タビダチ
いつか見た空間にいた。前と違うのは、目の前に双剣が浮いている事である。そしてその双剣が薄っすらと青緑色に輝いている。
「……ボクの双剣……」
シロが双剣に近づこうとした時、頭に少女のような声が響いた。
《ワタシの名前は『アンドレイア』ワタシの主であるイニティマー様に代わり、シロにお願いします。この世界を救ってください。その行く道にはあなたが望む答えもあるでしょう》
「あんどれいあ……? 世界を救うってどういう……あっ待って!」
少女は言うだけいい、黙してしまった。それと同時に双剣から強い光が迸り、シロの意識が途絶えた。
「はっ……!」
シロが目を覚ますと、そこは見慣れない部屋の中だった。寝ていた身体を起こし辺りを見渡すと、周囲にはベッドがいくつも並び、身体に包帯を巻きつけた人が寝ていた。
「ここは……」
「おう、嬢ちゃん目が覚めたのか」
「あなたは……?」
シロが辺りをキョロキョロ見渡していると、部屋の扉が開き甲冑を着た男が入ってきた。その男はシロが目を覚ましている事に気がつくと笑顔で歩いてきた。シロが誰かと問うと、男は眉を上げ不思議そうな顔をした。
「ん? 覚えてねえのか……俺は嬢ちゃんに命を救われたエルモンダっていうんだ。あの時は本当に助かった。ありがとう」
「エルモンダさん……いえ、あの時は無我夢中で……どこか遠くから見ているような感じで……よく覚えていないんです。ボクはシロです。よろしくお願いします。それで、あのここって」
キョロキョロと辺りを見渡すと、頭や腕に包帯を巻いた兵士の一人ががシロに手を振ったそれに会釈をして応える。あの兵士は他の兵士達に比べて負傷が軽いようだ。
「シロの嬢ちゃんだな、よろしくな。確かにあの時のシロそれとここは病院だ」
「病院……皆さん、とても苦しそうです」
「ん? ああ、そうだな。こいつらは皆この街を守るために命を賭して戦った、英雄達だな」
「上官ー恥ずかしいこと言わないでくださいよ」
「何を言ってやがる。事実だろう」
「はっずかしー」
上官の言葉にベッドで寝ていた一人の兵士が抗議の声を上げる。それに対し上官は笑みを崩さずに堂々たる態度で答えた。兵士は苦笑いをしながら言葉を残し、毛布にくるまった。
「全く……ん? シロの嬢ちゃん何をしているんだ?」
「いえ、身支度を。ボクがこの場所をずっと占領しているのは悪いかなって」
「そんなこと気にするこたぁねぇのに、律儀だねぇ。止めても行きそうな勢いだな」
「はい、ボクにはやらなきゃいけない事がある気がするんです」
シロが双剣――アンドレイアを手に取り、鞘の上から剣を撫でる。
エルモンダはそれを見て自分が助けられた時の事を思い返し、何かしら事情があるのだろう、と思った。
「わかった。退院手続きは俺がしておこう。見たところすぐにでも何かしないといけないって見えるしな。お礼と言っちゃあなんだが、そのくらいはさせてもらうぜ。あとこれを受け取ってくれ」
「ありがとうございます……! これは、ホーリーアミュレット?」
シロがエルモンダから受け取ったのは、ホーリーアミュレットと呼ばれる聖なる力を込めたお守りである。
「まあ所謂お守りだな。持ってると幸運が訪れるらしいぜ。こんな物で悪いがな、シロの嬢ちゃんくらいの年頃の女の子が何が嬉しいのかわからんくてな」
エルモンダが苦笑しつつ頬を人差し指で掻く。それにシロは笑顔で頭を下げた。
「いえ……嬉しいです。ありがとうございます、大事にしますね」
「おう。もう行くのか?」
「はい。お世話になりました」
シロがもう一度頭を下げると、俺の方こそ命を救われたんだ。気にするなとエルモンダがシロの頭をポンと叩いた。
その後シロはポルクトの街でお世話になった人々――ラニーや、女将さん、ルーナンドや行きつけとしていた飯屋の店主など――にお礼を言いに回り、次の日の明朝を迎えた。
前と同じ森の前、今度は一人でシロは立っていた。背中のバックパックには街の人々から貰った食料やポーション。腰のマジックポーチにはお金や魔石。胸にはホーリーアミュレットをぶら下げ、腰にアンドレイアを佩いている。その両柄にそっと手を添え、シロが呟いた。
「さて……行こうかアンドレイア。世界を救いに」
僅かに剣が発光した気がして、シロは微笑み、確かな足取りで歩き出した。
その目は勇気と希望、そして僅かに翠色が混じった蒼い色を映していた。
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