第2話 友情でも世界が滅ぶ

 「さあ、迎えに来た。一緒に行こうじゃないか」

 白馬と言うにはあまりにも血に濡れすぎた馬にのって鎧姿の騎士のような何かが俺に向かって手を伸ばしていた。腰に刺さった剣からは血が滴っている。 

「お前を排除した世界なんていらないだろう?だから一緒に旅をしよう。ずっと、ずっと一緒にだ」

 兜をとったそいつは良い笑顔を俺に向けていた。いや、笑顔なのは分かるが誰なのかはぼやけて分からねえ……誰だこいつ。


「はぁ……今度はこれが現実になるってのか。いやいやいや今は科学の時代ですよ?神遺物のエネルギーでだいたいのことはできるんですよ?それを騎士?馬?」

「まだ疑うのか、先日だって焔神かぐつちの件は本当に起きそうになっただろう。今回も何かしなければ本当にこうなる。これは絶対だ。今回はそれほどすぐに事が起こるというわけでもない。先んじて動くことができるから大丈夫だ」

 いや大丈夫なわけねえだろ、世界が滅ぶのにそれほど時間はかかんねえんだからな。

「ちなみに……次はいつなんだ?」

「明日の午前9時に最初の接触だ」

「十分早いわ!!明日ってお前それをすぐって言うんだろうがよ!!」

 なんなの?計画性とかないの?そんなので観測者ってできるものなの?

「だが今回は開示できる情報は多めだ。今回絡むのも神遺物だ」

「またかよ!!そんなこったろうと思ってたけどよ!!」

「絶対王剣エクスカリバー、それが今回の原因だ」

 絶対王剣エクスカリバーってそれって石に刺さって見つかってだれも抜けないから博物館に展示されてるあれか。

「あんなもん誰が抜けるってんだよ、見つかってから結構経ってるがだれも抜いてねえんだぞ」

「それが抜けるから滅ぶ案件になるんだ」

 それもそうか、抜けちまうから問題になるって訳だ。

「それじゃあエクスカリバーが抜かれなければなんの問題もないってことになるな?」

「それはそうだが……まさか……行く気なのか?」

 なんだ、察しが良いじゃねえか。

「ちょうど海外旅行がしたかった所だしな」

「君がそこまでやるのは予想外だった。確率としては非常に低いとおもっていたのだが」

 何言ってんだか、下手に人が死ぬよりは俺が動いた方が百倍いいだろうが。

「君と接続しているせいなのか君に関することの観測精度が下がっているようだな。少し気をつけよう」

「精々アシストしてくれや、俺だって世界に滅んで欲しいとは思ってねえからよ」

 海外渡航するとなったらあいつに頼むのが一番早えな。最近連絡とってなかったから通じないかもしれねえが。

「番号が変わってねえと良いが」

 これがダメだったら少しばかりの貯金を崩さねえといけなくなるからな、極力避けてえが。1コール、2コール、3コール。

「ダメか……」

「いや、あと3秒だ」

 あ、つながった。

「誰だ……この番号から電話がかかってくることは永劫ないはずだが。いたずら電話なら早まったことをしたな。お前は触れてはいけない逆鱗に触れた、死ぬ覚悟はしているんだろうな?」

