カクセイ
男は火の海の中に立ち、ジッと少女が埋もれているであろう瓦礫を見つめていた。
「……死んだか。期待外れだったな」
ピクリともしない瓦礫に興味を無くし男が立ち去ろうとした時、カタリと音がした。
「生きていたか……っ!?」
男が目を見開き、少女を見る。
そこに立っていた少女は先ほどまでの雰囲気とは全く異なっていた。
肩までだった銀髪は真っ白に染まり背中の中程まで伸びていた。蒼色だった瞳は少し緑ががっており、その目には先ほどまでの同様の色は消えていた。
そして特筆すべきは、その背中の翼だろう。一対二枚の光の翼を背中に生やしたその姿は、まるで神話の――。
そこまで考えたところで男は斬りかかっていた。あのまま立っていたら殺されていたと確信出来るほど少女の力は上がっていると感じだからだ。
男の剣を少女は右手の双剣で受け流し、左手の双剣で胸を狙い突き出した。それを利き手でない右手を犠牲にして男は止め、少女の腹を蹴り距離を取る。
「ふっ……ふはははは!! いいぞ小娘! やはり貴様は人間ではない! オレと同じ『イミター』だ!」
「…………」
男が少女に笑いかけるも、少女はそれに反応せずに男をジッと見据えている。
「ちっ神器に意識を乗っ取られているのか。いや、それとも主意識である小娘が意識を失ったから主を守るために動いているのか?」
「………いくよ」
少女がポツリと話すと、男に向かって左手の剣を投擲した。それを避けようと男が動いた瞬間、投擲したはずの剣を左手に持ち、右手の剣を男に振り下ろそうとしている少女が目の前に現れた。
「(転移術か……!)」
少女の振り下ろす剣を身体を捻り躱そうとするが、すんでのところで躱しきれずに右腕を斬られてしまう。
男はそのまま地面を転がり、使い物にならなくなった右腕から剣を左手に持ち変える。
「分が悪いな、今回は貴様の勝ちとしよう、小娘。今度は最初から本気で来てくれよ! では、さらばだ!」
「…………」
剣を地面に突き刺し、そこから広がる魔方陣の光に男が呑まれていくのを少女が止めようと、再度剣を投擲するが空を切り地面に突き刺さってしまう。その頃には既に男はこの場から消えており、少女は投擲した剣を拾い、敵を探しに火の海を駆け出した。
sideポルクトの兵士達
兵士達は魔物をこれ以上街の中心部に侵入させないために奮闘していた。
「ポーションをありったけ持ってこい!」
「怪我人だ! 道を開けろ!」
「魔物はあと少しだ! 皆もう一踏ん張りだぞ!」
そんな声を背に受け、少しずつ少しずつ魔物を撃退していた時だ。上空から声がした。
「そんな頑張っても意味ないのに、ご苦労なことだね〜」
「誰だ!」
上空からの声にルーナンドの上官が怒鳴ると、はぁ、と面倒臭そうにため息をつきながら、灰色の肌で癖のついた黒髪を目が隠れるほど伸ばした華奢な男が降りてきた。その手には非常に細長い剣身の細剣を持っていた。
「貴様は……魔人だな」
「ん〜そうだけど……ああ、ダメだ話すの面倒臭い。いいから死んで」
「何を言っぐぼぅ」
「上官!!!!」
男が細剣を上官に向けて振るうと、上官の身体が袈裟斬りにされたように切り裂かれた。
その様子を見た大楯持ちの部下達が男に向けて盾を向けて並んだ。
「はぁ……そんな事しても無駄なのに……めんどくさ……ん? なに?……ああ、そう、わかったよ、帰還するよ。はぁ……そういうわけだから、じゃあね」
男は急に独りで話し始め、兵士達に別れの言葉を告げると細剣を地面に突き刺し、広がった魔方陣の光と共に消え失せた。
「なんだったんだ……一体」
「がはっ」
兵士達は男が消えたことに驚き、一瞬静寂がその場を包んだが、上官の喀血する声が響き、再度騒然とし出した。
「!! 早く上官にポーションを!」
「手持ちのポーションが少なすぎる! 低級ポーションは使ったが、この傷は癒しきれない!」
「なんだと……!」
「おれの……ことは、いい……それより、まちを……まもの、を……」
「そんな……誰か! ポーションはないのか!」
「診せて」
一人の兵士が周囲の同僚にポーションを求めるが、全員持っていないと答えた。その時、いつの間にか現れた少女がその兵士に声をかけた。
「なっ……君は……」
「シロちゃん!?」
「いいから、その人を診せて」
兵士が少女に驚き、誰か問おうとした時兵士の中にいたルーナンドが少女の名前を呼んだ。シロと呼ばれた少女は先ほどと姿が異なり背中の翼は消えていた。
「皆大丈夫だ、この女の子は僕の知り合いなんだ」
「うん、ワタシはルーナンドと知り合い。だからその人診せて、このままだとその人死んじゃう」
「あ、ああ……頼む……」
「ん。任せて」
ルーナンドが周囲の兵士に説明をし、警戒を解き上官をシロに任せる流れとなった。
「じょう、ちゃん……なんで、こんなところに……」
「話さないで、このままだとあなたは死ぬ。ワタシが助けるから、黙っていて」
「……はっ……」
上官がシロに問いかけると、黙っているように言われ、その言葉に鼻で笑うことで答え、瞼を下ろした。
「それでいい。『アンドレイアの名の元に命ずる。この者に生を望む勇ましき気を与えよ』」
シロが両の手の双剣を上官に翳し、剣に語りかけるとその剣が青緑色に光り輝き、その光が上官を包んでいく。
少しの時間上官を光が包み、シロが剣を鞘に納めるとその光が上官の身体の中に染み込んでいくように消えていき、完全に消え去った時には上官の傷口が塞がっていた。
「奇跡だ……」
誰かがそう呟いた瞬間。兵士達からワッと歓声が湧いた。
「うおおお! なんだ今の魔法!? 見た事ないぜ!」
「お嬢ちゃんすごいな! 治癒魔法師だったのか!」
「シロちゃん凄いよ! 僕感動しちゃった!」
あっという間に取り囲まれてしまったシロはそれに反応せず、周囲をぐるりと見回し、こくりと頷くと瞼を閉じそのまま倒れ込んだ。
ルーナンドがシロを抱き止めるとシロが非常に多くの傷を負っている事に気付いた。
「うおっ……と、危ない危ない。シロちゃん? 意識がない……この傷……! 治療班のところへ連れて行く! 道を開けてくれ!」
「俺も一緒に行こう!」
「頼む!」
ルーナンドがシロを抱き抱え、治療班のところへ連れていくため、走りだした。
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