第15話 怪物と対決
耳を引き裂く咆吼。
空気を振るわせ岩肌を削りながら大地を揺らして巨大な身体を、崩れた洞窟の入り口から表した。
龍。黒い体色に身体の大きさ。爪や牙は言うに及ばず手足や頭の角までが規格外である。
そんな巨体がダンたちと魔族五人の間に現れた。
「アニカ!後ろに下がって!」
「うん!何なのよ。あのでっかいの。信じられない!」
「あれは・・・」
「叔父さん、あれが何か知ってるの?」
「・・・・」
ダンが好奇心と恐怖心に抗いながらスザクに聞いた。
「・・・・・」
スザクは黙ったままだった。
後方では魔族の集団が慌てふためいていた。
「何じゃ、あの大きさは!ガルム様の使役している黒龍の何倍もあるでは無いか。あれを使役できれば・・・」
「リカンド様。あの龍をやり過ごしましょう。あの黒龍を使役など無理でございます。恐らく魔法も効きますまい」
「しかし何とかあれを者にしたい。何か無いか何か妙案は・・・・」
「魔族に伝わる封印術を皆で唱えればあるいは」
「おお!其れがあったか!」
「しかし、それをしたら奴らに追跡がバレてしまいますが」
「構わん。何処までも追いかけてやるわ。まずはあの巨大黒龍よ」
「わかりました。では準備に入ります。皆の者かかれ」
「「「はっ!」」」
「では私は瞑想に入ります故、リカンド様にはしばし、周りの警戒をお願いいたします」
「あいわかった」
ガザルが瞑想に入りリカンドは龍の動きを注意深く見ていた。
その後方では、二人の影が様子を伺っている。
「あれは何をしている?従者の方が瞑想に入ったようよ」
タンジの忍術”遠見”を駆使し魔族の行動を監視している。
「どうやらそのようね。まさかあの龍を使役しようと・・・」
「まさか・・・そんなこと出来るの?スザク師匠達に影響はないの?」
師匠”絶対”のクニはスザクたちを心配し出した。
「師匠に知らせておいで。私はここで妨害してみるから。
「了解。無理しないでね」
「早くいっといで。でないと師匠が龍を倒してしまうかも知れないし。万が一魔族の狙いが師匠達の動きを封じるものだとしたら
・・・早く知らせを」
「行ってくる」
クニは一瞬でその場から消えた。
ダンたちは岩陰に隠れ龍の動きを見ていた。
「叔父さんあれがどんな龍なのか知ってるの?」
「あれは今では伝説となって居る最悪の災厄。
「大黒竜アベルナーガ・・・」
唖然と眺めているだけで、吸い込まれそうになるダンとアニカ。
スザクは大黒竜アベルナーガの少し違和感のある様子を見ていた。
「何が黒龍を動かしているのか。元々動きたがらないはずの、優しいはずの黒龍が暴れ出すとは・・・ん?」
「スザク様」
「クニか?」
「はい。魔族が後方であの龍を使役しようと封印術で動きを止めようとしているようでございます。それと、スザク様達にも攻撃があるやも知れぬと」
「心配はいらぬ。彼奴らの術でどうこうなる龍では無い。むしろ間違ってこっちにとばっちりが来ては敵わんなあ。位置を変えて様子を見ることにするか。ダンにアニカ、少し場所を移動するぞ」
「はい。どうやっ・・・て、あれ?」
クニを含めダン、アニカ、スザクの四人はスザクの転移の術で魔族の後方に移動した。
近くにタンジがいた。
「スザク様」
「タンジか。お前も来ていたのか」
「はい。クニに援護して貰いました」
「ん。良い判断じゃ。少し考えがある。後で合図したら援護せよ」
「「はい」」
「ダンよ。ここで練習だ。あの大黒龍に思念を送り続けよ。奴がダンに気づくように」
「へ?あいつに気づかせるの?」
「そうだ。彼奴を覚醒させる」
「叔父様、あれは寝ぼけてるって事なの?」
「其れも有るが、何かに囚われているのかもだ」
「どうにも納得のいかないアニカを余所にダンに思念波を送るよう促した。
前方の魔族達は呪文を唱え出した。
四方から唱え封印の呪文を大黒龍に浴びせた。
その時、周りの空気が一瞬にして白く輝く結晶のように一面を包んだ。
霧と見間違うような白さに視界を奪われ、それでも魔族は呪文を止めない。
しばらくして彼方此方でビカビカと放電現象が起こり、封印呪文を打ち消すように放電が強くなりだした。
