一方そのころ曹操は
劉備らがお人好しの袁紹を利用し、曹操をあざむいて
その日、曹操はいつものように執務室で膨大な量の資料に目を通していた。
それなりに真面目な男ではあるが、こうやってなにかを読むというのは、半分趣味のようなものだ。
いま彼が見ているのは、過去に洛陽で起こった事件の資料だった。
ぺらぺらとページをめくる手は早く、傍目には流し読みしているように見えても、彼の頭にはその内容がしっかりと刻み込まれている。
「……ん?」
曹操は読み終えて閉じた書物を置き、次に手を出そうとしたところで、なにか引っかかるものを覚えた。
そしていましがた閉じた書物を、もう一度手に取る。
それは五十年ほど前に記録された、盗品の目録だった。
最初に読んだときより、少し遅いペースでページをめくっていく。
目録には、文字だけの記録しかないものもあれば、特徴を捉えた絵が描かれているものもあった。
そしてとあるページで、曹操の手が止まった。
「これは……」
そこには2本で一対になる宝剣の絵が描かれていた。
そしてその絵が示す物を、つい最近彼は目にしていた。
「む……」
形のいい眉を寄せながら、曹操は記録に目を通す。
それは洛陽のとある商家から盗まれた品の、ひとつだった。
『我が家に伝わる宝剣でございます』
あの男は、そう言っていた。
盗品を、宝剣として子孫に伝えるだろうか?
仮にそうだとして、たかが五十年前に手に入れた物を“代々伝わる”などというのはおかしい。
いまとなっては誰も真相を知らないのだが、この宝剣を盗んだ犯人は洛陽を逃れ、
そこで宝剣を担保に金を借り、その金を逃走資金として行方をくらました。
そのとき、男に金を貸したのが、習の旦那の祖父である。
金を借り逃げはされたものの、おそらく貸した金より高価な宝剣を手に入れたということで、旦那の祖父に不満はなかった。
その後、その宝剣は習家の蔵に収められたのだが、今回の仇討ち作戦に使う小道具として、劉備に貸し出されたのだった。
そんな事情を曹操が知るわけもないが、いくら昔の話とは言え、盗品として記録されている物を持っていたのだ。
詳しい話を聞かねばなるまいと腰を上げたところに、使いの者が慌てて駆け込んできた。
「
突然の辞令だった。
至急出立せよとの念押しもある。
いまから袁紹に声をかけて、あの男を呼び出す時間もなければ、このことを後任に伝える間もない。
仮に引き継いだところで、五十年も前の事件を引き合いに出して調査する者など、曹操以外にはいないだろう。
「
その名も、おそらく偽名だろう。
だが、顔と声は覚えている。
「俺をコケにしやがって……。次に会うことがあれば、容赦はせんぞ」
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