第8話 デ、デートだったら泣くよ?
彼女は俺にこう言った。出来るものならやってみれば? と。これはまさしく、妹……彼女、後々ヨメとなるゆかりなさんからの挑戦状! いいでしょう。妹さんが俺からは離れられない運命だということを、証明してやろうじゃないか!
そう意気込んでいたのに、旧知の仲はライバルだった? それとも受験戦争真っただ中だから、標的を追加して俺にも痛みと苦しみを与えに来たのかな?
「これは何の真似かな? なぁ、チヒロくんや」
「高久こそ何の真似を? 俺の真似をして彼女に寄り添うつもりがあるの?」
「ハハハ! 違うぞ。俺はアレですよ? ただの付き添いであって、デートの邪魔なんかしないよ?」
何故かな? チヒロは俺の友達にしてパン仲間だったのに! つぶあんの魅力を語り合った仲なのに、どうして妹さんに寄り添うのかな。デート? デートなのかな? それはひどいじゃないか。
「おい、高久。わたし、いるんだけど?」
「も、もちろん、見えていますとも! ちっさくても可愛い……ぽっ」
「キモいし。そうじゃなくて、チヒロ君に付いて来ているのはどうしてか言え!」
「おっおおう! いえいえこれはですね、付いて来ているんじゃなく、チヒロに付き添ってあげているわけでして……決して、追いかけて来たわけじゃないんですよ?」
「へぇ……? じゃあ息を切らせているのはどうしてかな? 一時期は運動万能者にもなり得たのに、随分と落ちたよね。なーんか、がっかり。反論は?」
「いやっ、ほらあの、今はまだ正月明けじゃないですか~やだなぁ。体は春になれば本気出すんですよ? だから決して怠けているわけじゃないんだからね? 勘違いしないでよね!」
「あ? そのふざけた旧時代のツンデレ口調をこの手で閉じてやろうか? あ?」
「ひぃぃぃ!」
このやり取りは何とも久しぶりな気がした。これぞゆかりなさんであり、俺である。チヒロをここへは割り込ませない。そう思っていたのに、受験生とそうじゃない奴の強さは違うらしいです。
「高久は俺の友達だけど、今は空気くらい読むよね? 俺は花城さんとデートをしたいだけなんだよ。もちろん、高久の彼女だってことは知ってるし、奪うとかそういうつもりは無いよ? でもさ、高久みたく受験しない人間と違って、俺は必死になりたいんだ。分かるよね?」
「むっ……むむむ」
「だからさ、高久は彼氏として堂々と花城さんを信じてやってよ。デートって言ったって、そこからどうなるもんでもないんだしさ」
「わ、分かったよ。友達だしな……チヒロを信じるyo。いや、信じるよ。じゃあ、俺は行くよ」
「高久、パパにこれを持って行ってくれる?」
「え? これは?」
「うん。見れば分かるって伝えて。高久くんは見るなよ? 見たらどうなるか分かるよね……?」
「も、もちろんでございますとも! こ、この白包みをお届けしますとも」
よく分からない包みのようなものを手渡したゆかりなさんは、あっさりと俺から離れてチヒロと街へ歩いて行った。
おいおいおいー! デート? そんなバカな……こうして本物の彼氏がいるのにデートって言ってたよ? しかしこれから料理人パパさんの所に行かなきゃいけないのは事実。
まずはお店に顔を出して、包みを渡すことにしよう。それから二人の付き添いをしないと、沢山の涙が流れて前も見えなくなりそうだ。
「おっ、高久くんか。今日もよろしく頼む……ん? 何だかとても悲しそうな顔をしているがどうした? ゆかちゃんと喧嘩でもしたのか?」
「あうあうあうあう……こ、これを」
「お、おう。包み? いや、メモ書きか? なっ!? そうなのか?」
「な、なんて書いてるんですか?」
「あぁ……まぁなんだ。俺も何だかんだで高久くんに甘いからな。もちろん、娘の旦那になるってことも関係しているんだが、そのな……メモに書いてたのは……」
「な、なんて?」
ゴクッ……と唾を飲み込む音が店内に響き渡った……気がした。
「い、いや、えと……しばらく高久くんとは別の人と付き合うって書いてるんだが、これはあの、別れたのか? いや、キミの涙の量はそうじゃないと語っているか。すまん」
「はぐっはぐっ……うぐっ……ナイ、ナイテマセン。別れてないデス……」
勝負はすでに決していたのかな? ゆかりなさん……どういうつもりなの。どうして俺にこんなにも試練をお与えになられるのですか。俺が他の女子とどうにかならないとでも思っているの?
「そ、それならいいが。会いたくはないが、ゆりなにも一応話を通しておく。キミは今日は帰りなさい。そんな涙の痕を残したままではカウンターに入れられない。と、とにかく今日はいいよ。だ、大丈夫だぞ? 俺は君だから娘を託せるのであって、他の奴では認めないんだ。だから気をしっかりとな」
「ハイ……」
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