(085)ぬいぐるみと服

 君は泣いていた。


 ぼろぼろになったテディベアを抱えて。


 僕はそこそこ手先が器用だったし、編み物も習ってたから、君のテディベアを直せた。


 君は直ったテディベアを見ると、すぐに笑顔になったね。


 お陰で、僕は自覚したよ。


「僕も誰かを、笑顔に出来るんだ」ってね。


 だから僕は、服飾の道を選んだ。


 苦心して開いた店で、最初にお客さんが来てくれた。


 それが君だった。


 君は職業柄、さまざまな服を必要としていたね。


 そしてお金持ちの娘だった君は、惜しみなく僕の仕立てる服にお金と敬意を払ってくれた。


 いつの日か、君の笑顔を独占したくなったんだ。


 けれど、神様は見ているんだね。


 バチが当たったのかな、ぱったりお客さんが途絶えちゃった。


 あの時は大変だったなあ。


 それでも君だけは、仕事とお金と笑顔を与えてくれた。


 そのお金と笑顔で、僕は救われた。


 やがて君が紹介してくれたお客さんも、ひいきになってくれた。


 おかげさまで、今は幸せだよ。


 でもね、やっぱり僕は、君の笑顔が欲しかったんだ。


 仕事だけの関係じゃあ、ありたくなかった。


 バチは当たるとも思ったけど、一度火が付いたら止まらない。


 それでも君は、僕のプロポーズを受けてくれた。


 ……今や君は、僕の新作を最初に見てくれるお客さんだよ。


 今日も、笑顔を見せておくれ。


 とびっきりの服を、用意したからさ。

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