第14話 修行①

 ダン達はポローニャからラモンに入る直前で西に進路を変えた。竜車に乗って旅をするのももう少し。


 ここからは龍の背中と呼ばれている山脈を登る。

 この山頂には格好の修行場所があり、スザクが選んだ仙人クラスの修行場も存在するらしい。


 二人はゆっくりと修行場を目指していた。


「叔父さん、まだ登るの?後どれくらいかなあ?少し休もうよ」


「なあに?もうへばったのか。後ろの子はまだ元気そうじゃが」


「何?後ろの子って?」


 ダンがスザクの振り返った先を目で追ってみた。


「何だばれてたか。そっと後付けて、魔物に襲われてるとこを助けてあげようと思ったのにい」


「?あれ?アニカ、アニカじゃ無いか。どうしてアニカが此処に?」


「精霊様とお話しして、そしたら精霊様が突然『アニカはエルフの郷へ行きなさい』って言われたの。で、ポローニャへ村長さんが送ってくれて。門で順番待ちしてたら魔法を打ち合う気配がしたから見に行ったら、叔父様とダンが修業してたの。それから後付けてたって分け」


「なるほど。それで、エルフの場所は聞いてきましたかな?かなり遠いですよ。この山脈の西の果てから北に行った所・・・急いでも二ヶ月はかかります。魔物も出ます。精霊様は何と?」


「ダンとスザク叔父様にも一緒に行ってもらいなさいと仰ってました」


「えええ。ラモンで泊まらず山越えして山間の村で温泉に入れるって思ってたのになー」


「何よ。温泉ぐらい。エルフの郷へ行ってからで良いじゃ無い。けちっ!」


「けっ、けち?」


「そうよ。大体ね私を一人でエルフの郷まで行かせる気?」


「いっ、いやそうじゃないけど、ただ予定がさあ。修業しながらだし遅くならないかなあ、何て思ったりして・・・」


「じゃあ何、連れて行ってくれないわけ?良いわよ。あんたその温泉につかってなさいよ。私と叔父様でエルフの郷まで行ってくるわよ。ねー!叔父様」


「まあまあ。エルフの郷にも温泉はあるとも。まあ急がんでも良いのだが、エルフとの修業も良いかもしれんなあ・・・よし。修業はエルフの郷へ行ってからにする。ダンよ毎日の鍛錬だけは忘れずになっ」


「はーい。エルフの郷かァどんな所なんだろうね。強いのかなあ?」


「強いに決まってるわよ。精霊様が当てにするぐらいだもん」


「そうじゃなあ。色んな魔法や体術に精通している、この世界の魔法の根源を守っている種族。それがこれから向かうエルフの郷の一族なんだよ」


 アニカの出現により、北の国へ行くはずの旅がエルフの郷へ変更になった。



 一説には神と妖精の間に生まれたとも言われ、又あるいは人間と妖精との間に出来たとも言われ、不思議な力を持ち森を守り森と共に生きる森に狩人。


 耳は長く背は高く会話は主に意思疎通を念話で済ませている。つまり発声による会話は極稀である。


 狩りにも集団で素早く動き、空手にも似た体術もかなりの次元で熟している。


 そして何より神に唯一許されたユグドラシルとのコンタクト。神聖樹。この世のあらゆる次元の命の根源。


 この木によって魂は浄化され無に帰り、また新たに木によって宇宙空間より養分あるいは新たな命として取り入れられる。


 それらのユグドラシルの動きは、エルフの最長老だけが知っている。最も長寿のエルフである。


 千年を越える時代を生き次元を超越できる思念を持つ。三百歳ぐらいまでは青年期。六百歳で中年期其れを越えると長老見習いとして、ユグドラシルと共に悠久の月日を生きていくことになる。


