第22話 開戦前夜

 マサとガトーが話し合ってるその頃。北の国ムーラシアでは魔族と洗脳調教された人間との会議が行われていた。


 ファダルは中央に。直ぐ横にガルーダン。建前はガルーダンが国王になっている。その反対側に重臣達が連なり、長机を囲み戦争を始める命令を待っている。


「西から潜伏させている別働隊の合図があがり次第、ゴズマ、ガーモン両将軍にて攻めて頂きたい。また、東の国から応援が国境付近に当直次第、南に回って貰いたい。これは恐らく東が先になろうと予測して居るが、構わぬ故早いほうが優先する。深く入り込まぬように。人間の中にはスザクという特別に強い力を持った奴も居る故、無駄に戦力を取られても困る。よって最初の攻撃を一日とする。初檄を与え、引き上げよ。じわじわ締め上げよとの国王様の命令である」


「長いぞ大臣!もっと短く」


「申し訳ございません、国王代理」


「まあ良い。南の方はどうなって居るか」


「はい。飛龍隊を海の向こうの島まで向かわせましたところ、大きな飛龍の群れがおりまして、それをけしかけ港を攻撃させることに成功いたしました」


「それは良くやったと言っておこう。後はこっちで東の軍隊を合流させれば世界は支配完了だ。ザイラス様とグアムラー様に報告出来るぞ」


「ファダル様ファダル様~!」


「誰だ」


「私でございます。ブライドでございます。ムイラスと良く競い合っておりましたブライドでございます」


「ふん!ブライドか。俺を名前で呼ぶな!何用だ」


「も、申し訳ございません。フ、いや、国王代理。私とガルム様とで小隊を率いて山脈の西側へ行けとオルフェ王より賜りまして、ゴズマ様に合流しとうございます」


「ふん!勝手にするが良かろう。そうだ西に行くのに山の麓沿いを行くが良い。山から子供が下りてくるかもしれんからな。其奴が我々が受けた命令の最優先事項だからな」


「判りました。麓を移動します」


「呉々も急ぐなよ。いつ降りてくるかも判らんからな。それとな・・・」


「はい。・・何でしょう?」


「奴は、ムイラスを一撃で葬った奴だ。無いとは思うが、油断はするなよ」


「油断など私には・・・ムイラスは馬鹿だった故でございましょう。二の舞にならぬよう肝に銘じます」


「良かろう!行け!!」


「はっ」


「オルフェめ、余計なことを・・・ふふっ」


 今まさに開戦準備完了の魔族陣営だった。




 その頃、大森林ではスザクとその一行が秘密の道を東へ三分の二程進んだ所で野営しているところであった。


「スザク様。食事の用意が出来ました」


「もう少しで終わるので先に食べ始めておくれ」


「儂はもう食うとるぞ。早く来んと無くなるぞ」


「おいおい、残しておいてくれないのかい?」


「嘘じゃよ。そんな浅ましいこと・・・お前らは!」


「師匠の分も最長老の分もいらなそうなので食べときました」


「どわるえぐあーいるあんつおーいっとあー!!」


「おいアルバ、何か最長老様お怒りでいらっしゃるみたいだぜ」


「だから後にしようって言ったのにい。私は師匠と食べたかったのにい。ロスがおなか減ったって先に自分の分も食べちゃって」


「しょうが無いだろ。減っちまったんだから。修業しながらだから腹減るんだよ。アルバだって食べたじゃ無いか」


「ロスがおいしそうに食べてるからでしょって・・・最長老様?最長老様?あちょっ、ちょっと、ま」


 ”ゴチンゴチン”


「毎度毎度お前達は何かをしなきゃ気が済まんと見える。良いか。今夜はお前達二人見張りだ。明日からは修業の量を倍に増やす。晩飯抜きが良いか、朝飯抜きが良いか返答せよ。どうじゃアルバ」


