授業35 必ず
「は、はしたないところを見せてしまって申し訳ありません」
数分後、正気に戻った影宮さんが俺へ頭を下げている。
「だ、大丈夫ですから頭を上げて下さい」
「は、はい」
俺に促され影宮さんは頭を上げた。
一連の流れを黙って見ていた青姉が俺の腕を抱く力を強める。腕が青姉の双乳に挟まれて気持ちが良かった。
「鈴は私のだからな!」
そして青姉は影宮さんを威嚇した。
いつから俺は青姉のものになったんだろう。嬉しいから別にいいけど。
「そんなことより話の続きですよ!」
「そ、そんなことだと!?」
俺の言葉に青姉が噛みつき、胸ぐらを掴んでくる。
「ごめん。でも今は影宮さんがどうするつもりなのか聞く方が重要でしょ?」
「た、確かに」
怒る青姉は丁寧に説明すると手を離してくれた。
「それで影宮さん、本当にサモン委員会へは報告しなくても大丈夫なんですか?」
「大丈夫ではないですが、報告はしないので安心して下さい。私にはお二人を引き裂くことは出来ません」
影宮さんは朗らかに笑って答える。
「大丈夫じゃないってもしかして影宮さんがクビになったりするんじゃ……」
俺が心配になって聞くと、影宮さんは、
「大丈夫です。ただ、私が問題を揉み消したことに罪悪感を感じて少し気を病むだけですよ」
と笑顔のまま中々ヘビーな問題を突きつけてきた。
そんなこと言われると俺も罪悪感を感じて胃が爆発してしまう。
「あ、あの本当すいません」
キリキリと胃が痛み、俺は腹を押さえながら謝罪の言葉を口にして頭を下げる。
「いえいえ、いいんです。私なんてどうせ青先輩のしていたことを引き継いだだけの代用品でしかありませんから」
「か、薫、そうじゃない。査問委員会の会長は薫以外には務まらないと思ったから私は薫に任せたんだよ」
目を伏せ、暗く沈んだ声で自らを卑下する影宮さんを励まそうと、青姉は言葉を紡ぐ。
「そう言って私に面倒くさい仕事を押し付けて青先輩は鈴屋君と楽しい日々を送ってるんですよね」
「うぐっ」
影宮さんは険のある言い方をして青姉を追い詰める。青姉はなにも言い返すことが出来なかった。
「あ、あの影宮さん」
「なんですか?」
俺は影宮さんの名前を呼ぶ。影宮さんは光が消えて暗い赤色になった瞳をこちら向けた。
「か、影宮さんがもし良かったらなんですけど、お、俺の先生になってくれませんか?」
「へっ?」
俺の突然の提案に影宮さんは間抜けな声を出してぽかんと口を開ける。
「いや、あの、さっきから青姉のことが羨ましいって言ってたから影宮さんも専属先生になりたいのかと思って…………。あっ、もしそうだとしても俺みたいなやつの先生は嫌ですよね! すいません。やっぱり今のは無し」
「な、なります! 私も鈴屋君の、ううん、鈴君の専属先生にならせて下さい!」
俺が自分の早とちりを訂正しようとしたところで、影宮さんは俺の言葉を制止して割って入り、提案を受け入れてくれた。
「ちょっ、ちょっと待て。か、薫が鈴の専属先生になったら私はどうなるんだよ!」
青姉が机を叩きながら椅子から立ち上がって叫ぶ。
「えっ? 青姉も俺の専属先生のままだよ?」
俺は当然でしょ? と続けて青姉を見上げる。
「そ、そうか。良かった」
それを聞いて青姉は安堵したように吐息を漏らした。
「それで薫、一人の生徒に専属先生が二人なんて、そんなこと出来るのか?」
落ち着いた青姉は椅子に座りながら影宮さんに聞く。
影宮さんは難しい顔をして答えた。
「そもそも専属先生自体が実験的な取り組みですし、厳しいと思います」
「えっ」
既に影宮さんにも先生になってもらえるものだとばかり思ってた俺は、悲しみの声を出す。
「どうすれば二人で鈴の先生に……」
「そうですね……」
青姉と影宮さんは厳しい表情で考え込んでいる。二人はまだ諦めていない。
それならと、俺も方法を考え始めた。
「影宮さんが会長として専属先生の実態を調べて悪いところがないか確認するため、青姉と一緒に先生をやるっていうのはどうですか?」
思いついた考えを青姉と影宮さんに伝える。
「それ良いかもな」
「そうですね。調査が名目なら私の判断で決められるでしょうし、私も良いと思います」
二人の反応は好感触だった。
「じゃ、じゃあ影宮さんも俺の先生になってもらえますか?」
反応を見た俺は、期待を込めて影宮さんに尋ねる。
影宮さんは俺の目を見て、
「はい、必ず!」
と笑顔で答え、書類を提出しなければいけないからと帰っていった。
「鈴、気をつけろよ。薫は私の百倍厳しいぞぉ」
二人で影宮さんを玄関まで見送りリビングへ戻る途中で、ニヤニヤと悪魔のような笑みを浮かべた青姉に言われる。
「青姉も気をつけなよ。影宮さんは青姉にも厳しいからさ」
言い返し、俺もニヤっと笑う。
そして、俺と青姉は顔を見合わせ普通に笑った。
一週間後、影宮さんは満面の笑みで大量の教材が入ったスーツケースと着替えの入ったスーツケースを持って戻ってくる。
それを見てもしかしたらとんでもない人を先生にしたのかもしれない。そう俺は思った。
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