授業36 ダメダメ

「一体あなた達二人は今までなにをしていたんですか?」


 母さんに許可をもらって最後の空き部屋を自分の部屋にした薫さんが、その部屋の床に俺と青姉を正座させている。

 まさか母さんと薫さんが知り合いだったなんて思わなかった。

 なんでも母さんがまだ日本の大学で非常勤講師をしていた頃に、その大学に青姉と薫さんも通っていたらしい。そんなこと母さんは全く教えてくれなかった。

 教えてくれていたら俺も大学時代の二人に会えたかもしれないのに……。

 ちなみに薫さんの呼び方が変わったのは本人にそう呼んで欲しいと言われたからだ。


「ちゃ、ちゃんと授業してたよな?」


 隣で正座をしている青姉が俺を見て言う。


「う、うん」


 俺は頷いて青姉の言葉を肯定した。


「ならどうしてテストの点がこんなに悪いんですか?」


 ベッドに座って足を組んでいる薫さんは、手に持った短い鞭で数分前に俺がやらされたテストの紙をぺしぺしと叩いている。

 優しい薫さんが鞭を使うとは思ってなかったけど、白シャツに黒いタイトスカートを履いた薫さんに見下ろされながら怒られるのは悪くなかった。

 高低差があるおかげで薫さんが足を組み替える度に大人っぽい黒色の下着が見えている。


「怒られているのに鈴君はどうして嬉しそうにしてるんですか?」


 薫さんは訳がわかりませんと続け、眉間に皺を寄せた。

 今日の薫さんは眼鏡をかけていなかった。青姉いわく、つり目がちの目で部下の人に威圧感を与えないようにかけていただけの伊達眼鏡で、普段はあまりかけていないらしい。

 眼鏡の薫さんも魅力的なのでたまにでいいからかけてもらおう。


「ふふふっ、薫、それは鈴がドMだからだぞ。それと足を組み替える度に薫のパンツが見えてるからだろうな」


 青姉はヘと笑って足を崩しながら言う。


「み、見たんですか?」


 それを聞いた薫さんは頬を赤く染め、足を隠すように布団を被せてから俺をギロリと睨んだ。


「み、見てないですよ?」


 俺は目を逸らして斜め上の虚空を見つめる。

 青姉め、余計ことを!


「嘘つけ。ずっと薫の白いパンツ見てたじゃん」

「なに言ってんだよ青姉、白じゃなくて黒だろ。……はっ!」


 無意識で青姉の間違いを指摘してしまった俺は自分のミスに気づいて声を上げる。

 俺は隣にいる青姉を睨む。

 青姉はニタァっと悪い笑みを浮かべていた。は、謀ったな!


「み、みみみ、見たんですね」


 震える声がした方を見ると、ベッドから立ち上がり鞭を持った右手を振り上げて俺を見下ろす薫さんの姿があった。

 あっ、これ叩かれるやつだ。

 俺は悟って目を瞑る。


「え、エッチ!」

「あぐぅ!」


 薫さんの声に鼓膜を揺らされてすぐに左頬へ鈍い痛みを感じて床に倒れ込む。


「鈴君のエッチぃ!」

「あひぃっ!」


 続けざまに尻を叩かれ、俺は喘ぐ。

 薫さんに鞭で叩かれるのは、青姉に叩かれる気持ち良さとは違った気持ち良さがあった。


「へ、変な声出さないで下さい!」

「あふぅ!」

「だ、だからやめて下さいってば!」

「はぁん!」


 尻を叩かれて喘ぎ、怒られる。

 何度もそれを繰り返し、ドMと化した俺は叩かれ罵倒され恍惚の表情を浮かべていた。


「はぁはぁ、なんで気持ち良さそうな顔してるんですか! 変態ですか!」


 薫さんは息を荒らげて俺を睨み付ける。


「だからそう言ってるだろ? 鈴はドMのド変態なんだよ。その証拠に……おりゃ!」


 睨まれた俺ではなく青姉が答え、青姉はそのまま俺のお尻を軽く叩く。


「はふぅん!」


 叩かれた俺は矯声を上げて床に突っ伏した。


「ほらな?」


 ピクピクと体を震わせて間抜けな顔をする俺を青姉が指差す。

 それを見て、薫さんは汚物を見るように眉間に濃い皺を作る。


「鈴君の変態!」


 そして大声で俺を罵倒した。


「あふぅっ」


 薫さんの辛辣な言葉と見下す様な視線に快感を覚え、俺は気持ちの悪い声を出す。


「ふふっ、本当、鈴はダメダメだな」


 青姉は、隣で頬を床に擦り付ける俺のおでこをツンツンとつついて、何故か嬉しそうに笑っていた。

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