授業31 ふ菓子
翌日、俺と青姉は昼食のきつねうどんを食べ終え、二人でソファに座ってぼーっとテレビを見るという自堕落な時間を過ごしていた。
「なぁ鈴~。お菓子取ってきてくれよぉ」
青姉が駄々っ子のような声を出して俺に凭れてくる。
腕にぐいぐいと胸を押し付けてそんなこと頼むのは卑怯だ。断れないじゃないか。
「わ、わかったよ」
俺は立ち上がってお菓子を取りにキッチンの方へ向かう。
「早くしてくれよぉ」
棚の扉を開いてお菓子を物色していると、青姉がリビングの方から催促してくる。
「はいはいわかったよ」
俺は一番手前にあったふ菓子の袋を持って青姉のもとへ。
「ってなんで寝転んでるのさ。俺の座るところないじゃん」
戻ると青姉がソファで手足を伸ばして寝転んでいた。
俺はソファの前の机にふ菓子の袋を置いて青姉を非難する。ジャージだからって無防備に寝転ぶなよな。おへそ見えちゃってるじゃん。
「ちっ、ふ菓子かよ。はむっ」
寝転んだまま舌打ちをして言い返してくる。
柄が悪い青姉は文句を言った癖にすぐ袋を開けてふ菓子を齧っていた。
「文句言うなら食べないでよ。はい、座った座った」
俺は不満を漏らし、ふ菓子を噛みながら寝転ぶ青姉の頭を持ち上げて座らせる。青姉の髪はサラサラして触り心地が良かった
「んっ、意外と美味しいな」
体を起こしながら口に含んだふ菓子を飲み込んで、青姉が呟く。
「鈴も食べてみろよ」
「俺はいいからそれは青姉が食べてよ」
ふ菓子を気に入ったのか青姉は袋から一本取り出して俺に勧めてくる。
俺はそれを丁重に断った。
「なんだ。鈴は私の勧めたふ菓子が食べられないって言うのか?」
だが、青姉はテンプレートの絡みづらい上司が如く、眉根を寄せて圧力をかけてくる。
「そ、そうじゃなくて、今はお菓子を食べる気分じゃないだけだよ」
俺はあたふたしながら言葉を紡ぐ。パワハラされる人はこんな気持ちだったのか。
「鈴の気分は聞いてない。ほら食え!」
「んぐっ」
酔ってもいないのに横暴な態度で俺の口にふ菓子を突っ込む青姉。アルコールハラスメント略してアルハラならぬ、ふ菓子ハラスメント略してフガハラだった。
俺は口の中に無理矢理ふ菓子を突っ込まれえずく。
口内はふ菓子の甘みに支配されていた。
「はぁはぁ」
なんとかふ菓子を食べ終え、俺は息を整えてから青姉に言い放つ。
「殺す気か!」
ふ菓子によって口の中の水分を奪われ、危うく喉が詰まって死ぬところだったのだ。
怒鳴るのぐらいは許して欲しい。
「あははは、ごめんごめん。鈴の反応が面白くってつい」
へらへら笑って謝る青姉。絶対悪いと思ってない。
でも俺は楽しそうに涙を流して笑う青姉をそれ以上怒れず、ただ深い溜め息を吐いた。
「はぁ……」
ピンポーン。俺の溜め息と同時に家のチャイムが鳴る。
「はーい」
青姉は笑顔のまま玄関へ駆けていく。今さっき俺をふ菓子で殺しかけた人とは思えない。
「ちょっ、なんの用か確認せずに出たら面倒なことに」
俺は慌てて青姉の後を追った。
だが遅かった。青姉は既に玄関の扉を開けてしまっていたのだ。
扉の先には腰まで伸びた赤髪を揺らめかせるスーツ姿の美女が立っている。
美女は眼鏡をかけていて知的な雰囲気を醸し出していた。
「ど、どうしてお前が……」
青姉は目を見開いて驚いている。知り合いなんだろうか?
「お久しぶりです青先輩。そして初めまして鈴屋鈴君」
赤髪の美女は話す相手に体を向けてから腰を曲げ、丁寧に挨拶をしてくれる。
体を起こす時に綺麗な赤髪を耳にかける仕草が色っぽかった。
「は、初めまして」
「……」
俺は戸惑いつつ挨拶を返す。青姉は無言で俯いていた。
「私、こういうものです」
言って、赤髪の美女は懐から手帳を取り出す。俺は近寄って手帳に書かれた文字を確認する。
そこにはこう書かれていた。
『専属先生査問委員会会長
と……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます