授業44 隣にいられるように

 俺は、青姉のベッドで正座をしている。


「ど、どうしてこうなった……」


 太ももに置いた二つの拳がぷるぷると震えているのを眺めて呟く。

 青姉はというと俺を部屋に置いてシャワーを浴びに行ってしまった。

 こ、これってあれだよな? 先にシャワー浴びてこいよ的なやつだよな?

 青姉がシャワーを浴びる姿を想像し、興奮して鼻血が出そうになった。


「こ、これは駄目だ!」


 すぐに頭を振って違うことを考える。

 綺麗なお花畑を思い浮かべて清らかな気持ちになり、なんとかふわふわした白いシーツが汚れるのを未然に防げた。


「あ、危なかった」


 俺は安堵して吐息を漏らす。


「なにが危なかったんだ?」

「へっ?」


 唐突に部屋の入り口の方から聞き覚えのある声で話しかけられ、俺はなんの気なしに顔を向ける。

 そこには、裸にバスタオルを巻いただけの青姉が立っていた。


「ぶふぅっ!」


 あまりに刺激的な光景に俺は思わず吹き出してしまう。

 湿った黒髪が体にへばりついて、蠱惑的な凹凸を強調していた。


「な、なんて格好してるんだよ!」


 俺は手で目を覆って遮る。

 だが、すぐに自分の中の煩悩に負けて指の隙間からハレンチな姿の青姉を凝視した。

 鎖骨に溜まっていた水滴が流れ、深い谷間へ沈んでいく。


「き、着替え持ってくの忘れてたんだから仕方ないだろ!」


 青姉は頬に朱を差し、バスタオルが落ちないように手で押さえながら俺の方へ歩いてくる。

 豊満な胸を潰すように押さえているせいでむしろこぼれてしまいそうになっていた。


「そ、そんな格好で近づかれたら、や、やばいよ」


 俺は足を崩してベッドの上を後ずさる。 


「そうは言っても、そこに着替えが置いてあるんだよ」


 青姉は言い、ベッドに膝を突き四つん這いになって迫ってくる。

 動く度に胸が揺れ、上も下も大事な部分が見えてしまいそうだ。


「……っ!」


 俺は力強く目を瞑る。

 これ以上見ると理性を保てなくなりそうだったのだ。


「鈴はどうして目を瞑って私の下着を触ってるんだよ!」


 青姉の言葉で左手の下にさらさらとした手触りがあることに気づき、俺はそれを握り込んで顔に近づけ目を開ける。

 エロチックな紫色のショーツが手の中にあった。


「くんくん」


 とりあえず匂いを嗅いでみる。


「な、なんで嗅ぐんだ! やめろ!」


 慌てて俺の手からショーツを奪おうと手を伸ばす。 


「うわっ!」


 だがベッドに突いていた手を滑らせ、青姉は体の支えを失った。


「んぐっ」


 青姉の胸に俺の顔が埋まる。

 俺は以前下着越しに味わった感触の比ではない柔らかさに包まれ、猛烈に興奮した。

 水分を吸ったバスタオルは冷たくて、甘い匂いがする。


「んんー!」

「り、鈴! んんっ! あ、あんまり、うあっ! う、動くなぁあん!」


 息が出来なくて暴れる俺の頭を抱き締めて、青姉は喘ぐ。


「あ、青姉!」


 色っぽい矯声を聞いて本当に理性の限界を迎えた俺は、体を反転させて青姉を押し倒す。

 その勢いでバスタオルが外れ、青姉は俺に裸を晒した。


「り、鈴……」


 潤んだ瞳で俺の名を呼ぶ青姉。


「ご、ごめん!」


 それを見て我に返った俺は、謝罪をして青姉の上から退き、体を見ないように後ろを向いた。


「い、いきなり押し倒すなんて、ほ、本当にごめん!」


 俺は背中を向けたままもう一度謝る。


「…………」


 青姉は返事をしてくれない。

 あ、青姉に嫌われた……。そう思った俺が泣きそうになった時だ。

 突然青姉に後ろから抱きつかれ、


「この童貞」


 と罵倒された。


 そして青姉は俺の体を後ろに引き倒し、一糸纏わぬ姿で俺の上に跨がる。


「へっ?」


 急なことに俺の思考は停止し、ただ目の前の青姉に見惚れることしか出来なかった。


「私の処女をやるから責任取れ!」


 青姉はそう言って俺の唇を奪う。


「んんっ!」


 口のなかに舌を入れられ、目を見開く。

 だがすぐにその甘く深い口付けに酔いしれ、俺は青姉を受け入れて絡み合う。


「はぁはぁ、あ、青姉……」

「はぁはぁ、り、鈴……」


 長いキスで乱れた息を整えながら見つめ合う。

 いつの間に青姉が俺に覆いかぶさるような体勢になっていた。

 一糸まとわぬ青姉の姿は本当に綺麗で、とても魅力的で、すぐにでも触れたくなってしまう。

 だが、その前にどうしても言いたいことを、ずっとずっと伝えたかった本心を青姉に告げる。


「俺、青姉が好きだよ。ずっとずっと前から。昔の青姉も今の青姉も、優しい青姉も怖い青姉も、可愛い青姉も変な青姉も。俺、青姉の全部が好きだよ。この世界のどんな人より青姉のことが好きだよ。だから、だからね……ぐすっ。お、俺が、ぐすっ……お、俺が卒業したら……うぅっぐす」


 伝えたい想いが涙に変わって溢れ出る。


「くすっ。まったく鈴は泣き虫だな」


 青姉は優しく微笑み、俺の目から流れる涙を指で拭ってくれる。

 そして包み込むような優しく甘い声で言葉を紡いだ。


「私も鈴が好きだよ。昔の鈴も今の鈴も、優しい鈴もダメダメな鈴も。かっこいい鈴も可愛い鈴も、変態な鈴もな」


 最後の部分で少しやんちゃに笑った青姉は涙を流す俺の頭をぽんぽんと優しく撫でながら続ける。 


「私も鈴の全部が好きだ。この世界のどんな人より鈴のことが大大大好きだ。だから鈴が卒業したら……」


 俺が伝えたかったことを青姉が言おうとしてくれている。


 昔から弱虫ですぐ泣く俺を助けて優しく導いてくれた青姉が今も優しく。


 だから伝えたい。


 優しくてかっこいい大好き彼女の隣にいつまでも居られるように。


――「結婚しよう。青姉、愛してる」


 青姉は少し驚いたように目を見開き、少し涙を流しながら優しく微笑んで返事をくれる。


「ああ。結婚しよう。私も愛してる」


 そして、この夜、俺達は一つになった。

 互いの甘い思いを確かめ合うように長く激しく。


「鈴、大好き!」

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