第5話 アオヌマシズマ

いくつかリメイクされているが、やはり市川崑監督作品の「犬神家の一族」は衝撃的だった。横溝正史の原作を読んでみると内容の陰惨さはあるにしても、さほどの恐怖を感じなかった。じめじめというよりは割とカラッとした小説であったと思う。映画から受ける印象とはまた違った。


「犬神家」のあのじわじわ、ひたひたと画面からにじみ出る、なんともいえない不気味さ。大人になった今も深夜、1人で見ろと言われたら遠慮なくお断りする次第である。さすが、日本映画の金字塔。「八つ墓村」同様、見たものに強烈な印象を残す作品である。


そんな「犬神家の一族」の重要な登場人物である「スケキヨさん」。彼は戦争で負傷し、復員してくる。顔面の損傷が激しかったために母の配慮により常時、白いゴム製マスクを装着している。裕福な犬神家とあって顔に合わせた完全オーダーメイドであるが、そのピッタリ具合がまた。時折、目元からのぞく、隈取のような黒く焼けただれた皮膚が、彼の受けた衝撃のものすごさをあらわしている。そして、めっさ怖い。


当主が亡くなり、遺産相続が発生するのだが遺族の中から

「それが本当のスケキヨさんかどうかわからない(だってマスクつけてんだもん)」

という声があがる。それを聞き、怒りに眉をつりあげた松子夫人が言うのである。

「スケキヨ、この薄情な人たちにお前の顔をみせておやり!」

と。その、スケキヨにマスクをはずさせるシーンは見せ場でもある。やや黄ばんだ生活感のあるゴム製のマスクをべろりんちょ、とはがすと見るも無残に焼け爛れた、黒々した壮絶な顔があらわになるのである。居並ぶ犬神家一族ならずとも目をそむけたくなる。でも見ちゃうんだな。


で、そんなスケキヨさんであるが今、グーグルマップなんかで「スケキヨ 沼」とか検索すると、例の「二本足がにょっきり」突き出た沼にたどり着くらしい。そして他にも「スケキヨさんグッズ」としてTシャツその他が売られてもいる。スケキヨさん何気に、人気なんである。


ここからはネタバレになるので「あ、バラしやがったな。見ようと思ってたのに」という方はご遠慮ください♡


「犬神家の一族」においてかなり重要な位置をしめる彼であるが、中身はホントは別人。犬神家当主の愛人の子なんである。名前はアオヌマシズマ。当の本人から聞くとその響きに凄みがある。字で書くと青沼静馬。爆弾で声帯まで焼かれてしまっているのでその声がまた、尋常ではないしわがれ方なんである。そして、ゴムマスクの壮絶な笑顔。

「オレの本当の名前は、アオヌマシズマさ!」

と名乗ったときの悪魔的な笑顔は、昨今のタレント若手俳優にはなかなか真似できないものがあると思う。


愛人であった母の長年の恨みをはらすため、スケキヨになりすまし犬神家にやってきたシズマであったが正体をみずからバラし、そして非業の死を遂げる(言わなきゃいいのに)。ちなみにシズマとスケキヨとは叔父・甥の関係にあたる(シズマが叔父。ややこしい)。背格好も顔もよく似ているということだったが母方の血なのか、積年の恨みのせいかシズマのほうが残酷で、悪魔的な策略に長けていた。一方、本物のスケキヨはボンボン育ちなので基本、性格は温厚で律儀。それゆえに怪物のような人間に育ってしまった叔父(でも同い年)、シズマの境遇に対し罪悪感をもってしまったことが彼の弱みとなったとも思う。ちなみにスケキヨ役はあおい輝彦。彼は「あしたのジョー」でもある。


子供の頃に見てトラウマ満載の「犬神家」であるが、「カクヨム」投稿にあたりつい、その名字を拝借してしまったのはついこないだ、リメイク版の犬神家ドラマを見たからでもある。で、下の名前どうしよっかな~と思い、いろいろあてはめているうちに「どうやら字画がよさそうだ」ということで「まき子」を入れてみた。私の世代ではこう書くと裕次郎の妻「石原まき子」みたいに感じるが、まあいいだろう。ということで「犬神まき子」。


こんな感じで、ゆるゆる続けていこうと思ってます。また見てね。






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