガン前に進みだします。
これは、ロック的発想です。
ロックのベースは大抵リフばっか弾いてます。
それがあのノリのよさを生んでます。
もちろんドラムと一体になってこそ、ですが。
まあなんにせよ、クソわかりやすくかっこいい曲です。
ロックファンに特におすすめ。
3.「The First Circle」
来ました。タイトル曲。
この曲はとにかくかっこいい。
プログレッシブロック的な壮大さ。
とは言っても、プログレなんかとは比べ物にならないくらい、
展開に説得力があります。
感情がこう、キレイに繋がっていくんですよね。
一つの曲線で。
そして、極めつけのブラジル。
聴いて、感じてください。
このブラジルの風を。
海を、大地を!!
これがブラジルです。
気持ちいいですね。行ってみたいですね。
この複雑なリズム。
それをキャッチーに昇華する彼のセンス。
これぞ、パットメセニー。
かき鳴らしてますよ、ギター。
それに、ピアノ。
ピアノソロの静けさ。
からの、大爆発。
ビックバンもびっくりの一大センセーショナル。
ここまで儚く、感情を揺さぶられる音楽が他にあるでしょうか?
これを初めて聞いたとき、私は
「あっ、音楽家になろう」
そう思いましたね。
今、それがどうなっているかはさておき、
とにかく一人の人生を変えてしまうくらいのインパクトがある曲です。
4.「If I Could」
うわ、終わった……。
これが流れる度に、そう思います。
一曲前の大爆発から一気に、しっとり。
最高にエモい。
泣ける。
夕日の海、みたいな感じ。
それに向かって一人でハーモニカ吹いたり、
貝殻を耳に当てたり、
「君」の事を思い出したり……。
……はぁ。
ため息がもれます。
いや、「君」という存在を作れなかった我が半生に。
作れていれば、もう八倍くらいエモかったんでしょうね。
これはもったいなかったですね。
作っておくべきでした。
冗談はさておき、最高なのはアドリブです。
パットのアコースティックから紡がれる旋律。
それはもうアドリブを超え、それ自体が曲のようです。
痒い所を、常に掻いてくれるような安心感。
ああ、そこそこ!
って感じで、美容師だったらさぞ人気だったと思います。
多分女性の扱いもめちゃくちゃうまいんだろうなぁ。
こんなん弾けたら、そりゃモテますよ。
5.「Tell It All」
前曲がジェントルに終わったので、この曲の冒頭はゆっくり展開します。
しかし、何かが起こる。
何か来る。
ザワザワ……。
ザワザワ……。
という気配からのはい、荒々しいギター!!
テーマもなくなだれ込んできます。
シンプルなコード進行の上で、パットの指が暴れる。
もうやりたい放題。
しかし、実はそれも伏線。
とうとうやってきたブラジル。
遅れてやってきたブラジル。
ボーカルまで入ってエモすぎるメロディをユニゾンで叩き込んできます。
プログレ、というほど長い構成ではないけれど、
ジャズ、と呼ぶにはあまりに展開に富んでいる。
強いて言うなら、ラテンに近い。
タンゴ、フラメンコ。
そういう真っ赤な曲です。
で、ラストはまた壮大に締めくくられる。
6.「End Of The Game」
ここでようやく一息。
このアルバムの良心と言ってもいいかも知れません。
気軽に聞ける曲です。
スローでエキゾチックなブラジリアンインスト。
ただ、なんか妙にエロいです。
イケナイことをしてる気になります。
ハラハラしますね。
緊張と弛緩をうまく使って、飽きさせません。
そして終盤にはちゃんと一山持ってくる。
優れた構成です。
コードに関して言うなら、またしても隙間が大きい。
『モード』とさっきも言いましたが、
コードの移行が頻繁に起きない曲をモードソングと呼ぶことだけ、
覚えておけば大丈夫です。
なんかずっと繰り返してない?
