世界は結構簡単に滅ぶ 2

「え?」

 叫んだは良いがぶっちゃけるとこの発言にどんな意味があるのかは分からない。心当たりがないとは言わないがこいつにそんな繊細な心があるようにも思えない。しかしだ、もみじの動きが止まったのもまた事実。何かの効果はあったようだ。

「ほんとうに……?」

「お、おう。本当だ」

 泣きそうな顔をされても困る、お前が何でそんな顔をするのか、そんな顔をする必要なんか無いのに、俺がいなくなるのが一番いい手段だったはずなのに。

「どこにもいかない……?」

「どこにもっていうのはちょっと」

「逃げるところ燃やそう……」

「だぁあああ!!行かないから!!落ち着け、な?」

 炎が文字通り再燃しやがった。あぶねえったらねえ。

「じゃあ約束……してくれる?」

「やくそく?いいぜ、してやるよ」

 世界丸ごと焼かれるよりは良いだろうよ。たぶん。

「もういなくならないで、おいていかないで、つきはなさないで、自分だけで背負って解決しようとしないで」

「要求多くね?」

「……燃やす」

「分かったから!!約束だ約束するから!!ほら」

 右の拳を出す、こいつなら覚えてるだろ。

「あは……懐かしいなあ……」

 俺たちの間でだけ通じる約束だ。その代わりそれを破ることは厳禁。

「約束だ」

「破ったら?」

「気が済むまでお前にこれで殴られるさ」

「死ぬまでやるから」

 わーお、目がマジだ。本気と書いてマジだ。本当に死ぬまで殴られるなこりゃ。

「でも、どうして私のところに戻ってきたの?」

「え?」

 お前が世界を焼き払うからです。とは言えねえよなあ。

「えーっと……それはな?」

 やっべ、何も考えつかねえ。どうすっかな。

「(警告、ここから対応を間違えると焔神かぐつちによる焼却が再開される)」

「ぶっ!?げほっ、ごほっ!?」

 叫んだら終わるっていったじゃねえかよ!!なんで会話次第でバッドエンド直通になるんだよ!!話が違うじゃねえかラプラス!!

「何むせてんのよ、お水持ってくるから待ってて」

「……お前本当にもみじか……なんで気遣いできるの……さては偽物か……もしかして生き別れの双子……」

「うらぁ!!」

「げふっ!?」

 前蹴りか……予備動作が見えなかった……やっぱり腕上げてやがんな……

「まったくもう……!!」

 あんな大股で歩いて行くんじゃねえよ、年頃の娘がはしたねえなまったく。それよりも今はできた時間を有効に使わねえと。

「(さっきのは良かった。これで焔神かぐつちの脅威レベルが一段階下がった)」

 はあ?なんでだよ。むしろ怒らせた気がしたんだが。

「(あれは所謂ツンデレというやつだ)」

 いや、ツンデレは照れ隠しに前蹴りを腹にぶち込んだりしませんけど?

「(いやいや、いつ見ても心の変化というものの観測は面白い。決まり切っている法則に従う森羅万象よりよほど見応えがある)」

 そういうの良いから、俺はどうしたら良い?

「(私にはこの件でこれ以上の干渉はできない。さっきのツンデレ認定が限界だった。今朝とさっきの時間停止で領分を超えすぎたから、ここから先は君に委ねる他ないんだ)」

 使えねえええええ!!!アフターサービスまできっちりやれよ!!世界だぞ、世界の存亡がかかってんだぞ!!

「(自覚が出てきたようでなによりだ、その意気でここからの試練にも立ち向かってもらえると大変うれしい)」

 だからそういうのいらないから、アドバイスをよこせって言ってんの!!

「(あと30秒ほどでさっきの娘が帰ってくる。できる限りの情報提供はするが期待はしないで欲しい。私も辛いのだ、分かっていても伝えられないのだから)」

 ばっかやろう!!俺の方が辛いわ!!

