第2話 金貨と悪魔と
中学生時代、妖精の呼び出しにチャレンジし、失敗した。悲しかった。書いていて大丈夫か、自分とも思うが大昔そんなことを試みたのである。その時呼んでしまったのは妖精以外のナニモノかであった(と思う)。怖かった。しかしまだ、何かあきらめきれないものがあった。だって妖精、見てないし。見たいんだもん、不思議なモノを。まあ、それが純粋な動機ではあった。
「アレはさ、たぶんちゃんとした呼び出し方じゃなかったんだよ」
そう自分に言い聞かせていた。そう、あれはもとのやり方が違ってただけ。そうよそうよ。
で、次なるターゲットを決めた。それははなんと「悪魔」。ランクとしては明らかに妖精よりヤバい。手をつけていいもんじゃないと思うってか、ダメだろうそんなモノ、という未来からのオバチャンの忠告も耳に入らず、思春期の私は果敢にチャレンジしてしまうのであった。「悪魔呼び出し」に。若さとはバカさでもある。今、激しくそう思う。
やったのは2回。
1回目は水木しげる先生の「悪魔くん」関係の本を参考に。当時、まだ気軽にコンビニでコピーなんかできる時代じゃなかったので、本の上からトレーシングペーパーをかぶせて「魔法の護符」を書き写した。悪魔を使役として使う「魔法の指輪」も完全コピーの、紙のお手製。これが揃えば悪魔は私のしもべよ、ホホホ。まさしく、そんな気持ちであった。
呪文を唱えて呼び出せば、あとは金貨のザクザク詰まった袋を抱えた悪魔がやってきて、その金貨を与えてくれるというもの。しかも、タダで。そんな都合のいい話があるかと思うが、金貨に目のくらんだ少女はそれを行ってみたのである。少し肌寒くなってきた11月の、ある曇りの日であった。
手順通り指輪をはめ(紙の)、魔法の護符(画用紙貼り付け)を左手に、おごそかに呪文を唱える・・・。さすれば、ただちに悪魔があらわれて、金貨の詰まった服を置いてゆくのだ。うひひ。呪文を唱え、しばらくのち部屋のすみに、妖しく光る2つの目が見えた。それはもうはっきりと。「きた」と思った。そして、変化を待った。
しかし、それだけ。ただ、それだけで終わったのだった。
「あれ?金貨は?ねえ、金貨は?」
悪魔が来なかったということよりも、金貨がどっさり残されていないことのほうが悲しかった。なんだよう、あれだけ頑張ったのに。こうして1回目の呼び出しは、不発に終わった。
2回目の呼び出しは、なんと学校で。しかも友達と。確かその当時の愛読書、平野威馬雄さんの「魔女と悪魔の本」というものを参照に、再度行った記憶がある。いや、ちがうかも。実は2回目のことは実はあんまり覚えていない。もしかしたら「なんにもなかった」と思っていたのは本人たちだけでその実、学校に「呼び出したモノ」が今も棲みついているかもしれない・・・。いやー、すんません。
そうした経験を通し、何か変化があったかと言われれば「やってみたらなんか、興味がなくなってきた」ということは言える。「だって、なんにも起きないんだもん」という体験に基づくものである。あと、「めんどくさいから」という理由も大きい。
かように、ズブのド素人が行う呪法で、そんなひょいひょいと簡単に向うから何かがやってくるはずもないのである。あとから知ったがそのテの呼び出し、なかなかに難しいものであるとも聞く。そりゃそうだろう。
エネルギーあり余りの思春期、それだけのことに情熱を捧げてしまったのも「この世ならぬもの」への憧れと、「ここではない、どこか」への入り口を探していたところが大きい。実際、呼び出しを手伝ってくれた友達も何か共通した思いがあったと思う。
1回目のとき、金貨をどっさり持った悪魔が現れたらどうするつもりだったのか。親の住宅ローンを楽にしたい気持ちなどはサラサラなく、それを持って自分ひとりどこかに逃げたい気持ちしかなかった。実家は当時、母の干渉と父の無関心からたいへん、居心地の悪いものであった。うざかった。子供なりに
「それだけあれば、別の暮らしができる」
と心底、そう思っていた。頼ってしまったのは悪魔だったが結局現れなかったことにより、神様っているんだなとあとから思った次第である。そのテの道に走ることなくその後、なんだかだあってもまあまあ、幸せだからである。いやホント。
若気の至りというか、昔やってたバカで、マジよかったと今更ながらに思う。しかしタイムマシンがあるなら今、未来から行って過去の自分に「そんなヒマあるなら勉強しろ」と言ってやりたいとも思う。悪魔より自立をすすめたい。オバチャンが話聞いてやるから。
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