友情でも世界が滅ぶ 4

「で、結局飛ぶことになるんだな」

 ただいま飛行機に乗って上空1万メートルにおります。もう逃げられません、助けてください。

「俺も一緒に飛んでやるから我慢しろ」

 しかも男とのタンデムです。パラシュートはありません、でも熊のぬいぐるみはついてきました。

「いやこれいるぅ!?」

「クッションは付けてやるって言っただろう」

「だからってこれかよ、お前のセンスどうなってんだ!!」

「かわいいだろうが!!」

 うわ、本気で言ってる。なんでこんなとこだけ少女趣味なんだよ。

「さあ、時間も迫っている。飛ぶぞ」

「待て待て待て!!まだ心の準備が!!」

 あっ、足場がなくなった。

「うわああああああああああああああああああ!!!?」

「うるさいな。それでは見つからないものも見つかってしまうだろう」

 いきなり上空に飛ばれて平然としているほど心臓に毛は生えてねえよ。

「少しだまってろ」

「がばばばばばば!?」

 口に水ぶち込みやがったぞこいつ、窒息して死ぬわ!!

「鼻からの呼吸だけは許してやろう」

「がべ?」

 ほんとに鼻でだけ呼吸ができやがる、なんで変なとこで器用なのこいつ。もっと器用にするべきところあると思うな俺。

「しかし結構時間がかかるものだ。まどろっこしい。加速してやろうか」

「ばばば!!(馬鹿か!!)」

「そうかそうか、お前も賛成か。それでは加速するとしよう」

「ぼばべぼびびばぶびばばば!!!(お前の耳は節穴か!!)」

「はっはっは、そんなに喜ぶな」

 ダメだこいつ。全ての言葉が肯定的に聞こえる呪いでもかかってんのかよ。もう止まらねえな。

「はぁっ!!」

 自由落下を遙かに超える加速、かかるG。耐久力に劣る俺に耐えきれるはずもなくあっさりと意識はなくなりましたとさ。

「起きろ」

「ごばぁ!?」

 うわわわわわ!!陸で溺れる!?

「何を寝ている、そんなに俺の背中は心地よかったか」

「気絶してたんだよ!!お前基準で考えんな!!」

 最悪な目覚めだぜ、しかし周りを見る限りでは潜入には成功したらしいな。

「成功か」

「無論だ。俺を誰だと思っている」

 強烈な自負だな、まあそれを許されるほどのステータスを持っていることは否定しないけど。

「で、今は何時だ」

「10時半といったところだな」

 あと30分で決行か。

「だがまあ、流石に無抵抗で盗まれてくれるほど警備も甘くなかったのは誤算だ」

「え?」

「あと20秒ほどでここに何者かが来る。恐らく保有者だろうな」

「それって神遺物持ちってことだよな……?」

 そんなん来たら俺にできることないんだけど。

「もちろんそうだ、ここに居るってことはそうだな円卓の誰かということになるだろう」

 円卓。それは女王の収めるこの国の守護者。騎士号を持った貴族でありながら戦闘訓練を受け、さらに神遺物にまで選ばれたエリート中のエリート。歩く戦術兵器とまで言われる奴ら。無論普通なら勝ち目などない。

「勝てるか……?」

「誰に聞いてるんだ。このルイ・フォン・ラインバレスに言っているのか?それならば杞憂と言うほかないな。負けなどない、我が剣には誉れと勝利しか刻まれないと決まっているのだから」

「それは奇遇だな、私の剣にもこう書いてあるのだよ。【我が身には誉れを、我が敵には死を、正義は我に在り】とな」

 後ろから声、歳をとった男の声だ。おそらく50代前後だろう。

「後ろから失礼する。我が名はケイ。貴君らには不法入国と器物損壊の容疑で執行命令が出ている。命が惜しいのならば今すぐそこで腹ばいになることをおすすめする。貴君らは幸福だ。円卓の中では私が一番優しいぞ」

 侮り、ではないな。軽口を叩いてはいるが一片の油断もねえ。これは少しでも不穏な動きをしたならすぐに斬り捨てられる。

「これはこれは、歴戦の勇士と名高いケイ卿にお目見えできるとは光栄至極。一手ご指南いただけるならもっと僥倖なのですが?それとも弁舌以外はからっきしでしたかな?」

 珍しいな、ランスがこんな挑発をすることは滅多にないはずなんだが……まさか相手のせいか!?

「……貴君は……いや……貴様は……私が知らずとも我が剣が知っている。貴様の……貴様の行いによって我らが偉大なる王は失墜した……どの面下げてこの国に入ってきたと言うのだ……完全無欠にして最高最優の臣下であった貴様が……なぜだ……湖の騎士にして円卓崩壊の原因を作った者……ランスロットよ」

 神遺物にも相性がある、同じ時期や因縁を持ったものどうしが出会ったときに共鳴を引き起こす。それがどう働くかは起こってみないと分からねえ、今回は記憶の再生か……まだマシな部類だな。

「いや……今この話をしたところで意味はないか。私が聞きたいことは1つだ。何をしに来た?」

「世界を滅びから救うため、我らの王の剣を頂戴しにきた」

 あ、嘘はつかないのね。

「そうか。しからば」 

 おお?話の分かる騎士なのかな?もしかして穏便に話が進んじゃう感じかな?それなら万々歳だぞ?

「この場で死ね」

 はいダメでした。


 

 


 

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世界を滅ぼすX個の理由 @undermine

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