「(手始めに整えられた髪を褒めるといい。健闘を祈っている)」

 髪だあ?あの半野生児がそんな色気のあることするわけねえだろうが。だいたいそんなことができるのなら俺なんかにかまう必要もない……あれ?

「お、おまたせ」

 ……髪型変わってるな、なんかこう気合い入った感じになってる。なんなら化粧もきっちり直してきたな。ええ?褒めるの?やんなきゃだめ?

「(世界を救ってくれ)」

 ええ……つーかお前最初のほうとキャラ違うよね?なんで?

「(最初は……その猫を被っていた……あんな感じでいけばイチコロだと思ったのだが……通じないようなので楽な方にしたというわけだ)」

 ああそうですか……まあいいや。やるしかねえならやるだけか。

「なんつーか……ずいぶんと女らしくなったじゃねえか」

「……熱でもあるのかしら?救急車呼ぶ?」

「うるせえ!!滅多に褒めねえ俺が褒めてんだから素直に喜べ。本当に他意はねえよ」

「う……そ……ありえない。さては……偽物か……もしかして生き別れの双子……いやいやドッペルゲンガーかも」

 さっき俺もやったけど腹立つなこれ。

「んだよ……俺如きに褒められても嬉しくねえってか」

「んーん、すっごく嬉しい。えへへ」

 なんだよその照れ笑い、そんな顔見たことねえんだけど。本当に艶っぽくなっちゃってまあ……お兄さん感慨深いぞ。

「そうだぞ、褒められたら素直に喜んでおけ」

 そうそう、もっと小さいときはよく頭撫でてやったっけ。今も身長差があるから良いところに頭がある。撫でやすい位置だな。うん、久しぶりだし撫でてやろう。

「うりうり、相変わらず髪はさらっさらだなお前」

「うきゅっ!?」

 うきゅってお前、なんだよ面白くなってきたじゃねえの。

「なんだなんだ、撫でられて嬉しいのか。そうならそうと言えよ、そしたらいつでも撫でてやるから」

「……に?」

 珍しく声がちっせえな、聞こえねえ。

「あ?なんだって?」

「……ほんとに?いつでも撫でてくれるの?」

「おうよ、それくらいお安いご用だ」

「え……へへ……やった……」

 なんだ、めちゃくちゃしおらしいな。珍しいからもうちょっとだけ撫でてやろうじゃねえか。

「(良いぞ、今の焔神かぐつちに脅威はほぼない。世界を救ったな)」

 それは良かった、大したことしてねえけど何かどうにかなったっぽいな。

「(君はさっきの一連の動きはなんの意図もなかったのか……?)」

 ん?意図?そんなもんねえよ。いつも通りだ。

「(……君は普段から防刃ベストでも着ていたほうがいいな、ざっと見ただけでもおよそ3219通りの刺され方をしているぞ)」

 なんで!?善良な一市民なのに!?

「(まあ……これからの行動には気をつけることだ。世界を一度救った者には因果が集まりやすくなる。1つの行動が大きな意味を持つことになるのを忘れないでおいてくれ)」

へいへい。一度も二度も変わんねえよもう。

「ねえ……これから時間ある……?」

「あ?今何時だ?」

「えっと……14時だけど……」

 ふーん14時かあ……14時!?

「あ、バイト中だった……。早く戻んねえと!!」

「ちょっと待って……その……あの」

「悪い今時間ねえんだ」

 なんか要件があるっぽいな……でも時間がねえ。仕方ねえな。

「今俺はここに住んでるからなんか用事あるなら来い、あと連絡先も書いておく」

 来るときに使った地図に印と記号を書き記しておいたからまあ大丈夫だろ。

「じゃあな!!」

「あ……うん……またね」

 何で顔が赤いかは分からねえが、今は早く戻らなきゃならねえ!!

「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


ケース1 焔神かぐつちによる世界焼却  阻止成功

備考 エクストラケースの発生の可能性が浮上、注意されたし




 







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