セントウ
「アクマ……」
「あいつがアクマなのか……」
「シロさん!」
マチが呟いたアクマという単語にランドが呆然と立ち尽くし、フランクが前に立つシロの名前を呼んだ。
「大丈夫です、皆さんは早く避難を!」
ジッとアクマを見据え、シロは三人に避難するよう呼びかけた。それを聞き、フランクが二人の腕を掴み、林の出口へと走り出した。
「待ってフランクさん! し、しろさんが!」
「ランド! マチを担いで走れる?!」
「お、おう! 出来るぞ! マチ! シロさんは俺らのために戦ってくれるんだ、邪魔立てしちゃいけない!」
「でも……でも……」
シロは後ろから聞こえてくる遠ざかっていく声に安心しつつ、目の前の敵を見る。
灰色のどこかスライムを思わせるぶよぶよとした肉体。口が顔のみならず腹にもあり、垂れてくる粘液性の涎が地面に滴っている。数メートル離れてはいるものの悪臭が鼻を刺激し、思わず塞いでしまいたくなる。アクマの瞳は赤く、焦点が合っていない。腕は日本あるが、片方には何の肉かもしれないぐちゃぐちゃになった肉塊を持っている。
「まさかあの肉……人?」
そう思ったのはその肉塊から人の腕らしきものの残骸が見て取れたからだ。その事に思い至ってしまったシロは、吐き気を覚えた。
「なんてことを……!」
こちらを見ているのか見ていないのか、地面に降り立ってから身じろぎもしなかったアクマが、ふとその手に持っていた肉塊を頭部の口に運んだ。
ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゅ……と咀嚼音を響かせ、周囲に肉塊から出た赤黒く、紫色が混じった腐汁を撒き散らしながら咀嚼する。
シロはそれを見て思わずアクマに向かって走り出した。その手には双剣を持ち、走り抜ける形でアクマを切り裂いた。
「なっ……」
しかしその剣はアクマの身体を切り裂くには及ばず、皮一枚切り裂いたところで止まってしまった。原因は恐らく身体から分泌されている油により切れ味が著しく落ちたのだと考えられた。
血は出ていないものの、皮を切られたという実感はあるのか、アクマはシロに顔を向け、腕を振り下ろした。速度は速くないものの当たればひとたまりもないと判断したシロはバックステップで距離を取った。
振り下ろされた腕は地面を揺らし、地面にヒビを入れた。
「うっひゃぁ……」
シロはそのヒビが入った地面を見て当たった時のことを考えてしまい身震いした。
「どうやって倒すかな……剣は通用しなさそう……魔法……はあまり使えないし……弱点弱点」
弱点はないかとアクマを観察すると、剣が通りそうな部位を見つけた。
「目……やってみようか」
シロは覚悟を決めた顔をして双剣を素振りした。
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