第24話 試作品一号

 ダンとライカの修業は練度を増し、段々過激になり、爆発と言うより瞬間と点。時間と空間。後に陣取り合戦の様相になってきた。


『今日はそれまでじゃ』


「だいぶ長持ちするようになったね。分身」


「ライカも動きがスムーズになってきたね」


「こんな修業が出来るの、ダンが強くなってくれた御陰だよ」


「この修行の成果で二倍早く修業できるんだから」


「そうだね。あとは・・僕の研究の成果を見せる番だね」


「出来たの?」


「まだ実験で旨くいっただけだから。テストしないと・・・」


「やろうやろう。すぐ、すぐ」


「ちょっと待って。じゃあ、これから仕上げて見るから明日テストしよう」


「わかった。明日、楽しみは明日に取っておくよ」


 先日のライカへのアベルの治療でかなりライカの封印が解け、有ることを思いだし実行に移していた。


 ダンと分身を使ったサクヤとの戦闘の際に、サクヤの身体に触れたとき懐かしい思いが過ぎった。


 アベルに記憶の封印を解く回復術を施して貰い、ダンとアベルの二人で記憶に掛かる封印の靄を消して貰った。


『これでライカの記憶も戻ってくるじゃろう。母親との記憶が切っ掛けとは、母は強じゃのう』


「母さんか・・・」


「これから少しずつ思いだせば良いよ。今まで以上に」


「ありがとうダン。これから仕上げるから、ダンは修業の続きしてて」


「わかった。どんなのが出来るのか超~楽しみ~!」


「任せてよ!って大きな声では言えないけどね」


 アベルもダンもどんな物が出来るのか期待して待つことにした。


 その間もダンの修業は続き、ダンは手刀でライトセイバー並みの切れ味を手に入れた。


 身長もほぼ大人並みに大きくなった。


 魔力量も元々多かった上に回復力も早かったが、体力と共にこの山に来たときとは比べものにならないくらい多くなった。


『此奴。スザクを魔力量で超えて居る。スザクの技の多さを考えればまだまだじゃが、良い勝負になるかものう』


 大黒龍アベルナーガをして互角と言わしめるダンの異常な成長ぶりを感じていると同時に、心配もしている。


『これだけの強さをもっと押さえ込まなければ、今日じゃに感じ取られるやも知れん。特に魔族になあ』


 アベルはダンの強さの信頼と引き替えに戦いの日が浅い脆さを心配するあまり結界を思わず強くしてしまっていた程である。


 夜、久しぶりにダンは星を眺めていた。


「いつぶりだろ。こうやって星を眺めるのって」


 時折、満天の空を刀で切るような鋭い光りが横切り、目で追っては数を数えていた。


「今のが35個目。あの流れ星は何処から来て何処へ行くんだろう?」


 そうやって他愛も無い事を考えて、上を見上げていた。


「何を考えているのかな?彼女のことかな?」


「うわッ、びっくりしたあ。サクヤさんか。か、彼女なんかいませんてばッ」


「おんやあ?何慌ててんのかな?私、知ってるんだけどなあ」


「なっ、何を知ってるんですか。何を!」


「言っちゃおっかなあ~。アニカって言ったよね。エルフの郷で修業してる女の子。ダン君のこと心配してたわよ」


「ええ、アニカが?無事に付いたんだ」


「そうよ。そして、その修業教えているのが凄い人よ。ビャッコって言う仙人らしいんだけど。スザク師匠よりも強いって、エルフの最長老様が言ってたわ」


「ううわあ~!これはこの先また勝てないわあ~。今までもそうだったけど」


「でしょでしょ。女は強いのよ。ダン君も強いけど、もっと修業しないとアニカに勝てないどころか、守って貰う嵌めになるわよ」


「それだけは絶対に阻止しないと、一生頭上がらなくなるから。明日からもうちょっと修業量増やすよ」


「おややっぱり。一生ですか?そんな感じね?へ~」


「あ!そんな意味じゃ、あの、そのそんなんじゃ・・・」


「いいのよ、誤魔化さなくても。この先長いんだし友達多い方が楽しいでしょ。仙人修業済んだら他の人間は死んで誰も知らないんだから」


「仙人修業って?」


「ダン君聞いてないの?今やってる奴も、仙人修業って言ってあらゆる魔法の属性を、そうね壁を取り払う。例えば陰と陽みたいな両極の、本当は出来ない両属性の習得を可能にする修業よ」


「それでスザクの叔父さん、凄い魔法使えるんだね」


「そうよ。でもね。仙人修業を終えた皆がそれを出来るとは限らないの。魔力が少なかったり、属性の変換に時間が掛かりすぎだったり。師匠やダン君みたいに無詠唱や仙人モードで長く戦闘時間を過ごしたりは、なかなか出来ないわ」


「サクヤお姉さん達も修業したの?」


「仙人修業?やったわよ。五十年修業した。今でもそうだけど、この修業は終わりが無いし長生きだから。他にすることないし」


「五十年も?仙人って何年生きるの?」


「もしかして私の歳を聞きたい?」


 ダンはデジャビュを見た気がした。以前タンジやクニにも同じ質問して攻められ御飯抜きになった。


「大丈夫よ、警戒しなくっても。慣れてるし。それに私はエルフだから元々長生きだし、師匠ほどでは無いけど、今二百歳かな。普通の耳長族のエルフよりは長生きすると思う」


「お姉さんエルフだったんだ。道理で綺麗だと思った」


「あらま、この子可愛いこと言うわね。そんなこと聞いたらからかえなくなるじゃないの」


「僕ももしかして長生きするんなら、お姉さん達とも仲良く友達で居たいから」


「友達かあ。お姉さんとしては、ダン君の格好良くなった大人の姿が見てみたいかなあ。アニカちゃんには内緒だよ」


 ダンは首が千切れそうなくらい横に振った。


「そ、そんなこと言えません」


「八人衆の中でも誰がダン君のお姉さんになるか。順位を競うって事になってるから。お姉さん達も頑張るからね」


「うわあ。はは。期待してますう。はははっ」


「ダン、ちょっと良いかな」


「ライカ!出来たの?」


「うん。あくまで試作品だけど。性能や使い方は使いながら説明するよ」


「うん判った。じゃあ、分身解除!!」


 ライカの、ダンの分身体が光り、そしてダンの身体へ吸収されていった。


「あんた達、何でもありね」


「それはスザクの叔父さんでしょ」


「あの人も別格、いやダン君も相当よ」


「そう言われると嬉しいやら。聞きようによっては人間を否定されているような」


「はい。否定してます」


「そんなあ」


「嘘よ。お互い仙人修業に入った時点で、人間やめる修業してるんだから。どっちかって言うと精霊様か神様に近づいてるんだから」


「ははっ、スザクの叔父さんは神様かもね」


『ダン、これ着たらもっと神様に近づくかもよ』


「「ん??」」


『さあ早く』


「これを着るの?この派手な奴を?」


『デザインは手直しするから。今は黙って我慢してて。一度裸になってそれを足から着て欲しいんだ』


「えええ。裸でこれを着るの?此処で?」


『そう、此処で』


 しょうが無いなと、言いつつダンは服を脱ぎだした。


「ち、ちよっと、何してんの?私が居る前で、はだ、裸になって何する気?」


 サクヤは顔を真っ赤にしながら両の手で覆い隠し、それでも指の間からちらちらと覗き見ていた。


 足を通し、そして手を袖に入れて喉まで隠れる襟元に圧迫感を感じつつ、身体に張り付くフィット感を感じた。


『サクヤさん、ダンのジッパー上げて貰えますか』


「ああはいはい。こ、これを引き上げれば良いのね」


『そうです。お願いします。あ、その前に。ダン、そこのブーツとグローブ付けといてね』


「これでいいかな。良し。履いたしグローブ?変わった手袋だね。はい付けた」


『ではサクヤさん、お願いします』


「行きます」


 サクヤはライカの念話の合図で、ダンのジッパーを顔をほんのり赤く染めながら引き上げた。


 その途端!


「何も変わらないよ。どう?お姉さんこのライカが作った服?」


「きゃあーーーー!ダン君!」


「どうしたの?」


「お願いだからあっち向いて!」


「???」


 ダンは何が何だか判らず、下を見た。そこには今着たはずの服が無かった。


「何これ!今着た服は?どうなったの?」


 慌てて前を隠しながら、ライカに確かめた。


「ごめん。言うの忘れてた。スーツが機能した瞬間に身体と一体化するから使うとき以外見えなくなるんだ」


「「先に言え!!」」


『ごめん』


「兎に角これの使い方、どうすれば良いの?いつも裸にならないといけないの?」


『普段はいつもの服とかで良いんだ。戦闘の段階で入れ替わるから』


「じゃあ、今は服着てて良いんだね?」


『はーい。お願いしまーす。すいやせんしたあーっ』


「何処の運動部だよ。サクヤさんごめん。もう大丈夫だから」


「んん、うおほん。ああびっくりした」


『サクヤさん、指の間からちらちら・・・』


「痛い痛い。僕じゃ無いから。ライカだから・・・」


「ほんとにもう、判りにくいんだから。ダン君なのかライカなのか。今度ライカが出てきたらお仕置き決定ね」


『すいませんした』


「だから、何処の運動部?お気に入りだね」


『記憶の中にあった』


「もうちょっとマシなの思いだしなさいよ」


「うわあ。此処にもアニカが!!」


「なあに?ダン君!」


「何でもありません」


『「すいやせんしたあー」』


「ちょっと、ダン君まで変なことになってるわよ」


「乗せられてしまいました」


「良いから。早くその”スーツ”とか言うの。試してみたら?」


「はーい」


『じゃあダン。両手を合わせてそれから合い言葉を言うんだ』


「両手を合わせて。あ、合い言葉?何を言うの?」


『何でも良いんだ。変シーンでも、アニカーでも』


「アニカーはいくら何でも・・・じゃあ変シーンで」


『どうぞ』


「変シーン!!!」


『あそうそう、言うの忘れ・・・あ、遅かった』


 ダンが合い言葉を言った途端、ダンの身体が銀色に光り出し、世界を視界を染め上げた。やがてその中に、アベルの結界の上限に届いて頭を下げている、巨大化したダンの姿があった。

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