第35話 実力にはほど遠い②
”ドッカーーーーーーン”
大きな爆発音と共に辺りは真っ白い煙に包まれていた。
「なかなかの威力だったな。少しはアルバたちも腕を上げたようじゃ」
ゲンブは関心しながら他の雑兵をなぎ倒していた。
対してスザクは煙の向こうを見つめていた。
魔獣ヘルゴンフォルムが今のでどのくらいダメージがあるかでザライラスの復活のレベルも計れる。
「奴も底上げしていよう。しかしまだ完全復活していないはずっ!」
将軍自ら地獄から連れてきた魔獣。それを操り自らの魔力は温存している。
「あの魔獣を操るのにどれだけ魔力をつぎ込んでいるかだな」
スザクは風を起こし、煙を飛ばした。
土煙が飛ばされ辺りの景色が露わになった。
相当な爆発を至近距離で受けた魔獣ヘルゴンフォルムは皮膚の表面は少し焦げてはいるが相変わらず悠然と牙の横から炎をまき散らしながら立っていた。
先程と少し違うのは、ヘルゴンフォルムの頭の上に何者かが立っていた。
「スザクよ、久しぶりだな。何百年ぶりか?」
「やはり復活しておったか。地獄の門番も甘い事よ」
「ふふっ。俺の細胞が動き出したら逃げ出しおったわ。それよりお前はどうだ?戦いの傷は癒えたのか?魔力の溜まらぬ身体になったであろう。体術だけではこの世界生きてはいけまい」
「お前に心配してもらうほど落ちぶれてはおらんよ。それに私もこうして生きておる。此の世に生まれ変わったお前より経験値ではあの頃より数段上がっておるよ」
「ほう。あの頃より腕を上げたと言うのか?それは楽しみだ。じっくりと楽しませて貰おう。俺のこの魔獣と一体でな」
「何だ?お前が出るのでは無いのか?それは興がそがれるなあ。久々の戦いにお前が出なくては。あのまま負け逃げする気か?」
「その挑発、受けて立ちたいがもう少し後に残しておこう。俺よりも戦いたがっているこのヘルゴンフォルムの方が大変だぞ。何せ本能でしか動かんからな。強かろうが弱かろうが容赦ないからな。頑張って倒すことだな」
「ではこうしよう。お前は魔獣を戦わせる。こちらは後方で居る者たちで相手をしようその者達が負ければ私が相手をしよう。どうだ?」
「ふん!自分で戦わぬか。貴様が出てこぬなら勝負は決まっておるだろう。魔獣の餌にもならんが、ヘルゴンフォルムの準備運動ぐらいには成るか。良かろう。掛かってこい!」
「おいスザク。どうしようと言うのだ?」
「まあ見ておれ。ロス、アルバ。それとユキノにジュノ。四人であの魔獣を攻撃して欲しい。やっつけても構わんが、ギリギリで止めるくらいで。決して全力で戦わぬように」
「師匠様。加減するにしても相手が大きい故、時間が掛かりますが?」
「そうだな。目安はこの砂時計。この砂が落ちきるまでは倒さないように」
ユキノとジュノは理解していた。が、ロスとアルバは不思議がっていた。
「倒すのに相当苦労するのが判ってる相手に加減なんて出来るの?」
「そんなのわかりきってるよ。俺とアルバは全力で。後はお姉さん達が加減してくれるんだよ。きっと」
「馬鹿ロス。全力って私たち足手纏いにならないようにするのが精一杯なのに何できるって言うのよ!」
「さっきのロスが攻撃したろ?あれしか無いんだから。あれをできる限りぶつけるしか無いよ」
ロスとアルバがそんな会話をしている頃、ユキノに葉っぱの知らせが届いた。
「もう少しでタンジ姉さんがここに来るって。それまで頑張れって!」
「良し。私は空から、ユキノは足下絡めて動きをとめて。彼女たちには炎とあの鼻の攻撃に注意させて」
「了解!上も気をつけてね」
「りょーかい」
ジュノがヘルゴンフォルムと反対側の空に舞い上がった。
ユキノがロスとアルバを呼んだ。
「あんた達は自由に訓練だと思って思いっきり攻撃して。そんで大技は出来るだけ貯めて外さないように。威力が小さくても精度を中心に考えて攻撃して。危ないと思ったら逃げなさい。良いわね」
「「アイアイサー」」
「???・・・まあ、兎に角あいつを倒すわよ。攻撃は最大の防御。あんた達、さっきのもう一回出来る?」
「はあ。でもあれが今最大攻撃なんですけど」
「あれ何発打てる?」
「んんん、20発ぐらいでしょうか?」
「いけるわね。最初の攻撃に大きめでお願い」
「はい、判りました」
「ロスって言ったっけ?あんたはアルバを護って」
「了解っす」
「じゃあ行くわよ。それ!!」
ユキノ、ジュノ、ロスとアルバ。後方組四人が攻撃態勢に入った。
ユキノは地に潜り魔獣を足止めする。文字通りの土俵を整える。ジュノは横やりの警戒と、空からの攻撃。そしてトドメは自分がと、勝手に心に決めていたりする。
ロスとアルバは控えめながら、先程打った精霊術で作った光りの球を二人で作って威力を上げる為の作業に入った。
