第31話 久々のルコイ
久方振りの帰郷である。六歳で此処を出てもう八歳を越えた。だがまだ八歳である。しかし身体は身長、体格とも成人男子よりやや大きく、だが痩せているががっしりと鍛えられている。
ルコイに居たときよりも体重も三倍に増えた。
見違えるようになったダンを見れば村のみんなは驚くだろうと内心ダンもほくそ笑んでいた。
門に着いた時、いつもならボギーか誰かが声かけてくるのにと不思議に思いながら、門を潜り家路を急いだ。
「父さんは訓練かもなあ。母さんは事務所か何時もの洗い場だな」
ダンが歩いてるのを見て村の者は旅人が着いたぐらいにしか見ていなかった。
「あのう、母さん居ますか?」
「どちら様でしょう?」
「えっ、ミサの息子のダンですけど?」
「ご冗談を。ダン君はまだ十歳になりませんよ。あなた様のような立派な大人ではありませんが・・・どことなく似ているような。まあミサさんに会っていただきましょう。少々お待ちください」
何時もミサと一緒に洗い物をしている叔母さんは、ダンとは判らず、不思議な顔をしながらミサを呼びに行った。
「僕が判らないみたいだね」
『まあ、毎日見ている僕だってビックリするとき有るから。他の人はビックリすると思うよ』
「そうかなあ。スザク叔父さんやアベルの叔父さんは全然驚かなかったけどね」
『一、二年離れて見ると大分違うと思う。お母さんもきっと驚くよ』
ダンとライカがミサが驚くかどうかで話しているところへ、ミサが入ってきた。
「おや、もう修業は終わったのかい?ずいぶん早かったね。母さんもっと掛かると思ってたよ」
「母さん普通に・・・ただ今帰りました。けど・・・他の人は僕のこと判らないみたいだけど、母さんは普段通りだね」
「驚いてるよ。急に帰ってきたのも、お前が大きくなって帰ってきたのも」
「そんなに驚いてるようには見えないけど・・・」
『ダン。分身頼むよ』
「わかった」
ライカの希望でダンは眼を閉じ、頭の中で念じた。
ダンの身体が、ミサの目の前で輝きだし、やがて二つに分かれて輝きがすーっと消えていき、ダンの身体は分身していた。
ミサの前にダンの身体が二体。片方はダン、もう片方はライカである。
「お母さんお久しぶりです。ライカです」
「おやまあ。そんなことも出来るのかい、あんた達」
「はい。ダンが頑張ってくれたので。二人で出来るので便利ですよ」
ライカは心なしか嬉しそうに顔を綻ばせ、声を弾ませていた。
ダンはそれを見て自分も嬉しくなってきた。ライカ共々久方振りのルコイ。少し雰囲気はよそよそしいが前と同じ景色、同じ山、川。子供の頃から走り回った村がそこにあった。ただ、少し寂しく感じるのはそこにアニカが居ないことだった。
「アニカも頑張ってるみたいね。精霊様から聞いてるわよ。あんた達のことも色々教えてもらったわ。だからビックリせずに居られたのよ。聞いてなかったらたぶん腰抜かすぐらいだと思う」
「そうか。アニカも頑張ってるんだ。僕もね、ライカに作って貰ったスーツって言うやつでかなりやれるようになったよ。これで出来るだけ多くの、この世界を救えたら・・・」
「そんな気負わなくていいのよ。そう言うのは父さんやスザクさんに任せなさい。もっと強くなったらその時は。その時が来るまで修業することよ」
「さすが叔母さん。頼もしい感じ。そんな叔母さんにこれを」
「これは何?」
ライカは山の研究所から作った物をミサとマサに用意している。
「これは精霊術の応用で少ない魔力で大きな効果を狙った物なんだ。練習のために後で時間作ってやってみようか」
「ありがとう、ライカ。使わせて貰うわ」
「ところで父さんは?」
「父さんは南の国の様子を見に行ったらしいわ。精霊様から伝言されてるの。この間ガトーさんて人が来て南の国の港が襲われたらしいのよ。その対策をしに行ったみたいよ」
「そうなんだ。南の国の港かあ。遠いのかな?」
「修業が終われば飛んでいけるよ」
「あんた達はもう。ふふっ」
ミサは二人のやり取りを見て息子がちゃんと育っていることを感じているのだった。
「明日、母さんと久しぶりに訓練しようよ」
「いいよ。ダンやライカの成長を見せて貰うわ」
「僕も叔母さんの御飯久しぶりに食べたいです」
「?ライカ?御飯じゃ無くて・・明日の訓練の事なんだけど・・・」
「あっ。あははは。間違えた」
「「ぶふふあははあはは」」
ルコイの村に久しぶりに、ダンたちの笑い声が響き渡った。
夜、みんなが寝静まった頃、ライカが起きて居た。
「マサ叔父さんのためにこれを仕上げておかないと・・」
何かの装置を作っているようだった。ダンは眠っている。ライカは表に出て夜空を見上げた。
「この空では無い、違う世界の空か・・行く方法はスザクさんかダンが出来るか・・・奴はこっちには来れないのか来る必要が無いのか。まだ俺が生きていることを奴は知らない。気づいてないだけか?まだ知られてはいけない。ダンがもっと強くなるまでは」
ライカの封印されていた記憶。アベルによってその封印は解かれた。蘇った記憶の中に、ライカにとってとてつもない強敵を迎え撃たなければならない事実を思いだした。
「奴を野放しにはできない」
ライカの何か含んだ意味深な言葉と、何かを考えている言葉にダンとの共通の敵への警戒を決意に代えていた
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