イライ

森の中でシロは一体のオークと対峙していた。シロは双剣を目前に構え、ある男のように言葉を剣に語りかけた。


「『起きてアンドレイア』!」


 すると剣は発光――する事なく、オークが腕を振りかぶった。


「ブモオオオ!!」

「うわぁっ!」


 オークとの戦闘中、シロは以前男と対峙した際に自身が使ったと思われる力をもう一度使えないかと試していたが、それが叶う気配はなかった。間一髪オークの攻撃を避け、双剣を振るいオークを倒した。


「はぁ……うまくいかないなぁ」


 シロは魔石をオークの身体から取り出しながら呟いた。


 ジャリッ。と背後から地面を踏む音が聞こえ、シロは双剣を抜きその場から離れた。そこにはあっけにとられた表情でこちらを見ている一人の少年が立っていた。


「お、驚かせてごめん……あの、剣を下ろしてくれないかい?」


 シロはそうこちらに話す少年をジッと見て、身形を確認した。少年は腰に短剣を鞘に納めた状態でぶら下げ、服装は一般的な冒険者のする服装と同じようなものを着ていた。背中にはバックパックを背負い、顔にはごつめの大きなゴーグルをつけていた。

 シロは普通の冒険者だと判断し、剣を鞘に納めた。


「すみません、最近物騒なことばかり起きて過敏に警戒してしまいました」

「いえいえ、警戒をするのはいいことだと思いますよ……森の中では何が起きても不思議ではないですから」


 そういいつつ少年は倒れたオークに目をやった。すると感心したように頷きながら言葉を続けた。


「オークをお一人で倒されるなんて、すごいですね。普通はパーティを組んで挑まないとリスクが高くて一人でいる時は逃げる冒険者が多いのに」

「そうなんですか? 確かにオークは厄介な相手ですね……」

「厄介と言いつつもほとんど汚れていない装備、鮮やかな切り口……決めました!」


 少年はシロの言葉に頷きながらじっとシロの装備とオークを交互に見てぶつぶつと呟き、急に大声でシロに向き直った。


「へっ?」

「あなたの腕を見込んで依頼をさせてください! お願いします!」

「……依頼?」


 シロが少年に聞き返すと、なんでもここから近いところにあるタント村という村で、最近原因不明の失踪事件が相次いでいるらしい。それを解決するためにこの少年――名をフランクという――は腕の立つ冒険者に依頼するためにポルクトの街に向かっていた最中だったと語った。


「そんなことが……あ、でも今ポルクトは魔人の襲撃で被害に遭って今復興するためにギルドなんかもいっぱいいっぱいだと思う」

「では尚更シロさんにお願いしたいです!」


 シロの言葉にそれなら尚更依頼をさせてほしいと土下座の恰好を取ったフランクにおろおろと戸惑うシロ。


「わ、わかりました。わかりましたから、顔を上げてくださいっ」

「依頼を受けてくださるんですか!」

「と、とりあえず話を、詳しい話を聞きたいので、村まで案内していただいてもいいですか?」

「わかりました! ありがとうございます! 全身全霊をもってご案内いたしますね! こちらです!」


 フランクは満面の笑みで顔を上げ立ち上がると、村のある方角へ右手を伸ばして示し、先導し始めた。シロはそんなフランクの様子に苦笑いを浮かべると、魔石をポーチの中にしまい込み、フランクの後について歩き出した。


 フランクに連れられ数刻歩き、シロはタント村に到着した。そこは陰鬱な空気が漂っており、村民は見かけるが、皆元気のない暗い顔をしているとシロは思った。


「ここがタント村です! 事件が起きる前はもっと活気に溢れた村だったんですが、事件が起きて以来ずっとこんな雰囲気で……とりあえず村長のところまでご案内します! そこで詳しい依頼の内容についてお話します!」


 フランクはそう言い村長の家らしき家屋に歩いていく、シロはそれについていきながら村の様子を観察していた。

 やはり村民の顔には元気がないように見える、家屋には何の損害も見受けられないことを考えるに、本当に村民だけ失踪しているのだろう。と考えたところで、ここです、とフランクがシロに話しかけた。


「では村長にご紹介しますね。村長、入りますよー」


 フランクがノックをして扉を開け中に入る。シロもそれに続いて中へ入るが、そこには誰もいなかった。


「あれえ。おかしいな村長この時間帯はいつも家でお茶を飲んでるはず……まさか」

「大変だ! 村長がいなくなった!!」


 頭を掻きながらフランクが村長の不在について考えると、最近起きている事件に思い当たったらしく、顔から血の気が引いていく。そしてそれを裏付けるかのように、外から知らせが舞い込んできた。

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