第7話 音のないゴングが鳴ったようです
モテ期が来たかどうかはさておいて、彼女と久しくまともにお話をしていない気がしている。それはもちろん、愛しき彼女のゆかりなさんのことだ。こんなにも胸が苦しい思いをしているのは、自分だけなのだろうか?
タイムリミットは高校卒業までだというのに、どうして彼女は俺に試練をお与えになられたのでしょうか。そんな焦りを抱えている俺を横目に、彼女は女子と楽し気にお話をしておいでだった。思わずじっと見つめてしまった俺の元に、願いが通じたのかは定かではないが、彼女は元ヤンばりの威勢と、不敵な笑みを浮かべながら歩み寄って来た。
「ねえ、何睨んでるわけ?」
「ふぉっ!? いやっ、そんな睨んでなんかいないよ? ただ俺はゆかりなさんと話がしたいなーと思っていただけでございまして……悪意はありませんよ?」
「へぇ? その割にはかなり見つめていただろ! 何を考えていた? 言いな!」
「す、すす……好きだ!」
「バカじゃないの? ここは教室ですけど」
「は、はい……そうでございます」
普段は教室の中でこんなことを言う俺ではないのに、隠し切れない想いが放出されてしまったらしい。どんなであれ、本当に久しぶりに彼女から声をかけられたことで、引かれるくらいの笑顔を浮かべてしまった。
「うっわ……キモ」
「こ、こらー! 何てことを言うんだ! 仮にもキミの彼氏なんだぞ!」
「――仮なの? ふぅん? 仮なんだ……」
「いや、あの……そういう意味じゃないんですよ? そこに突っ込むとか、それはあんまりだろ」
「ごめんなさい、葛城くん。わたしが悪かったです……仮の彼女なのに、冷たくして本当にごめんね」
「えっ? あの、ちょっと……」
「仮彼女でありながら葛城くんに不快な思いをさせてしまいました……わたしに出来ることがあれば何でもしますから、どうかそのお怒りを引っ込めてもらえないですか? ねぇ、葛城くん?」
「いやっ、怒ってないし! どうしてそんな他人行儀に呼ぶのかな? あ、頭を下げるとか冗談キツイなぁ……というか、教室内でそんなことやめてー!」
仮という意味は勿論そんな意味では無かったし、いつもの掛け合いのように注意をしただけなのにどうしてこうなった。気付けばゆかりなさんの周りには、女子の壁が出来ていて完全に守られているではないか。
そして俺はサトルを筆頭に、普段絡んでも来ない野郎どもから糾弾を受けまくりである。せっかくゆかりなさんの方から近付いて来たのに、俺が何したのかな?
「マリカ……何か言いたそうだけど、何?」
「ちょっと厳しすぎなんじゃないかな? 高久さんはゆかりなと話がしたそうだったわけだし、それを何であんな……」
「や、高久の為だし。わたしに甘えてばかりだと成長しないじゃん? 別にそれだけだし」
「最近突き放してばかりなんでしょ? 好きなくせにどうしてそこまでするの? そんなことだと彼の方から離れていくかもしれないじゃない」
「それは無いし。高久ってわたしのことが大好きなんだよ? いつも甘々にしていたらそれこそ彼を弱くして行くだけだし。今はそういう時だと思うんだ。マリカこそ、随分気にしてるじゃん?」
……などとゆかりなさんとマリカさんで、何かの戦いが繰り広げられるかどうかは分からないが、彼女の態度は俺を奮い立たせてくれた。こうなればマリカさんを含めて、もっと女子と仲良くしてやろうじゃないか。
そもそもが俺の言葉足らずな態度で始まったわけだし、モテ期を有効活用していこう。もっと男を磨けばきっと彼女は焦りを見せて、駆けよって来るに違いないのだ。
「ふっ、この勝負は始まったばかりだ!」
「あん? 花城と何を勝負してるって?」
くっくっく……見てろよ! 俺は君を、ゆかりなさんを振り向かせて見せるぜ!
「よく分からんけど、花城には勝てっこないんだから謝っとけよ? じゃないともう一度俺が――って、妄想モードに入ったか」
俺も花城さんと呼ぶことにしよう、そうしよう。俺も彼女も兄と妹として長かっただけに、互いの距離感が狂っているはず。まずはこれを正しい位置にする! そしたらきっと上手く行く。
女子たちの壁で見えなくなっていたゆかりなさんをもう一度見つめてみると、舌を出してふてくされていた。なにそれ可愛い!
「べーだっ! 高久のくせに」
「望むところだ!」
聞こえたか聞こえていないか分からない距離で、お互いに意地の張り合いの火ぶたが切って落とされたかもしれない。
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