授業28 クローゼットには色々入ってる
「あー、青姉青姉青姉!」
青姉に告白した日から一週先の週末。
俺は自分のベッドの上で枕に顔を埋めて足をじたばたしていた。
だらしない顔でニヤけながら毎日あの日のことを思い出してこんな調子である。
自分でも気持ち悪いのはわかっているが青姉を見るとつい思い出してしまうから仕方がない 。
柔らかいぷるんとした唇の感触、蕩けるように甘い青姉の香り、赤く染まった顔。
全てが頭に焼きついて離れない。
俺は完全に青姉の虜だった。
「案の定その翌日に風邪をひいた青姉も可愛かったなぁ」
俺は埋めていた枕を胸に抱いて仰向けになる。
風邪をひいた青姉はデレにデレてそれはもう凄かった。
一人になるのを子供みたいにやだやだ言って俺の服を掴む姿は一生忘れない。
俺も青姉もそれぞれ一日で治る風邪だったのにその二日で最高の置き土産をしてくれた。
青姉には悪いけどあの風邪には感謝だ。
風邪さん、素晴らしい時間をありがとう。
俺は枕を抱いたまま手を合わせて感謝する。
「ってこんなことしてる場合じゃなかった」
俺は慌ててベッドから立ち上がり出かける準備を始める。
今日は先週風邪をひいたことで流れてしまった外での授業をしに行くのだ。
所謂、課外授業だな。
俺はクローゼットから服を取り出して着替える。
寒さに強い肌着の上に黒いシャツを着て、その上にダウンジャケットを羽織る。
下はジーパンに長めの靴下を履いて、これで外に出ても寒くない。
一応帽子も被っとくか。
さっきクローゼットを見た時、確か奥に帽子って書かれた箱が置いてあった。
俺はその箱を取る為にもう一度クローゼットを開ける。
あった。箱はすぐに見つかる。
こういう時ちゃんと整理しといて良かったと思うよな。
今、ひきこもりの癖にって思っただろ。
「おいしょ」
箱を取ろうとして下にあった箱を落としてしまう。
「危なっ!」
箱が足の上に落ちそうになるのを間一髪で避ける。床に落ちた衝撃で箱の蓋が取れて中身が散らばった。
「……!」
出てきた物を見て俺は目を見開く。
箱の中身は数冊の本だった。
一冊は黒髪の女性が着ているスーツを乱れさせて机の上に寝転がっている表紙に乱れ女教師と書かれている。
他にも金髪の女性が学校の制服を半分脱いでいる表紙のものや金髪でスーツを着た女性のパンツが見えている表紙あった。
……白状します。全部エロ本です。
「こ、こんなの青姉に見られたらやばい!」
俺は大急ぎで散らばったエロ本を拾っていく。
だけど人生はそんなに甘くなかった。
「鈴、準備出来たか?」
聞き慣れた声と共に扉の開く音が聞こえてくる。
俺が絶望の表情で声のした方を見ると、もちろん青姉が立っていた。
「えっ? ……えっ?」
青姉はエロ本を抱える俺を見て一瞬固まり、首を横に振ってからもう一度俺を見て、また固まった。
「鈴、な、なにしてるんだ?」
完全にドン引きした様子の青姉が聞いてくる。
「あ、青姉! こ、これは、ち、違うんだよ!」
俺は近づき必死で弁解する。
「ちょっ、変態! あんまり近づくな!」
青姉は手を前に突き出して若干後ずさりながら俺を罵倒する。エロ本を持った男に近づかれたら誰だってそうなる。
「わ、わかった。わかったから話を聞いて!」
俺は青姉から目を離さないようにしながら、ドラマで人質を捕られた警官が拳銃を床に置く時のように抱えていたエロ本を床に置く。
「は、話ってなんの話だよ。鈴が朝からエロ本を見てなにをしてたかなんて聞きたくないぞ」
「そ、そんな話しないし、べ、別になにもしてないよ! そもそもこれを持ってたのは事故なんだよ!」
「鼻の下を伸ばしながらエロ本をいっぱい抱える事故って?」
全く俺の言葉を信じる気が無さそうな目で青姉は俺を見る。
Mな俺はその辛辣な視線に少し喜びつつも、身の潔白を証明する為に今までの経緯を説明した。
――「なるほど。クローゼットから帽子の箱を取ろうとしたらエロ本の箱を落としてしまっただけだと」
「そう! だから読んでもないし、なにもしてない!」
説明を終え、俺は胸を張って言い切る。
「わかった。それは信じる」
良かった。説明を聞いて青姉も納得してくれたみたいだ。
「でも」
だが青姉は続け、俺の足元にあるエロ本を拾って、
「これ全部鈴のなんだよな?」
と言った。
「そ、それは……」
俺は誤魔化しようのない事実を聞かれて言葉に詰まる。
「違うのか? 鈴にはエロ本を借りるような友達……というか友達自体いないと思ってたんだけど、いるのか?」
青姉は追い討ちをかけて俺の逃げ場をなくす。
「いません。全部俺のです」
逃げ場がなくなった俺はあっさりと自供した。
「うわっ……すごいなこれ」
青姉は頬を軽く染めながらエロ本のページをペラペラと捲って呟く。
目の前で自分の性癖が詰まったエロ本を青姉に読まれ、俺は恥ずかしくなりながらもちょっと興奮していた。
「思ったんだけどさ」
読んでいたエロ本を閉じ、青姉は数冊の表紙を確認してからじーっと俺の顔を見て質問する。
「なんか私に似てる表紙多くない?」
「そそそ、そうかなぁ?」
俺はびくっと肩を震わせて目をキョロキョロと泳がせながら首を傾げる。
「この金髪で制服脱いでる子とか高校生の時の私に似てないか?」
「そそそ、そう?」
「この黒髪スーツの乱れ女教師ってやつも、それにほらこれも、これも!」
次々とエロ本の表紙を俺に見せ、青姉は自分に似てると主張する。
「もしかして無意識?」
青姉は半笑いで聞いてくる。
完全に図星だった。
今言われて、初めて青姉に似た人が表紙の本ばっかりに買っていたことに気づいた。
「嘘、本当に無意識なのか?」
「……っ!」
自分が無意識で青姉に似た人の本を集めていたという事実を突きつけられ、恥ずかしくなって顔だけじゃなく耳まで熱くなる。
「あは、あはははは! 鈴、お前、ふふっ、どれだけ私のこと好きなんだよ! あはははは!」
それを見て青姉は、腹を抱えてこれでもかと笑った。
「そ、そんなんじゃ……」
否定しようとして意味がないことを悟り、俺は黙り込む。
「あーもう鈴は本当に可愛いな」
青姉は言い、両手で俺の髪をくしゃくしゃと撫でた。
「ううっ……」
俺は真っ赤になっているであろう顔を隠す為に俯き、されるがまま青姉の手に髪を蹂躙される。
数分後、俺の髪の毛はボサボサになっていた。
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