みたいに感じたら、それです。
モードソングをよく聞かせようとしたら、
かなりの技術が必要になります。
正直コードを複雑にかけば、それなりには聴こえますから。
インプロヴァイザー=プレイヤーの実力が、
大きく問われるのが、モードソングですね。
7.「Mas Alla (Beyond)」
これは切ない曲。
ボーカルがフィーチャーされたブラジリアンバラードです。
始めは抽象的なピアノから入りますが、まぁ聴いててください。
すぐにエモくなり始めます。
そして、サビ。
ボーカルの伸びやかな声。
熱いメロディ。
空間的な伴奏。
とにかく熱い。
失ったものへの嘆き、みたいなものが、
ひしひしと伝わりますね。
情熱的です。
いやぁ、エロい。
エロすぎますね。
こんなボーカルソングはそうそうお目にかかれませんよ。
マイケルジャクソンの「Can't Help It」のブラジル版って感じ。
まああれもボサノバ調ですけど。
こっちはもっと民族的です。
とにかく、最高。
8.「Praise」
ラストは牧歌的な、のんきな曲。
カントリー的で、ブラジルというよりかは、ちょっとペルー。
ヤギとかヒツジとかの感じです。
まぁここまでの曲が壮大でしたから、ふさわしいラストかも知れませんね。
おつかれ!
そんなパットの声が聞こえてきそうです。
やっぱり彼は根が良い人ですからね。
ファンへの感謝を常に忘れない。
そして最後はハッピーエンド。
すごくポジティブな人間です。
ミニマリストで、ストイックで、職人気質で……。
いろんな面をもつ彼ですが、最後の最後は善人です。
人生を愛する者です。
このアルバムを聴けば、我々もその一員になれます。
ああ、ありがとうパット。
ビバ、人生。
ということでね。
まぁディスクレビューとは何なのか。
私もまだよくわからないんですが。
あまり難しい事は離さずに適度にふざけていけたらなと思います。
それではまとめ代わりに、このアルバムから文学を抜き出したいと思います。
まず、アルバム全体の構成ですが、
そこまで恣意的な文脈は感じられませんでしたね。
曲から曲へのつながりは滑らかですが、完全にリンクしている、
ということはありません。
これを小説で言い換えるなら、短編集、みたいなもの。
まあ音楽アルバムっていうのは大体そうですが。
意図してそう作らない限りは。
ただ、一曲一曲の展開を小説の流れになぞらえる。
これは大いにできそうです。
むしろ、全ての小説家が一考してみるべきだと思います。
盛り上がりの前になにがあるか。
入り方はどうか。
終わり方は?
それって結局、人間の感覚の問題です。
感情の問題です。
文学も音楽も、人の感覚を通じて感情を動かす、
という点では共通です。
しかも、両者には流れ、というものがあります。
絵画にはそれが希薄です。
もっとも、視線の流れは大事ですが、強制的なものではありません。
対して音楽と小説は、時間の流れを受け手に押し付けるものです。
変化していく、流れの芸術です。
一部だけを取り出すことはできません。
次は、このアルバム固有の問題に移ります。
ブラジル、ですね。
変拍子やリズミックなメロディは楽曲に浮遊感を与えます。
これを文章に置き換えると……
なんになるんでしょうね?
わかりません。
ただ、いい曲です。
この爽やかな感情をいつ、どんな小説で得たかというと、
私は覚えがないです。
そのくらい直接的で、風景的な感情です。
音楽は、言葉を介さないで感情を生み出すものです。
絵画も、ですが。
ただ、音楽の方がよりベールに包まれています。
それは人間が通常、視覚の方がより発達しているからですね。
でも、音楽は視覚情報よりも生の感情に近い。
私はそう感じています。
しかし同時に、形容するのも難しい。
というか、避けたいと思っています。
言葉で区切ってしまうにはあまりに惜しい。
矮小化してしまうのが、酷く怖い。
小説が何ページもかけて描き出すものを、
一瞬で産み落とせてしまう。
そういう劇薬です。
全く罪深い存在ですね。
ということで今回は終わります。
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