 エルフの郷には精霊たちも見習いから始め、準精霊、精霊、大精霊へと昇華していく。


 郷に居着く妖精や精霊もいるが、地上の其れも住み慣れた場所で自分たちの仲間と過ごすことが殆どである。


 ダンたちが目指すエルフの郷は、ユグドラシルもまだ見えない、大森林の入り口である。


「これから大森林を目指して行くんだけど、アニカは修業道具を持ってきたのかい?」


「はい。剣と精霊様から腕輪を頂きました。あっそうそう。忘れてたわ。叔父様からダンにこの剣を渡すようにって言われてたの」


「これは父さんが大事に持ってた剣!」


「それは破邪の剣!精霊剣の中でも勇者クラスでしか扱えない剣だが。ダンのお父さん、マサは使えて居ったなあ」


 マサは狩りに出たとき精霊セイメイよりダンを預かったとき、この剣を預かり、剣を使っていると剣に魔素が通りやすくなると精霊に教えて貰い、それからずっと肌身離さず持ち歩いていた。


 マサも身体に溜め込む魔法エネルギーはかなり多い。其れを剣に一気に流し込むには剣もそれに耐える能力を必要とする。


 マサが持ち歩く事で剣が馴染み魔素が通りやすくなれば、ダンの人より格段に多く強いエネルギー波に耐えられるように、ある種鍛えていたのである。


「マサがお前が一人前になって、その剣を使えるようになったら、その時のために鍛えておくと、毎日磨いて居ったよ」


「うん。・・・大事に使うよ」


 ダンは心の中で「ありがとう。お父さん」と呟いた。


 アニカも


「そうね。叔父様、良いお父さんだもんね。羨ましくなっちゃうくらい」


「うん。これで皆を救えるように頑張るよ」


「まあ、あとはダンがその剣をもう一度鍛え直して、自分の手のように扱えるようになることだ」


「はい。頑張ります」


「ではエルフの郷へ一刻も早く向かって、修業に励むとしようか」


「「はい!」」


 アニカとダンがそろって覚悟のこもった返事をした。


 三人は少しの休憩を挟み、龍の背中を北西に向かった。


 三人が旅するその後ろをひたひたと追いかける集団が二つ。


 一つは邪悪なる影。背中の翼も大きく三つ叉の槍を持つ悪魔の様相そのもの。


「ええい!何故あんな奴らの後をつけるだけで、手出ししてはならんのだ!一捻りではないか」


「リカンド様。ガルム様より行き先を確かめよとの命令でございます。どうか短気を起こされませんように」


 魔族の仲でも格の高い家の生まれらしいリカンド。その従者にして魔族軍でも幹部クラスの腕を持つ、強者ガザルである。


 他には付き従う戦士が三人。ダンやスザク、アニカの姿を木の陰、岩陰、谷の向こうから追いかけている。


 その集団を追いかけるもう一つの集団。文字通り影である。黒より黒く、風のように蝶のように。足音も衣擦れの音も、呼吸の音さえも消し、リカンド達の様子を伺っている。


 影は二つ。一つはポローニャでダンたちと接触したスザクの育てた影八人衆。その一人タンジである。


 もう一人は西の国との中間にある山間の岩山に囲まれた村、ロックルームよりタンジに呼び出され魔族軍を追跡している。名前はクニ。耳の長いのが特徴の、兎族出身、ジャンプ力と素早さと臭いを追いかける索敵に優れている。タンジの嗅覚も相当な能力であるが、クニのレベルには及ばない。


「もしもスザク師匠達に手出ししたら、一瞬で終わらせてやるんだから」


「無駄口を叩くな、クニ」


「はーいはい」


「返事は短く」


「あんた師匠に似てきたわね、最近」


「あの人は何れ神に成る人よ。私たちは及ばないわ」


「そうだよねー。同じ修業してたって言ってたのに。絶対同じじゃ無いよ。違う修業したんだよ。きっと」


 クニの感想を横で聞きながら、もしかしたらそうかも知れない。少しでも近づきたいと思うタンジだった。


「動く!」


「はーい」


 スザクたちが動き、魔族が動き、影が動いた。


 そしてもう少しで山の頂に到着する直前。頂上へ続く道の横にある洞窟がガラガラと音を立てて崩れた。


「アニカ、気をつけて」


「大丈夫!」


 ”GYAーOoooooーhowwwoonnnnnNN”






 獰猛な叫び声が聞こえた。



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