世界を滅ぼすX個の理由
@undermine
第1話 世界は結構簡単に滅ぶ 1
見慣れた光景が全て炎に包まれている。行きつけのコンビニも、たまに寄る本屋もなにもかもが燃えている。
「あははははははははははははは!!!!」
聞き慣れた声が、聞き慣れない高笑いを上げている。
「あぁ……そこにいたんだあ……」
煤にまみれた顔はいつも見ていたその顔で、でもその笑い顔はいつものあいつとは思えなかった。
「また嫌な夢を……見た……」
こんな夢を見るのは別に初めてじゃない、毎回シチュエーションは変わっていくが見る夢は決まって世界が滅びる夢だ。いつからかそれを記録するようになった。
「これで何冊目だよ」
夢日記なんてつけてると気が狂うだのなんだ聞いたことがあるが、今のところ自分が狂ってるような気はしない。
「あのう、ちょっといいですか?」
「うおっ!?」
前言撤回。日記が喋り始めたので俺は狂ってるのかもしれない。
「お気を確かに!!自分をしっかり持って!!」
ますます危ない、日記に励まされてしまった。俺はきっと狂ってしまったに違いない。
「もうだめか……さようなら正気、ごきげんよう狂気」
「お願いがあるんです!!」
日記の、お願い、ときたか。俺の頭はずいぶんと想像力が豊かだったようだ。
「世界を救ってください!!」
「いやもう黙って……お前が喋るたびに俺の正気がガリガリ削られているんだから」
世界を救うだのなんだのっていう話にワクワクする歳はもう過ぎ去ってしまった、今はもう日々をぶらぶらと過ごすフリーターなんだ。この前なんかおっさんて呼ばれたしまだ20代なのに。
「あなたの夢が現実になります!!」
「はぁ?それはどれの話だ?見ての通りアホほど世界が滅ぶのは見てきたんだけど」
「全部です」
「はあ!?」
冗談にしてもありえない、それこそ膨大な量の終わりがあった。それが全部現実に?
「いや、ないない」
「どうしても信じてもらえませんか……?」
「信じるわけねえだろ、ありえねえんだから」
「分かりました……最初の分岐点は今日の12時です。今日のうちならば間に合いますので気が変わったら私のことを呼んでください」
黙りやがったか。今日の12時なんて俺は絶賛バイト中だっつの。そこで何がおこるんだっつの。呼べって言ったってお前の名前も知らねえよ。
「はぁ……疲れてんのかな?」
最近出た新作ゲームで夜更かししたからか?身体の衰えが辛いぜ。
「まあいいや、もう喋らねえみたいだし。バイトの支度すっか」
手元で
「うわ、今度は草薙かよ。最近になってやたらと
適合者がいなきゃまともに扱えないものなんか掘り出すんじゃねえよ。危ねえだけだろうが。核よりはマシかもしれないけどよ。
「関係ないからいいけどよ。さ、バイト行かなきゃな」
配達のバイトは割はいいけど身体きついからな、気合い入れねえとな。いきなり知り合いから紹介された1日かぎりのバイトだけど妙にバイト代がいいんだよな、合法だよなこれ?
「はーい、君が今日の担当だよね。いやー、助かったよ。ドタキャンされちゃってどうしようかとおもってたんだよね。参った参った」
「そうだったんすか、大変でしたね」
少し強面のおっさんだけどいい人そうだ、これは大丈夫だな。
「それじゃこれで最後、これを届け先までお願いね。なんかよく分からないけど高価なものらしいから気をつけて。あ、ヘルメットはちゃんと被ってね。あ、免許はちゃんと持ってる?」
「うっす、あります」
「じゃあ、大丈夫だね。いってらっしゃい」
小包、というには細長いな。指揮棒とか入ってんのか?
「12時までだから少し急いでねー!!」
「あーい!!」
12時か、今朝の幻覚にはなんか言われたが気にすることはないな。ちゃっちゃと届けてしまおう。
「えっと、場所は……ってなんだよあいつの家じゃねえか」
まだ学生だったころに少しばかりつるんでた仲間の家が届け先だった、少しくらい話せるか?
「うし、ここだな」
何度か行ったことがあるから道に迷うわけもねえ、5分前に目的地についた。呼び鈴を押す
「お届けものでーす」
「はいはーい」
扉を開けて出てきたのは赤毛をポニーテールにした女。
「え……どうして……?」
「久しぶりだなもみじ、元気だったか?」
なんだなんだ、涙目になりやがって。そんなに俺に会いたかったのかよ。仕方ねえなあ熱い抱擁でむかえてやろうじゃあねえか。
「うらぁ!!」
「げばっ!?」
顔面への回し蹴りだと……!!
「うで……あげたじゃねえか……」
「どの面下げて会いに来たのよ。燃やされないだけマシだと思って欲しいわね、どんだけ探したと……!!」
「積もる話もあるが……とりあえず受け取ってくれ……」
小包を渡す、サインを貰わねえと仕事が終わったことにならねえ。
「はいはい……。これでいい?」
「どーも、ご利用ありがとうございましたー!!」
なんか面倒な気がしたから逃げるのが吉だな。
「ちょっと待ってよ!!」
「すまーん!!またこんどなー!!」
幸い俺はバイクだ。追いつかれる心配はねえ。
「待ってよ……もう置いていかないでよ……にいちゃん……」
後頭部に熱を感じた。
「なんだ……?」
振り向くともみじに渡した小包が光り輝いている。あんな光り方をするものなんか1つしかねえ、神遺物だ。
「あれ、そんな物騒なもんだったのか……!?」
もみじの身体が炎に包まれた。
「もみじぃいいいいいいいいいい!!!!」
やばいやばいやばい!!あんなもんに触ってたら骨も残らねえ。早く助けねえと。Uターンして戻る。
「あはぁ……あははははあはははははは!!!!」
高笑いが聞こえた、顔に感じる熱とは裏腹に背筋が凍る。今朝の夢とそっくりな笑い声だったから。
「いい、いいわ!!これでもう逃がさない!!」
予感は既に確信へと変わっていた、このままでは夢と同じ事になると。
「あなたの力を見せてちょうだい。焔神かぐつち」
「やめろおおおおおおおおお!!!」
身体が動かない、まるで時間が止まったかのように。
「いかがですか?これで信じてもらえましたか?」
目の前に日記が浮かんでいる、今朝の幻覚じゃなかったのか。
「どうすればいい!!どうすればもみじを止められる!!」
「よかった、今度は話が早い。ならば今度こそ私は名乗りましょう。私の名前はラプラス、観測者です。あなたが見ていたのは私の終末演算の一部、なぜかあなたの夢につながってしまったようですが、今回は好都合でした。本来は私は見るだけの存在。しかしこれで私はあなたに干渉できるようになった。朝にも言いましたがあなたには世界の終わりを未然にふせいでもらいたいのですよ」
「分かった、分かったから!!今、俺はどうすればいい!!」
「今回のは簡単ですよ、ただ一言言えば良いのです」
「なんて言えば良いんだ!!」
「俺はお前を置いていったわけじゃない、そう叫べば今回の滅びは回避されます。ちなみに今回は焔神かぐつちによる世界焼却が行われる予定でした」
「物騒な情報どうもありがとう!!で、そう叫べば良いんだな!?」
「ええ、そうです。カウントは3つです。間髪入れずに叫んでくださいね。いきますよ、3、2、1」
時間が動き始めた。熱が戻ってくる。
「俺はお前を置いていったわけじゃねえええええ!!」
もみじの首がぐりんと回ってこちらを見た。
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