「この白い靄はあの龍が作り出したのか?」
ガザル達の封印術を見ながらリカンドは靄から放電された瞬間垣間見える龍の姿を睨みつけていた。
ダンたちは白い靄の外側に居た。
「此処にはあの白い煙みたいなのは来ないわね。叔父様が止めているの?」
「風の呪文の応用だがね。ダン、もう少し集中して奴と交信してみなさい」
「うん。わかった」
ダンはスザクの言うとおり集中して思念波を大黒龍に送った。
"
Gwu-ryuuryuryuu-ooooo---"
"gowwoo---"
"da-----"
「大黒竜アベルナーガ、大黒龍アベルナーガ。聞こえるかい。聞こえたら返事をしてくれないかい?」
『・・・・・』
「大黒龍・・・アベルナーガ。返事をしてくれないか?」
『ダレダー・・・ワレヲヨブノハ・・・アベルナーガ・・・オモイダシタ・・・ワレノナハ・・・アベルナーガ・・・』
「そうだよ。君の名は大黒龍アベルナーガ。眼を覚ましておくれよ」
『オマエハ・・・ナニモノダ・・・ワレヲカロンジテハ・・・イタイメニ・・・アウコトニ・・・』
「違うよ。僕はダン。精霊セイメイ様に言われて世直しの旅をしているんだ。今は修行中だけどね」
『セイメイ・・・セイメイ・・・ウググググゴゴゴオオオ・・・・・』
「どうしたの?セイメイ様を知ってるの?」
「ダン。私が話そう」
「叔父さん」
「アベルよ眼を覚ませ。私がわかるか?」
『オマエハ・・・ダレダ・・・?・・・??セイメイ??ス・・・スザ・・・スザク?』
「おお!思いだしたか?」
『おおお思いだしたぞ。今、気がついた。そうかお前はスザク』
「そうだ。思いだしてくれて何より。偶然此処を通りかかってもう少しでお前の寝起きの被害に遭う所よ」
『がははは。そうであったか。してその子はお主の?』
「いやいや。私の子では無い。だが大事な子でな。後でゆっくりお前に話してやろう。お前の協力も欲しいしな」
『お主とセイメイがいるならば我の出る幕は無かろう』
「いや、この子を鍛えるのに力を借りたい。この子は強い。この能力を伸ばしたいのだ」
『なるほど。確かに異常なまでの圧力を感じるぞ。この感じ、我は夢で見たぞ。よし、後で話をしよう。ダンと言ったか。しばし待て。邪魔な奴を懲らしめておかないとな』
「それなんだが。ダンに教えてやってくれぬか」
『そうか。ではダン。我の言うとおりにやってみよ』
「???へっ。何を?どうすれば?」
『まあ良い。古龍魔法は今の精霊術の原型になった魔法じゃ。ダンよ、手を出してその手の中に光りを集めてみよ』
「こ、こうですか?」
『?そ、そうじゃ。何じゃ?此奴、出来て居るのか?スザクも人が悪い。出来て居る者を我に教えろなどと』
「いやいや、何も教えて居らんよ。確かに魔法と精霊術の手ほどきはしたが、他はまだ何も教えて居らんよ」
『そうなのか?それにしては初めてとは言えないくらい見事に作りおったわ。・・・良いかダン。その光球を今度は両手で押しとどめながら、圧を強めていくのだ』
「こ、こうですか?」
するとダンの手の中の光りが淡い黄色からまぶしい白に、やがて銀色に変わっていった。大きさも握りこぶし大から人の頭ぐらいの大きさに貯まっていった。
『ちょ、ちょっと待て。それは大きすぎる。そんな物打ち出したら、このあたりだけで無く星ごと飛んでしまうぞ。もうちょっと、もう少し小さく・・・』
「これくらいですか?」
『もう少し小さく・・』
アベルナーガが冷や汗を流して教えていた。
「これくらいでどうですか?」
『それくらいなら良かろう。山に穴が開くくらいじゃ。其れを奴らめがけて打つのだが、今我が囲まれて居る故、しばしそのまま待っておれ』
アベルナーガは咆吼一発身体を一捻りした。山が砕け津波のように大木や山肌諸共弾き飛び、魔族達を吹っ飛ばした。
しかし魔族も強者揃い。それだけで行動不能になる者はいなかった。
ガザルもリカンドを庇いながら、
「リカンド様、お怪我はございませんか?」
「大丈夫だ。急に暴れだしおって。捕縛が無理ならせめて動きを封じて痛めつけてやるわ」
