授業45 朝チュン Part2

 チュンチュン。チュンチュン。窓の外で小鳥が鳴いている。

 隣で眠る青姉の顔を見て昨夜のことを思い出す。


「俺、青姉としたんだよな……」


 青姉の体に触れ、唇を交わし、繋がった。

 俺はそのことを再認識するように呟いてニヤけ顔を晒す。


「んー」

「いてっ」


 寝返りを打った青姉におでこをはたかれてしまった。


「んんっ…………鈴?」


 その音で目を覚ました青姉は俺の名前を呼ぶ。


「おはよう」


 俺は穏やかな微笑を浮かべ、彼女に朝の挨拶をした。


「……おはよう」


 彼女は寝惚け眼で挨拶を返してくれる。


「……んー?」


 まだ目覚めきっていないのか、青姉はゆっくりとまばたきをしながらじーっと俺のことを見つめ、不思議そうに首を傾げた。


「青姉!」


 青姉が可愛過ぎて俺は思わず抱き締める。


「んなっ! な、なにしてんだこの変態!」

「ごふぅっ!」


 驚いて意識がはっきりしたのか、青姉は一糸纏わぬ俺の腹に膝蹴りを食らわす。

 俺は眠っていた内臓が叩き起こされる衝撃に悶絶してベッドから転がり落ちる。


「んのぉぉ」


 全裸で腹を押さえて床に蹲っている俺を、青姉は布団で体を隠しながら軽蔑するように見下ろす。

 昨夜愛し合った相手に向ける目じゃない。

 でもそういうところも好きだった。


「恋人になるのは寝るまでって言ったよな?」


 青姉は布団で体を隠したまま立ち上がり、蹲っている俺の背中を踏む。 


「あふ」


 俺は快感の声を漏らして潰れた。


「変な声を出すな」

「あぁっ」


 ぐりぐりと踏む力を強められる。出すなと言われたのに余計に喘いでしまった。


「恋人じゃない人間に踏まれて喜ぶなんて、鈴は本当に節操ないな」


 青姉は呆れた声で言って背中から足を浮かせる。


「あっ……」


 刺激がなくなったのが少し残念で、俺は青姉の方へ顔を向けた。

 足を上げている青姉を下から見たせいで、大事な部分が丸見えだ。


「み、見んな!」


 見られていることに気づいた青姉は、頬を赤くして浮かせた足を俺の後頭部に着地させる。


「はふぅ」


 軽く頭を踏まれ、俺は恍惚の表情を浮かべて顎を床に突く。

 首筋に当たる青姉の足はひんやりとしていた。


「ド変態」


 冷たい声で毒吐く青姉。

 彼女は続けて嘆息し、独り言を言うように小さな声で呟いた。


「はぁ……。なんで私はこんな変態を好きになったんだろうなぁ……」


 その声はギリギリで俺の耳へ届く。


「ご、ごへんなさい」


 俺は床に押し付けられて動かしにくい口で――好きになったという言葉と呆れられていることに喜びながら――謝罪する。

 それを聞いた青姉はクスクスと笑い、楽しそうな声で告げた。


「ふふっ、謝るんなら試験に合格して私を見返してみせろよ。そうすれば恋人も超えて夫婦になれるんだからさ。な、未来の旦那様」

「う、うん! 俺、頑張るよ!」


 俺はそう返事をして頭を踏まれながら微笑した。部屋の中には和やかな空気が流れている。

 先生に頭を踏まれて微笑む生徒と生徒の頭を踏んで微笑む先生。

 そんな関係が変わったのは、それから一年後、俺が高卒認定試験に合格した時だった。

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