授業32 査問委員会会長影宮薫

「さ、査問委員会ぃ!?」


 手帳を見た俺は大声を出して驚く。


「そうです」


 赤髪の美女、手帳によると影宮さんは無表情のまま眼鏡をくいっと上げて肯定する。

 その仕草だけでバカな俺には彼女が余計知的な女性に見えた。


「それで査問委員会ってなんですか?」


 俺が聞くと、青姉と影宮さんが膝から崩れそうになる。


「り、鈴、お、お前なぁ」

「す、鈴屋君、あなたねぇ」


 体勢を立て直した二人が呆れた様子で俺を睨む。

 影宮さんはなぜか眼鏡を外していた。


「わからないならなんで驚いたんだよ!」

「わからないのならどうして驚いたのですか!」

「ひっ! ご、ごめんなさい!」


 二人に怒鳴られた俺は怯えた声で謝る。


「仰々しく見せられたから驚いた方が良いんだと思ってつい……」

「「ついじゃない(ですよ!)!」」

「ひぃっ!」


 二人は綺麗にハモって俺を怒鳴る。

 青姉だけなら慣れてるから平気だったけど、初対面の影宮さんにまで大声で怒鳴られたのが怖かった。


「はぁ……。まぁ、鈴のおかげで冷静になれたから許してやるよ」

「あ、青姉ありがとう」 


 青姉は嘆息してから俺の頭を優しくポンポンと叩いて許してくれる。

 俺は涙目でお礼を言いながら、影宮さんの鋭い眼光から逃れる為、青姉の後ろに隠れた。


「鈴屋君。どうして隠れるんですか?」


 影宮さんは赤い瞳をギロリと蛇のようにして俺を追及する。


「ひぃっ!」


 俺は丸飲みにされる蛙の気持ちになって体を震わせた。


「か、薫。鈴が怯えてるからそれぐらいにしてやってくれ」

「わかりました」


 青姉の言葉で影宮さんは眼鏡をかけ直す。

 も、もしかして俺を威圧するために外していたのかな?

 そんな疑問を抱いても、影宮さんに直接聞くなんてことは怖くて出来なかった。

 あと少し睨み続けられていたら怖すぎて失禁するところだった。青姉、本当にありがとう。俺のパンツもお礼を言ってます。


「それで薫はどうしてここへ?」


 俺のパンツのお礼など露知らず、青姉は影宮さんにここへ来た説明を求める。


「それは青先輩が査問委員会の査問対象に選ばれたからです」


 影宮さんはまたくいっと眼鏡を上げながら理由を説明した。


「私が査問対象!? どうして!」


 説明を聞いて声を張り上げる青姉は混乱しているようだった。

 査問対象……。

 あっ、サモンって召喚のことか!

 サモン対象は召喚対象で、サモン委員会はなにかした人を召喚する委員会なんだ! うん、絶対そうだ!

 でもどうして青姉はサモン対象に選ばれたんだ?

 ってそれを今青姉が聞いてるのか。

 やっと話に追いついた俺は、青姉と一緒に影宮さんが問いに答えるのを待つ。


「青先輩と鈴屋君が手を繋いで歩いているのを職員が見かけたんです。だから青先輩は査問対象になったんです。証拠はこれです」


 影宮さんは言い、スーツの胸ポケットから写真を取り出して青姉と俺に見せる。

 写真には手を繋いで楽しそうに話す昨日の俺達が写っていた。


「くっ」


 言い逃れ出来ない証拠を突きつけられ、青姉は悔しそうに下唇を噛んで俯く。


「あなた方は先生と生徒。それなのに手を繋いでデートをするなんて羨ま、んんっ! 不道徳なこと査問委員会が許しません!」


 影宮さんはビシッと青姉を指差して啖呵を切った。


 今、この人羨ましいって言いそうになったよな。それに委員会って会議とかしないと駄目なんじゃないの? それで昨日の今日で青姉をサモン対象に選ぶなんて出来るか?


 俺は不審に思い影宮さんに尋ねる。


「もしかして俺達を見かけたのって影宮さんですか?」

「ちっ、ちがっ、違いまふ!」


 否定しようとして影宮さんは舌を噛んだ。


「い、いひゃい」


 影宮さんは涙目になって舌を出す。凛とした雰囲気とのギャップに少しドキッとした。


「鈴」

「い、痛いよ青姉」


 青姉に足をぐりぐり踏まれる。


「な、なんで青姉は怒ってるの?」


 俺は訳がわからず狼狽えながら尋ねた。


「うるさい!」

「ごふっ!」


 不機嫌そうに叫んだ青姉は肘を後ろに振り抜いて後ろに立っている俺の腹を強襲する。

 ダメージを受けた俺はその場で膝をついて倒れ、青姉の尻に顔を埋めた。


「ひゃあっ!」


 青姉が甲高い悲鳴を上げて背筋を伸ばす。

 上半身をひねって尻に顔を埋める俺を確認した青姉は、汚物を見るような目で見下ろし、振り返りながら俺の腹を蹴りを入れた。


「こ、ここ、このエロバカぁぁぁあ!」

「ぐふぅっ!」


 俺は苦悶の表情を浮かべて後ろに吹き飛び床の上を転がって、最後は階段に後頭部をぶつけた。


「ぬうぅぅぅぅ!!」


 後頭部を押さえて悶絶する。完全にデジャブだ。


「ひ、人前で私のお尻に顔を埋めて、お、お前はバカか! バカなのか!」


 青姉は肩を震わせながら自らの頭に指を当てて怒鳴り声を上げる。

 誰のせいで顔を埋めたかは考えていないらしい。


「あ、青姉が肘打ちしなければあんなことには」


 俺は痛みに耐えながら反論する。


「うるさい!」


 だが青姉は聞く耳もたず理不尽にも靴箱から靴を取り出して俺の顔目掛けて放り投げた。


「うぎゃっ!」


 靴は見事に顔へクリーンヒットし床に突っ伏する。

 俺は度重なる青姉の攻撃に耐えられなくなって意識を失う。

 最後に俺の瞳に映ったのは青姉を見て口をあんぐりと開ける影宮さんの姿だった。

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