第34話 実力にはほど遠い

 ゲンブとスザクは共に無双していた。刃の傷にも成らず、垢にも成らないほど。


 ゲンブは槍を背に置いたまま、相手の武器を奪い一度に三体、四体、五体と纏めて串差していた。そして大きな魔獣には槍を用いて、魔力を乗せて一刀両断。


 スザクは精霊術で魔力を補充しつつ、指先からダンの指弾の威力を何倍にもした火力で、一度に何十体も爆発に巻き込み、風を起こし集めては指弾で爆破していた。精霊剣を持っては、光りを鞭代わりに振るい、追い込んでいた。


『此奴ら死人の軍団か?燃えた奴以外は何度でも起き上がってきおるぞ。気をつけろよスザク』


『ああ、判った。燃やせば良いかもな』


 風の術に炎を乗せて業火に変え敵陣を走り回らせた。


 一度に何百の魔物達、屍兵も含め一度に空に舞い上がった。


 ゲンブも槍を回し風を起こし、それが段々大きな渦になり、竜巻を起こした。そこへスザクの業火の渦。互いに引き付け合い火花を散らし稲妻を走らせた。巻き上げられそれでも生きていたものは回転しながら、凄い勢いで回る業火に空中で灰になっていた。


 魔族側も後衛から飛来してくる火炎弾と石に魔法を乗せた鏃を飛ばし何百何千とスザクとゲンブに襲いかかった。


 ゲンブは自身が身体全体で回転し、そのスピードで全てをはじき飛ばしながら前進していった。


 スザクは片手を前に出し、仙術を駆使し黄金の盾を出現させた。大きさは然程大きくは無い。片手で書ける円の大きさで自在に盾を変形させ、飛んで来る猛スピードの鏃を盾に吸い込ませた。弾くのでは無く”吸い込ませた”。


「考えたもんじゃ。自分の魔力の足らぬ量を、相手の攻撃から吸い取るとは」


「あまりやりたくは無い方法だが。攻めてあの魔獣をかたづける分は貯めさせて貰うよ」


「儂も体力を補う分貯めるとしよう。お前と違い儂のは全て魔力技じゃからなあ」


 スザクとゲンブは戦いながら相手の技、身体、魔法技から魔力を吸い上げては敵軍を切り刻んでいった。


 魔族の魔法攻撃が、最初は近距離から飛んできていたが、徐々に距離が遠くなった。スザクたちに届くよりスザクたちが前に攻めていく方が早いため、スザク、ゲンブの頭上を越えて行ってしまう事が多くなってきた。


「ロス、アルバ。油断する出ないぞ。此処を押さえて奴らを退けたらお前達の望むことを聞いてやろう。ただ、無理はするなよ」


 戦いながらゲンブは自分の家族のように思う郷の民、ロスとアルバを気に掛けていた。


「ほんとですか?最長老様!私はスザク様と修業の旅をしとうございます」


「俺もアルバが行くならついて行きます」


「もう!あんたはひっつき虫か」


「しょうが無いだろ。アルバは俺が居ないと何にも出来ないじゃんか」


「スザク師匠が居る前で、そんなこと言わないで。これからは何でも出来るようになるんだから」


「何回言ってきたんだよ。ついこの前も自分でやるって言ってた最長老様の大事にしてた花瓶。割ったのお前で、自分で直すって言って、出来なかったから代わりにやってやったら、元の場所においたときにお前がまた割っただろ。結局見つかって怒られたの俺だけど」


「そうよ。あんたのくっつけ方が良くなかったから、また割れたんでしょ。ほんとドジなんだから」


「そりゃ無いよ。泣き虫なアルバの面倒見てきてるんだぜ。苦労するよ」


 二人が気の抜けた会話をしている間に、スザクとゲンブはどんどん前に進んでいった。魔族の後衛が距離修正をするのに間に合わない位に。距離を間違えた”流れ弾”がロスとアルバの所へ飛んできた。


「きたきたきたあ~~~~!!アルバー!」


「あたたたたたっ」


 ”ドッカーーーーン”


「あっ、あぶね~~っ」


「この~~~!!私は頭にきたわ!行くわよロス!何人かやっつけないと気が収まらないわ!」


「あんまり前に行くと最長老様に近づいていく事になるよ?良いの?」


「うううっ、なんかモヤモヤするわあ。・・・そうだ!」


 何かを思いついたのか、アルバは徐に呪文を唱え出し、パンと叩いた両手を大きく広げた。


 手を広げた形に弓のごとく光りが反り返りながら大きくふくれあがった。


「ロス、お願いよ」


「ああ、そう言うことか。了解!」


 アルバの声でロスは理解した。


 修業中に練習していた連携技。


 ボウガンのようにアルバが引き、ロスが矢を乗せるがタイミングが難しく三回に一回は失敗する技である。


「アルバ、乗せるよ?」


「慌てて離さないでね。それでいっつも失敗するんだから」


「わかってるよ。今日は何時もより気合い入れて作った矢だから、最長老様の頭の上は軽々越えていくと思うよ」


「じゃあ、行くわよ。目標巨大魔獣。敵軍やや後方。風なし。角度上方修正五度くらい。パワーを貯めて~、発射!!!」


 アルバが引き絞り、ロスが狙いを定めて打ち出した。勢いよく飛び出した矢が巨大魔獣目がけて飛んでいった。


 それをゲンブが察知し、全てを理解した。


「彼奴ら、ちゃんと修業しておったか。十分パワーもある。だがそれでもあれにダメージを与えられるかのう」


『ゲンブ。心配ならパワーを足してやったらどうだい?』


「おお。それは良い考えじゃ。流石スザク」


 飛んでいくロス達が放った矢にゲンブが更に精霊術のパワーが加わり、矢が二回りほど大きくなった。


 火を噴きながら悠然と歩き、周囲を地獄の炎で焼き尽くし、雄叫びを上げている魔獣ヘルゴンフォルム。


 この巨大魔獣にアルバ達が放ちゲンブがパワーを上乗せした矢は、轟音と共に高い空から魔獣目がけて飛んできた。


 魔獣は受け止めようと余裕で、そのスピードを嘲笑うかのように鼻を上に上げながら雄叫びを上げた。


 ”プワアオオオオオオーーーーン”


 魔獣の鼻から出た炎の勢いと、飛んできた矢が魔獣との距離数十メートルの所でぶつかり、矢の勢いと魔獣の炎の力比べになった。


「負けるもんですか」


「アルバの執念は深いぜ!」


「何のことよ」


「何でも無いよ!」


 やがて大きな爆発音と共に辺りに炎が飛び散った。


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