授業34 影宮さんのお説教
「いきなりすみませんでした」
冷静になった俺は向かいの席に座る影宮さんに謝罪する。ソファから食卓の椅子に移動したのだ。
「いえいえ、鈴屋君が青先輩のことを大切に思ってくれているのがわかって良かったです」
影宮さんは首を横に振って穏やかに微笑む。
「それで青先輩は鈴屋君にちゃんと謝れましたか?」
「あっ」
影宮さんに聞かれ、俺の隣に座る青姉はなにかを思い出したかのような声を出す。
青姉が俺に言わないといけないことってこれか。
「まさかまだ謝ってないんですか?」
「え、えっと、その」
睨まれた青姉はゴニョゴニョ言いながら俺をチラチラと見てくる。
「あ、謝ってもらいましたよ」
実際は謝ってもらってなどいないのだが、俺はおどおどする青姉を見かねて助け船を出した。
「本当ですか?」
影宮さんが怪訝そうな顔をして聞いてくる。
「鈴……」
青姉は俺の顔を見て目を輝かせてた。
嘘吐いてるのがバレるからやめなさい。
ほら影宮さんが疑いの眼差しで青姉を見てるから!
「ほ、本当です。青姉はちゃんと謝ってくれました!」
俺はボロを出しそうになっている青姉を必死で庇い、訴える。
「わかりました。鈴屋君が言うなら信じます」
「あ、ありがとうございます」
影宮さんは言って優しく微笑む。
良かった。納得してもらえたみたいだ。
でも、たぶん俺が嘘を吐いてることはわかった上で信じるって言ってくれたんだと思う。正直青姉の反応を見てたらバレバレだったしな。
「鈴、ありがとな。おかげで助かった」
「くくっ」
青姉は全然バレていないと思っているみたいで、コソコソと耳打ちをしてくる。
俺はあれで騙し切れてる思っている青姉が面白くて仕方がなくなり、思わず口を押さえて笑ってしまう。
「ふふっ」
影宮さんにも聞こえていたのか、口に手を当てて上品に笑っていた。
「それではそろそろ本題に入りますね」
一頻り笑った影宮さんは真面目な顔に戻って告げる。
「はい」
「わかった」
俺と青姉は椅子に浅く座り直して背筋を伸ばす。
空気がピンと張り詰めた気がした。
「鈴屋君が気を失っている間に青先輩には言いましたが、鈴屋君の予想通り、この写真の現場を目撃し写真に納めたのは私です」
胸ポケットからさっき玄関先で見せられた写真を取り出して、影宮さんは白状する。
「全く、本当に羨まし、んんっ! 不健全ですね」
続けて自分で出した写真を見て、咳き込みながら呟く。
また羨ましいって言いそうになっていた。
それが気にはなったが追及はしなかった。
「ふ、不健全ではありますが、まだ青先輩が査問委員会の査問対象になったという事実はありません。嘘を吐いてしまい申し訳ありませんでした」
影宮さんは立ち上がって頭を下げる。
「だ、大丈夫ですから、頭を上げて下さい」
恐縮した俺は立ち上がり影宮さんに体を起こすように言った。
「あ、ありがとうございます」
体を起こして席につく影宮さん。俺も座った。
「薫、嘘は駄目だぞ。嘘は」
青姉がニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら話す。
さっきバレバレの嘘を吐いてた人がよく言うよ。
「はい。申し訳ありません」
「ふふふっ。良いだろう。許してやろう」
そんな青姉にも素直に謝る影宮さんはやっぱり良い人なんだろうな。
一方青姉は影宮さんを言い負かせて上機嫌そうに笑っていた。
本当子供なんだから。
「それで青姉がサモン対象じゃないということは、青姉はこのまま俺の専属先生を続けても良いってことですか?」
俺は話を戻して影宮さんに尋ねる。
「いいえ。これでも私は査問委員会の会長です。その私が専属先生と生徒の不健全な現場を目撃した以上、このまま見過ごすことなど出来ません!」
無慈悲にも影宮さんはきっぱりと言い切った。
「そ、そんな」
青姉が悲痛の声を漏らす。
「じゃ、じゃあやっぱり青姉は俺の専属先生をやめないと駄目なんですか?」
「そうですね。私がこのことを査問委員会に報告すれば、十中八九青先輩は鈴屋君の担当から外れることになると思います」
俺が聞くと、影宮さんは淡々と冷たい声で答えた。
「い、嫌だ! 私は鈴の先生をやめたりなんてしないぞ! も、もし鈴の先生でいられなくなるなら、こんな仕事やめてやる!」
青姉は俺の腕に力強く抱きついて訴える。触れる青姉の体は微かに震えていた。
「お、俺も嫌です! あ、青姉じゃないなら、も、もう専属先生なんて要りません!」
俺は目の前の赤い瞳をじっと見据え、震える声で自分の思いを影宮さんに伝える。
「はぁ、本当にあなた達は困った人ですね」
影宮さんはやれやれといった風に肩を竦め、溜め息を吐く。
そして俺と青姉を交互に見てから、優しく微笑んで言葉を発した。
「査問委員会には報告しませんよ」
「「えっ?」」
予想外の言葉に俺と青姉は驚き、狼狽える。
「さ、さっき査問委員会の会長として見過すことは出来ないって言ってたのに大丈夫なんですか?」
「そ、そうだぞ。私達だけ特別扱いしちゃったら、か、薫の立場がなくなるんじゃないか?」
今度は影宮さんのことが心配になって俺達は質問した。
「お二人ともあれだけごねておいてよく言いますね。私が大丈夫じゃないって言ってもなにも出来ない癖に」
「「うぐっ」」
影宮さんから辛辣に言われ、俺と青姉は返す言葉がなくなって黙り込む。
「もとはといえばお二人が自分達の立場も考えずに街中でイチャイチャしてたのが原因なんですよ? そこらへんわかってますか?」
「「ご、ごめんなさい」」
正論を言われ、俺と青姉はただ自分達の非を認めて謝る。
だが、それぐらいでは説教を始めた影宮さんは止まらなかった。
「そもそも青先輩が立ち上げた計画の癖に、専属先生の制度が認められた途端全部私に押し付けて自分は幼馴染の男の子の先生になって禁断の愛ですか? ああもう羨ましい!」
「ご、ごめんなさい」
眼鏡を外した影宮さんに責め立てられ、青姉はもう一度謝罪する。
ついにはっきり羨ましいって言ったよ。
「鈴屋君も鈴屋君ですよ」
影宮さんは視線を俺の方へ移して、キリッと睨む。
やばっ、矛先が俺に向いた。
「青姉ってなんですか! 姉って! 可愛すぎるでしょ! そんな呼び方されたら誰だって甘やかしたくなりますよ!」
「ご、ごめんなさい」
勢いに圧倒されて俺は思わず謝ってしまう。でもこれ謝る必要ないことなんじゃ……。
「その上小さくて可愛いなんて、なんですか、あなたは天使ですか! それなら私も癒して下さいよ!」
キャラは崩壊してるし、もはや説教ですらない。それなのに反論出来ない迫力が今の影宮さんにはあった。
俺は影宮さんの言葉に従い、彼女を癒す方法を考えて実行する。
「か、薫姉」
上目遣いでなにかを懇願するように見て、影宮さんのことを薫姉と呼ぶ。さっきの言葉にヒントを得たのだ。
「はうぅぅぅぅ!」
影宮さんは奇妙な声を上げて机に突っ伏した。
「最……高……」
恍惚の表情を浮かべて頬を染め、艶かしい声を漏らす。
その姿は刺激的でエロかった。
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