ケイヤク
ヒイロはシロを連れ公衆浴場へ行き、入り方はわかるか? とシロにきくとわかりません! と言うので公衆浴場の女性受付にシロをお願いし、2人は汚れた身体を清めた。
その後女性受付にヒイロとシロはお礼を言うと、ヒイロ行きつけの店へ向かったのだった。
「もぐもぐもぐもぐもぐもぐ」
「……」
「もぐもぐごっくんあむあむもぐもぐもぐ」
「……美味しいか?」
目を輝かせながら口いっぱいに料理を頬張っているシロにヒイロがきくと、頬張ったままこくこくと頷く。そんな様子をおかしく思い自然と口角があがるのに気づき、ふっと笑う。
「……もぐもぐもぐもぐごっくん。どうしましたヒイロさん? 食べないんです?」
「いや、美味しそうに食べるなと思って」
「美味しいですもん! このお肉なんか臭みが全くなくて柔らかく、一口食べれば口中に甘い肉汁が広がる……素晴らしいです!」
「そうかそうか、それを店員に言ってみな、喜ぶぞ」
そうヒイロがシロに言うと、そうか! 思いついた顔をしてキョロキョロと辺りを見渡し出した。そんなシロの後ろに人が立った。
「聞こえてましたよ〜ありがとうございます〜」
「あ! 店員さん! 全部美味しいです!」
「ぶはっ」
栗色の髪を後ろで結んだ女性の店員に気づいたシロが言った言葉に店員は微笑み、ヒイロは吹き出した。
「あ! 何で笑うんですか!」
「いや、悪い。本当に素直に言うな、と思って」
「ふふふ〜私は嬉しいですよ〜ごゆっくりどうぞ〜」
「はーい!」
「ありがとな」
こちらへ手を振りながら空き皿を厨房へ運んでいく女性店員に2人も手を振り、シロは残り少ない料理へ向き直った。ヒイロも残りの料理を平らげるために料理へ手をつけると、耳に男性客達の話し声が入ってきた。
「掲示板見たか? イミター様が現界されたらしいぞ」
「なに! それは本当か! これでこの世も安泰だな。ここ最近魔物の活動が活発化してきたしな」
「全くだ。しかしまだイミター様を発見出来ていないらしい。噂によれば黒髪の男性の姿をされているらしいが……」
「一刻も早く魔物を何とかして頂かないとな」
イミターとは何だったか、とヒイロは記憶を探るが、シロが手を合わせてごちそうさまでした。と言った事でヒイロは自分の料理を平らげていない事に気がつき、まずは目前の物を平らげねば、と手と口を動かし始めた。
「ごちそうさま。さてシロ、話を聞かせてくれるか?」
「はい」
2人は食事を済ませ、今は食後にドリンクを飲んでいる。
ヒイロがコーヒーを一口飲みシロに問いかける。シロはヒイロをじっと見つめ話し始めた。
「ボクが覚えているのは、ヒイロさんと出会う前。気がついたらあの森にいて……」
シロが言うには気がついたら森にいて、それ以前の記憶は全くと言っていいほどない。覚えいるのは自分の名前と双剣の扱い方。持ち物は双剣と、マジックポーチ。あとは少しの常識くらいだそうだ。
「本当に俺と会う少し前の記憶からしかないのか。魔石の獲り方くらいはわかるって程度か」
「はい。それで森の中を彷徨っていて、お腹が空いて倒れかけた時にヒイロさんに出会ったんです」
「なるほど……本当にフラフラだったもんな。で、とりあえず街に向かえば何かわかるかもしれない、と俺に付いて行きたかったと」
「そうですね……」
「それで、俺を雇うっていうのは?」
ヒイロがそう問うと、シロはポーチから魔石を取り出す。直径1センチのものから、5センチ程の物が5個机の上で転がる。
「ヒイロさんは冒険者だとお見受けしました。そこで、この魔石を契約料にボクに雇わせて頂きたいんです。内容としては、この街で生きていくために必要な事をボクに教える……です」
「……教える?」
「はい」
「それくらいならこれだけでいいぞ」
「えっ」
ヒイロはシロの前に転がっている1センチの魔石を一つ摘んだ。目の前にかざし、片目をつむり、開かれたもう一つの目で魔石ごしにシロを見つめる。
「それくらいならこれだけで良いって言ったんだ。実際シロがいなけりゃあのゴブリン達に襲われて死んでいたかもしれないしな。命の恩人ってわけだ。そんな人からぼったくれねえよ」
「……それはボクも同じです」
ヒイロの言い分に納得いかない様子で、軽く頬を膨らませてシロが言う。
「せめてこれだけは、これだけは貰ってください」
そう言いシロが差し出したのは5センチの魔石。森でCランクの魔石だと話していたものだ。ヒイロは差し出された手の中で煌めく青色の魔石と、シロの顔を交互に見た。
「断っても意地でも渡すんだろうな」
「え?」
ヒイロが小さな声でポツリと呟いた音はシロに届かなかったようで何を言ったんだろう、とこちらを窺うシロにヒイロは笑顔で口を開く。
「その契約、受けよう。これからはシロが俺の雇い主だ」
「……っ! ほんとですか! 受けてくれるんですか!」
「おわっ! 急に立ち上がって大きな声出すなよ……」
「わわっすみません!」
ヒイロは、シロが周りの客にぺこぺこ頭を下げるのを呆れながらも微笑みながら見つめる。そして反省したようで申し訳なさそうな顔で座ったところで口を開く。
「これからよろしくな。雇い主さん」
「シロでいいですよ! よろしくお願いします。ヒイロさん!」
こうしてヒイロはシロに雇われることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます