第23話 記憶の回復

 ダダダダダーン!!!!


 ドッガーーーーーーン!!!


 ドーーーン・・ドーーーン


『だいぶ威力を制御出来てきたみたいじゃのう』


「腕の振りと胸の奥からわき出るような力を、制御できるようになってきたよ。前みたいに叔父さんの頭を焦がすような失敗は無いと思うよ」


『言うようになったでは無いか。ふふっ。まあそのぐらい強くなればこの世界では四聖仙人と四大星龍ぐらいじゃ。我とスザクは別じゃがな』


「スザク叔父さんそんなに強いの?」


『昔、セイリュウとビャッコそれにスザクの三人で修業の旅をして居ってな。その時我と試合をして、セイリュウに勝ちビャッコに引き分け、スザクには負けた』


「一度に三人相手にしたの?」


『いや。一人との試合は十日程続いた。特にセイリュウとビャッコはしつこいほどタフでなあ。なかなか倒れなんだわい』


「セイリュウさんには勝ったんだよね」


『そうじゃが、最後に奴は油断し居った。隙が出来たところを我の攻撃が当たり、セイリュウが気絶してやっと試合が終わったのじゃ』


「次のビャッコさんとの試合までの間はどのくらい開いたの?」


『七日程かのう。続けてやっても良かったのじゃが、ビャッコが戦う場所が荒れて居るとか言うてのう。御陰で我の魔力も補充出来たし』


 アベルは遠くを見るように少し上を向いて鼻息を漏らした。ついでに鼻から炎も吹き出ていた。


「あちち!!叔父さん熱い!」


『おお、すまんすまん。気が緩んでしもうた』


 アベルとダンが修業の合間、御飯を食べて休んでいるところへ影が忍び寄ってきた。


 直ぐにダンも戦闘態勢に入ろうとするが、影の方もそうはさせまいと襲いかかる。


 手裏剣のような飛び道具。短剣。炎の魔術。あの手この手でダンを追い詰めていく。


 ダンもギリギリのところで躱しているが、反撃に移る隙をなかなか見つけられない。土の魔法を使おうにも先に泥濘を作られ、足を封じられたり、ジャンプしようとすると木の蔦を操り、足に絡ませてきた。


 なかなかの技を仕掛けてダンを翻弄する影。ダンは突破口を考えていた。


「よおし!こうなったら奥の手だ」


 ダンは指弾を軽く影の足下に打ち込んだ。


 咄嗟に影はダンから距離を取り直ぐ反撃体制に移った。短剣を翳しダンに斬りかかろうと下瞬間!


 ”ピカーッ!!”


 視界が真っ白になりダンの動きを目で追えなかった影は咄嗟に距離を取ろうとした瞬間、地面が泥濘に変わり足を取られた。


 ダンが腰の短剣を影の後ろから喉元に突きつけ、


「旨くいったね。君は此処に何をしに来たのかな?もしかして魔族の国から来た?」


「フフッ」


 影が笑った。ダンが何を笑っているのか問い詰めようとした瞬間!


 ”ボムッ!!”


 腕の中で影の姿が消えた。


 ダンは手を見た。影が消えた。ダンはタンジとの修業を思いだしていた。


 消えた瞬間背中に何か熱を感じ咄嗟に横っ飛び、すぐ上空に舞い上がった。そこには影が居た。


「なかなか強いねでも負けないよ。修業したからね。君が誰なのか教えて貰うよ」


「・・・・・」


「これならどうだ!!!」


 ダンの手の中から放たれた光が四方八方に飛び散り、当たった物触れた物を巨大化して動けなくした。


 その中をまるで息もせず、物陰から物陰へ瞬時に移動し距離を取りながら回り込む物の姿が有った。


 ダンは気配を感じるため感覚を研ぎ澄まし、空間に居る生き物の動き、息遣い、全ての感覚で全方位を探って居た。


「何処だ。此処でも無い。・・・これだ!」


 ダンはもう一度、精神統一入り数秒後、ダンが消えた。


 影は物陰からダンに近づき、もう一度隙を見つけて襲いかかろうと今度は背中から斜めに掛けた長剣をそっと抜いた。


 刃渡りの長い先から鍔に掛けてきらりと光る切れ味の鋭さを見ただけで判るほど、冷たく綺麗な氷の刃であった。


 足音を忍ばせ、影もダンの気配を読み取り始めた。


 数メートル先にダンが。ダンも気配を殺し、腰を落として短剣を片手に腰だめに構えている。


 物音に警戒してダンが背中を向けた、その時を見逃さず影が襲いかかった。咄嗟にダンが身体を小さくして横っ飛びで避けたが間に合わない。


 影は魔法でダンを捕縛。勝負あった・・・かに見えた。


 影も後ろに人影が立ち、そっと腕を伸ばして影の持つ長剣を掴んで簡単に奪い取った。影の動きはゆっくり。止まって見えるほどにゆっくりと動いている。人影が長剣を捨て、相手の顔を見ようとして肩を掴んで身体の向きを変えさせようとしたその時、術の時間が切れて周りの動きが元の早さに戻った。影に捕まっていたダンも影の腕から離れていた。


 肩を掴まれ向き帰られた影は、抵抗しようと身をよじった。


 一瞬の攻防の中で、動きの中で得体の知れない何かを掴んだ感触が人影に伝わった。


『なんだ?これ?』


「どうしたの?せっかく捕まえたのに逃げられたじゃ無いか」


 ダンが大きな声で騒いでいる。人影に対して。二人が並んで立っている。もう一人。


 ダンの分身であり、中身の魂だけがダンでは無くライカであった。


『何かあいつ柔らかい何かを持っているんだ・・・』


「柔らかい?」


『そう。柔らかい。・・・捕まえようと身体を拘束しようとしたとき掴んだんだ・・・あいつ・・・何だろ・・・胸の所に何か入れていたぞ?・・・気をつけろよ』


「?」


 ライカの説明にダンも判らず、警戒を強めた。


「おい、何が狙いだ。二対一だ、勝てないのは判っているだろ」


「クククッ」


「何が可笑しい?」


「あああもう。もう一寸で勝てたのに。途中で分身するなんて。師匠にも聞いてないよ」


「「師匠?」」


「そうよ」


 そう言って影は覆面を取り顔を二人に見せた。


 覆面を取った途端ぱーっと光が差したと勘違いするほど明るく華やかになった色白で端整な顔立ち。眼は切れ長で、耳が長くとがっている。


「私の名前はサクヤ。スザク師匠の弟子の一人よ」


「何だ。早く言ってくれれば良かったのに。もうちょっとでやっつけてしまうとこだったよ」


『そうそう』


「君!ダン君と違う、ダン君に似た君!さっき触ったよね!」


「な、何をですか?」


「とぼける気?」


「??」


「ライカ、何かした?」


「そう。ライカって言うんだ。まあ男の子だから仕方ないけど、戦っていたから仕方ないんだけど、そう言うので隙が生まれて逃げられたんだから・・・」


「??」


「ああ!!!」


「どうしたダン?」


「判ったよ。ライカ。君がサクヤさんの隠し持ってるって行ってた奴」


「何?それが何か判ったの?」


「それはサクヤさんの胸で、女の人には皆ある奴だよ」


「そうなんだ?・・・」


「本当なら・・・許さないんだからね」


「ご、ごめんなさい・・だよね・・・」


「ライカ、どうしたの?何処か打ったかい?まあ痛かったら僕にも伝わるから、そうじゃないのは判るけど」


「いや、何か・・・思いだしそうなんだけど・・・」


「何か深刻な話?出来れば自己紹介でもしたいんだけど」


『そうじゃ。我も居るのを忘れて貰っては困るぞ』


「「「ぎゃーーー!」」」


『何じゃ?何を驚いて居る?』


「叔父さん急に出てこないでよ」


『急にとは何じゃ。我は一歩もここから動いて居らんぞ。お前達の戦い一部始終見て居ったわい』


「私は、・・・済まぬ。失念しており、うおっほん・・・サクヤと申します。スザク師匠よりダン君の護衛と共同作戦をと仰せつかって参りました。宜しくお願いいたします」


『そうであったか。スザクも念で報せてくれれば良いものを。突然出会わせて戦わせ、修行の成果を見ようとの腹づもり。一杯食わされた感がするわい』


「ほんとだね。ライカ」


「うん・・・」


『どうした?くたびれたのか?』


「いや。くたびれるほど動いてないから。それより・・・アベルさん、頼みがあるんだけど・・」


『何じゃ?頼みとは』


「前にやった記憶の再現。もう一度頼めないかな?」


『ふむ、構わんが。あまり頭に負荷を掛けると今よりもっと馬鹿に成るかも知れんが良いか?』


「馬鹿って何ですか!馬鹿って」


『おお、これはすまん。口が滑ってしもうたわい。冗談じゃよ。我の行うのは復元術。身体に負荷は掛からん。有るとすれば精神じゃ。良いのか?』


「大丈夫。今なら何か思い出せそうな気がする・・・」


「ライカ。無理したらだめだよ。体力的にきつかったら戻って良いからね」


「うん。ダン、ごめん。少し体力使うかも」


「そんなの良いから。無理しないで、頑張って」


「無理しないで頑張れ、か。ありがと」


『では始めるぞ』


 アベルがライカの頭に指先を当て、目をつむって息を三回吸って吐いた。


 ライカの頭とダンの頭が同時に光り出した。






























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