第4話 階段の怪談
実家はとにかく、子供の頃から「怖い」ということが多かった。
どうでもいいことですぐブチ切れて怒鳴りまくる母の剣幕も怖かったし、気分屋でニコニコしてたと思ったらいきなり不機嫌になる父も訳わからんモノであった。そんな両親のもとでスクスク育つ、というわけにもいかず私はつねに神経質で、とくに音に敏感であった。そして他の子のように明るく楽しいものよりも、どちらといえば静かな闇を好む子供であった。
幼稚園の時から楳図かずお、わたなべまさこ、高階良子、山岸涼子などが愛読書だった。親が本をよく買ってくれるのでそこは恵まれていた。当時、読んでみて一番怖かったのは、条件が揃うと沼の祠から人食いの鬼人がやってくる「赤い沼」。高階良子の作品であるが、今読んでもかなりのホラーである。これ、いっそ映画化してみちゃどうか。
ある日、本屋で見て表紙から「怖いかも」と思って選んだ漫画は美内すずえの「ガラスの仮面」、第一巻。これはこれでまた、続きが楽しみなものとなった。ちなみに「ガラスの仮面」は昭和から連載されているが平成を通り越し、令和になってもまだ完結していないという「終わらない話」であり、そういう意味でミステリーでもある。そして美内作品で、オバチャンになった今も開くことができないのが「白い影法師」そして「黒百合の系図」である。山岸涼子の「わたしの人形はよい人形」と並び、私の中のホラーベストスリー大賞に輝く。
さて、小学校1年生のときに越した家は新築で、注文住宅だった。設計の段階で両親がよくケンカしていたのを思い出す。有名なハウスメーカーで、親も大きな買い物をしたから気合も入っていたのだろう。ちなみに鉄筋のその家は冬の朝になると、室内で吐く息が白かった。イメージとしては冬の体育館。んなもんで、目覚め際に間に合うように前日にヒーターのタイマーをセットしておかないと、マジ寒いなんてもんじゃなかったのである。そこはよかったのか、親。
さて、そんな家であるが庭も広く、住環境はすこぶる良かったので、夏休みの昼などは家中の窓を開け放ち、扇風機をまわしてリビングでお昼寝なんかをよくしていた。しかし、そのお昼寝が私には怖かった。寝ているとなにか、人の気配がするのである。呑気に寝てられる感じがしないのに母親たちはみな、すやすや寝ていた。そして私だけがタオルケットの下で汗ばみ、目を開けていたのである。はっきり、見たわけではない。しかし、感じるのである。何かがいて、うろついている。
しかし、それを誰にも理解されない。一度話したが「あんたは神経質だから」で片づけられた(これは、その後母のお気に入りの言葉となる)。
「私だけが変なんだ」
とも思い、寝息をたてている家族に対し
「こんな怖いところでよく寝られるもんだ」
とも思い、家族の中での疎外感はこの家でますます深まったといってもいい。
小学校高学年になろうというあたりだったか、夜9時を過ぎ、私は自室で休んでいた。ベッドに横になり、うとうとしかけていた。ドアを閉めていても階下の気配はする。母が、テレビを見ているのだ。眠る前の子供としては「まだ、誰かがおきている」という状態は安心するものがある。(なんのテレビかな・・・)そう思い、眠りにおちる寸前、階段を上がる音がした。テレビを見ながら洗濯物をたたんでいた母が、二階にそれらをもってきたのだろう。
足音が、途中で止まる。あれ?ママ、タオルでも落としたのかな?そう思った。きっとかがんで、拾ってるんだ・・・。
しかしそれきり、足音は聞こえなくなった。どう聞いても階段のなかばまでしか足音はしていない。そこで、それきり上りも下がりもしていないのである。なにやら不気味なものを感じ始めた。すると、階下から
「あははは」
という母の笑い声がする。母は、テレビを見ているのだ。だとすると、さっき階段をのぼってきたのは・・・?
その後も汗びっしょりで、しばらく寝付けなかった。割とねえ、こんなんばっかなんですよ、うちの実家。そりゃ神経も立っちゃうって。
翌朝、食卓でそのことを母に尋ねたが
「ええ?昨日二階に洗濯物?もってってないわよアタシ」
とのことで、確認したことでさらに恐怖が倍増した子供時代であった。とっぴんぱらりのぷう。
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