火を噴きながら主人の命令を待つ魔獣ヘルゴンフォルム。前足で土を掻き、いつでもスタートダッシュ出来る体制をアピールしている。
「そう焦るな。雑魚はゆっくり料理してやるもの。この後にあいつが待っているのだからな。借りを返す時が来たのだ。お前と俺の敵はあそこで待っておるぞ。先ずは邪魔者を始末してからだ」
地獄で蘇り、魔獣を操る魔法を身につけ数体もの魔獣を操れるようになった。
以前、スザクと戦ったときは一体だけだったが、今は数体、数十体の魔物を操れる。
スザクはヘルゴンフォルムと他の屍兵や空を飛んでるドラゴンを見ていた。
「大きいのは奴の乗ってるあの魔獣だけか?魔力は以前より増しているようだな」
肌に感じる、押しつぶしてきそうな魔力の圧力。地響きと空気を振動させ、ヘルゴンフォルム以上に触れるだけで汚染されそうな禍々しい空気を振りまきゆっくりと前進しだした魔族ザライラス。
ヘルゴンフォルムとの戦力をスザクは小物を片付けながら分析していた。
「ユキノとジュノに頼みがある。ロスとアルバが打つ度に交互に力を補助し追加してやって欲しい。出来るか?」
「はい、師匠!彼女らを中心に攻撃すると言うことでよろしいでしょうか?」
「うむ、それで良い。頼んだぞ!」
「「了解しました!!」」
ロスとアルバの両隣にユキノとジュノが並び立ち、強大な魔獣とそれを操るザライラスと対峙する。
周りの雑魚はスザクとゲンブが大半をかたづけていた。特にゲンブは精霊術の奥義、”精霊光”を放ち、射線にいる殆どの屍兵や魔族兵は蒸発していた。
スザクも魔力を温存しながらも気の圧力で魔物軍団を壊滅させていった。
「さあ、準備はもう良いのか?そろそろはじめさせて貰うぞ。お前の弟子達の奮闘ぶりと最後を、師匠のお前が見届けるが良い」
”BWWOOOOoooonnnn”
魔獣の咆吼と共に東の魔族との世界の命運を握る戦いが、そしてダンたちの未来を占う一戦が始まった。
「アルバ、しくじっても泣くなよ」
「あんたこそ。私の影に隠れてないでちゃんと狙いなさいよ」
「別に隠れているわけじゃ・・・兎に角、いっぱい打つんだから枯れるまで頑張ろうぜ」
「私の魔力が枯れたらあんたが出しなさいよね」
「ええええっ。貸せるもんなら。そんなこと出来るの?」
「師匠に教えて貰ったんだけど、なかなか旨くいかなくて」
「何だ、まだ出来てないのか。兎に角、あの魔獣やっつけようぜ」
「私に任せなさい!さっきは旨く躱されたけど、今度こそ逃がさないんだからね!行くわよ!」
「らじゃ!」
アルバの貯めたエネルギーをロスが方向を定めて固定する二人三脚の攻撃。先程の光りの球よりわずかに大きさが増している。
二人の気力とやる気が合体し、今までゲンブに扱かれてスザクに鍛えられてきたものが開花しようとしていた。
「まだまだまだまだ。貯めて貯めて。もう少し・・」
「まだなの?まだだめ?ううううっ・・・もう、もうだめ~!」
「いまだあ!いっけ~~い!!」
とうとう発射された二人の渾身の一撃と言うべき光りの球が打ち出された。
「ジュノお願いね」
「了解!」
ロスとアルバの打ち出した光弾に上空からジュノがエネルギーを追加する。
「ロス、アルバ。次、直ぐ用意して」
「「判りました!!」」
早速次弾の用意に入った二人。ユキノは魔獣の動きとダメージを確認する。
二人の放った光弾に後ろから追加されたエネルギー波が同時に届き魔獣に襲いかかった。
立ち上がり、前足と鼻でたたき落とそうとした魔獣の鼻先を通過し前足をかすめ、ふかふかの特に体毛の濃い胸元で着弾、爆発した。
魔獣は立ち上がったまま動かず、鼻はだらりと垂れ下がっている。
「胸元に当たって爆発したから、ダメージが入ったかも。でもまだ油断しないでね、みんな。ジュノ、確認して」
「了解。念のためもう一発撃っといてって、あいつ涎垂らしてるよ」
「まだ死なないか。良いわ。ロス、アルバ。じゃんじゃん撃っていこう」
「「はい!!」」
ロス達の攻撃、ユキノとジュノの獣人の中でも達人級の攻撃。これを受けてボーッと立ち上がったまま、動かなくなった魔獣ヘルゴンフォルムを倒すことが可能なのか。
スザクはヘルゴンフォルムの動きを食い入るように見ていた。
前に戦った時の魔獣はこのヘルゴンフォルムより小さかった。スザクの攻撃を受けて、何度も飛ばされていた。しかし今の魔獣は以後か無い。ロス達の光弾も、スザクの威力には及ばないもののかなりのパワーを蓄えているはず。しかし身動き一つしない。
「相当パワーアップしてると言うことか」
スザクは魔族の軍勢の対処をゲンブに任せ木の上で座禅を組みだした。
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