 開幕早々物騒なことを立て続けにかますなあ、俺じゃなかったらどうするつもりだったんだ。こいつなら本当に消しかねないのが怖いところだけどな。

「電話にでて開口一番それはねえだろ、脅迫もいいとこだぞそれ」

「っ……!?嘘だ、幻聴だ、ありえない、死んだはずだ、希望的観測は捨てたはずだ」

 俺って死んだことになってんのか、そりゃあもみじの反応も頷けるわあ。

「俺だよ、姿くらまして悪かったな。元気だったかランス」

 ランス、俺たちの間で付けたあだ名だ。これで呼ぶのは仲間と俺くらいなもんだったからな。これで本人だとわかってくれればいいが。

「ふん……そこまで調べているとは用意周到だな。だが、それ故に腹立たしい。俺の……俺たちの英雄を騙るとは……肉片1つこの世に残らないと知れ」

 あ、これマジギレしてる時のやつだ。こいつは本気でキレると逆に冷静になるタイプだったな。懐かしい。

「我が呼び声に応えよ……湖の乙女」

「うわああああああ!!!待て待て待て!!!それはまずい!!」 

 正気かよ!!お前のそれは核弾頭みたいなもんだろうに、そんなもん撃ったらどうなるか考えなくても分かるだろうが、キレすぎだろ。

「知ったことではない、最期の瞬間まで後悔して死ね」

「ああもう!!そういうところ本当にめんどくさいなお前!!」

 えっと……どうやったら証明できる……考えろ……アレを撃つまでになにか……。

「(幼少期の思い出を話すといい、それが一番効果的だ。キーワードはカササギ公園缶蹴り三国時代だ)」

 そんな昔のことあいつも覚えてねえだろ!!

「(話さねば死ぬ)」

 くっそう!!またこのパターンかよ!!

「覚えてるかランス、カササギ公園での缶蹴り楽しかったよなあ」

「……!?」

 反応があった。いけるか。

「悪ガキ連中率いてよお、勢力争いなんてしたよな。俺とお前と後もう1人でよくやったもんだ。3国時代なんて言ってよ」

「……俺はいつもお前に勝っていた、実質2国だった」

「あ、それはお前。あのときお前ズルしてたろうが!!なんでガキの喧嘩に神遺物使ってんだコラ!!」

「勝った方が正義だと言っていたのはお前だ、だから全力を尽くしたまで」

「だからってお前、死角から水で缶をぶっ飛ばすのはねえだろ!!」

「そうしたら珪藻土で水を吸いとって対策してきたな」

「無駄だったけどな!!吸い取っても勢いが死ぬわけじゃなかったからな!!」

「くふふ……あはは……なつかしいなあ」

「何笑ってんだてめえ!!おれはまだてめえの反則許してねえかんな!!」

 思い出したら腹立ってきたわ、あいつすました顔で平気できたねえ手使いやがるんだ。それがえげつねえのなんの。

「ほんとうに……なつか……しい……なあ……」

 涙声、あいつが?

「ほんとうに……おまえなんだな……?」

「ああ、俺だよ」

「そうか……良かった……それなら大丈夫だな……お前ならなんとかできるものな」

「あ?」

「いや、もう飛ばしてしまったから」

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」

 死ぬわ、もう一回言うぞ、死・ぬ・わ。

「てめえこらなんてことしやがる!!」

「そんなに慌てるな、お前ならどうにかするだろう?。俺は今から逆探知したお前のところへと行く。しばし待っていろ」

「ちょおま……」

 切れやがった……どうすんだよこれ。今の俺にあれをどうにかできるわけねえだろ、どうしろって言うんだよ……。

「安心しろ、今回は君がすることは全くない」

「安心して死ねってか!!」

「そうではない、もう既に解決が始まっている。外を見ろ」

 外だあ?なんだと○ルトラマンでも出てきて助けてくれるってのかよ。

「なによこれ!!水のミサイル!?」

 あ、もみじだ。

「仕方ないわね!!熾きなさい」

 あ、焔神かぐつちだ。そういえばあいつ適合者だったな。回収もしてないからそりゃああいつが持ってるよな。

「全部蒸発させてあげる!!」

 さて、ここでひとつ単純な科学の話をしたいと思う。水は液体だな?そしてそれを蒸発させると気体になるな?気体は液体よりも遙かに体積が多いな?それを大量に一気にやるとどうなるかって言うと。

「きゃあああああああああああ!?」

 爆発的に体積が増えた気体が爆発さながらの現象を引き起こす。これは水蒸気爆発って言うんだ。水を炎で迎え撃つ時には気をつけるんだぞ、おにいさんとの約束だ。

「もみじ……あいつ結構馬鹿だったんだな」






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