非難していた手下も集まり、攻撃に入る準備押していた。
『ダンよ。魔族の位置は読めるか?気配を感じるのだ。その感じた方角に飛ばせ』
「はい・・・・・んん・・うん。これだな」
ダンは朧気ながら魔族の気配を読み取り、感じることが出来た。
「行くぞー!とんでけーー!」
ダンが発射した光のエネルギー弾は彗星の尾を引くがごとく、魔族集団目がけて飛んでいった。
「ガザル、光りの球が飛んでくるぞ。下がれ」
「リカンド様も下がってください」
「なーに。あんな小さな光り玉ごとき、簡単にいなせる・・・」
最初は小さく見えた光りの球。近づくに従いだんだん大きく見えてきた。
「リカンド様あああ」
「ガザルううう・・・ああああっ・・・」
魔族達は自分たちが一太刀もダンやスザクに浴びせること無く終わることを後悔しつつ、最後の瞬間リカンドはガルムに向けて連絡用の虫を亜空間に投げ込んだ。
”DOkaa------nnbomnnn”
爆発とともに辺りは砂煙でもうもうとしていた。
「風塵!」
スザクが呪文を唱えると風を起こし、辺りの煙を飛ばした。
『どうだ、感触は?』
「すごいよ。こんな使い方出来るなんて」
『もっと他にもあるぞ。どうじゃ、しばらく此処で修業するか?』
「えっと。先にエルフの郷に行かないと。そこから帰ってきてから修業させてもらっ・・・て、はれ?僕なんか変なこと言った?アベルナーガの・・叔父さんって呼んで良いのかな?」
ダンがエルフの郷へ行くと言った時点で、アベルナーガは愕然となった。当然此処にダンが残るものと、断られるとは思ってもいなかった。
長い間の独りぼっちで寂しかったのが、久々に起きたら知り合いがいて教える弟子が出来たと内心高揚を覚えていた。
「あの、いや、その、泣かないでくださいよ。叔父さん、どうしたら・・・」
「アベルよ。ダンを虐めるな。お前にも子供がいるだろう」
『それじゃ。目が覚めて子供が見当たらず、そこから意識が怒りで飛んだのよ』
「ほう。子供が行方不明とは」
『そうじゃ。勝手に祠から出るなと言っておったが、我が眠っておる間に出たのであろう』
「近くにはおらぬようだが・・・」
『我も近くには感じぬ。ダンよ、我の子を探してくれぬか。そのためにも其方に知恵を授けたいのじゃが・・・』
「叔父さんどうしよう?」
「そうだな。ダンは此処で修業しなさい。私はアニカをエルフの郷まで送ってこよう。送ったら直ぐに帰っては来るが、焦ることもあるまい。黒龍の子だ簡単には死にはせん」
『そうあって欲しいが、まだ若い故純粋すぎる。洗脳されれば悪も又善なのじゃ』
「よし、ダンよ。大黒龍アベルナーガに師事し、原始魔法を体得せよ。私がアニカをエルフの郷に送り届ける間に。行きは少し時間を掛けるが、帰りは・・・まあそれなりか。。兎に角、焦らずじっくりと修業せよ。アベルよ、ちょっと話がある。ダンよ二人だけにして貰えるかな?」
「はい叔父さん」
大黒竜アベルナーガとスザクは暫く黙ったまま。
一人と一匹は動かない。
「ダン君。スザク師匠は何をしてるか知ってるか?」
「うん、わかるよ。タンジさん。叔父さんは大黒竜アベルナーガと話してるんだ」
「あの黒竜と?」
「師匠はどんだけ特殊なんですかねえ」
「クニ。もう人間では無いかもだぞ」
「そう思えてきました」
「ダン君も師匠の真似はしない方が良い。人間でいたかったらね」
弟子達に愛情こもった非難を背中に受けつつ、大黒龍アベルナーガにこれまでの経緯と、ダンと世界のつながりを説明していた。
『あいわかった。ダンのこと、我に任せよ』
「頼もしい限り。子供のことは私が調べよう。人間では大黒龍の子供をどうこうできないであろう。だが恐らく・・・」
『魔族か・・・』
「お願いだから今は暴れんでくれ。時が来るまでは」
『わかっておる。ダンのことは理解した。我に任せよ』
「頼む、アベルよ」
長い瞑想のように黙ったまま、お互いを見つめ合いそして最後に頷き笑い合っていた。
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