「見張りと修業は頑張ります。御飯抜くのはロスだけに」


「何で俺だけ?一緒に食ったよね?酷くない?俺だけ酷くない?」


「ロスもアルバも。今後お前達の食料は現地調達とする。自分の分は自分で取ること。良いな」


「「はーい」」


「まあまあ、あの子達に悪気が無いのは確かだ。郷が今まで平和だった証拠だよ。ゲンブの教えが平和を導いたって事だ」


「あれが平和か?スザクの修業でそれを直してくれることを期待しておるよ」


「それより今郷に残した微精霊より連絡が来たぞ。ビャッコ姉さんが来たそうだ」


「何?もう来たか。後はセイリュウだな。今どこにおるか見当も付かんが、何か聞いておるか?」


「私は何も」


「ビャッコが何か知っておるやも知れん。念で話してみるか?」


「届くのか?」


「郷の中なら。お主も儂の肩にでも手を置いて見ろ。その分念が強くなるから、確率も上がろう」


「ならゲンブに任せよう」


「あー、あー、ビャッコや聞こえるか?ビャッコや?・・可笑しいのう。スザク呼んでみてくれ」


「んん、ビャッコ姉さんビャッコ姉さん聞こえますか?」


「ん、何じゃ?懐かしい声がしておるのう」


「おお、届いたか。儂じゃ、ゲンブじゃ」


「ただいま留守にしております」


「何じゃ?」


「冗談じゃ。ゲンブ。久しいのう。此度はえらいことになったのう。スザクも居るのかぇ。妾の子供達を助けてたもう」


「ビャッコや。儂やスザクが居らんでも、十分強いでは無いか。仙人修業を終えた者ばかり十人がかりで引き分けた強者のはずぞ」


「ゲンブは黙って居れ。妾はスザクに頼んで居るのじゃ。相対してなら妾も負けぬが策を弄してくる魑魅魍魎なる者の相手はスカンのじゃ」


「他ならぬ姉さんの頼み。嫌とは言わんよ」


「ビャッコなら魑魅魍魎の方が逃げるじゃろう?」


「ゲンブは寿命を短くしたいらしいのう」


「ゲンブは昔から言葉数は少ないくせに一言多いのよ。何回それで治療院送りにされたのか、覚えていよう?」


「日頃の心がけが問題よ。ゲンブもスザクを見習え。いつも妾を癒やしてくれよる言葉と物腰を。神様の世界で言う”れじーふあーすと”じゃわい」


「ビャッコ、それを言うなら”れでーふぁすと”じゃが、儂の記憶では”れでー”は若い年頃『此奴一回殺す』お」


「・・・まあ、帰って問題が片づいたら姉さんの好きにしてくれて良いから」


「スザクの言うとおりじゃ。魔族の次はゲンブ、お前じゃ」


「す、済まん言い過ぎた・・・スザクよ」


「我関知せず」


 ゲンブはおとなしくなった。


 ビャッコの話では城に使いが来て王に手紙をと側近の大臣に手渡し、それを検閲した大臣は大慌てで王に知らせていたらしい。


「判ったよ。姉さん。それの対策は引き受けた。それで一つ頼みがあるんだが・・・」


「何じゃ?スザクが妾に頼み事か。珍しい。言うて見よ」


「郷に弟子を一人置いてきた。アニカという子だが暫く見てやってはもらえんだろうか?素質は姉さんクラスだと思うがまだまだ幼い故何も出来ぬはず」


「ほう。妾と比べると申すか。面白い。見てやろうぞ。そうなると諸々、言うて聞かせねばならんことは済んで居るのか?」


「それは済んで居るが、女心は複雑故、姉さんに確認して貰いたい」


「あいわかった。妾が確認してやろう。妾が見る限りは四聖仙人より強くなるが良いな」


「程々に頼む」


「あのアニカという娘、そんなに素質があるのか?」


「ああ。姉さんの若い頃に似ている」


「えええ。ビャッコが?ビャッコが?ビャッコ2に?」


「ゲンブ、何が言いたいのじゃ?」


「失礼いたしました」


「ゲンブよ。姉さんの前では口を閉じておくと良いぞ。それ以上喋ると、本当に寿命が縮むぞ」


 大森林の中で世界の終わりを掛けた争いの直前。


 ほんの少し緩い、達人達の時間だった。













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