第13話 魔族

 ダンとスザクがポローニャへ旅立った頃、東の国では国王に謁見する者の姿があった。


 人間の王様に魔族の六魔将の一人。


 王の名はオルフェ。魔王より名前を貰い、東の国を魔族が住み易いように、国の方針を人間ではなく亜人、特に魔族に有利な国に改良、改政していった。


 反発した貴族や国民は、一族根絶やしにされた。


 国外に逃げようにも元々、国境に他国がある訳ではなく、昔あった小国群は西に引っ越して肥沃な土地に根付いて、荒れた砂漠は捨てられた。


 砂漠は荒地だけでなく、サンドワームや大サソリと言った魔物の天国となり、時折訪れる行商の商団が餌食となる。


 砂漠を避けるためには船で陸沿いに海を回っていく方法も考えられたが、今の所100%海難事故。主に海棲生物、魔物にやられている。


 あとは空を移動するのだがこれも砂漠に入って東の国に近づくにつれワイバーンやコウモリの魔物に襲われて、無事たどり着くには軍隊並みの装備をして移動しなければならない。費用的にも割に合わない。


 これらの理由で商団などは少ないのだが、これまでは国が主導で、輸入していた。しかし魔族が台頭して来た今、人間はしだいに自分たちが餌にされる恐怖感を持ち始め、砂漠を命懸けで逃げ出す者が後を絶たない。


 オルフェは、人間達が逃げ出さないよう、一応国としての体を成すように、政策を国民にわかりやすいように知らせ、少しずつ国民の中から選んで強い者を、魔族に改良していった。


 その国王オルフェが座る玉座の前で跪き、謁見しているのは魔族の六魔将の一人。ゴズマである。


「オルフェ様。先程偵察からガルムがかえってまいりました」


「して、どうであった。例の者は見つかったか?」


「どうやら彼の方の仰っていた通り。こっちの世界で匿われているようです。強さの程は、覚醒迄はしておりますまいが、まだ子供ながらかなりの強さを持っているようです」


「覚醒していない?どれ程の者が分からんのか?」


「はい。配下のムイラスと言うガルム子飼いの者が、油断もあつたと思いますが、一撃にて消されたと報告が上がって居ります」


「何と!配下を一撃か?他には、情報は其れだけか?」


「今の所はそれだけでございます。その後はどうやら村を出て、修行と称して旅に出たもよう。今後はもう少しはっきりとした情報が手に入るかと」


「そうか。旅の間に始末せよ。彼の方の手を煩わせてはならん。もし彼の方が出て御出でになるようで有れば、この世の終わりと心得よ」


「しっかと肝に命じてございます」


「その間にも西へ攻勢をかけ、世界を統一せよとの命令である。今手掛けた北東方面の傀儡国、ムーラシアの人間達を魔族に改良してしまえば、他の国の征服もすぐに終わる。あのお方が御出でになる前に奴を始末するのだ」


「御意!」


 ゴズマは窓の外、西の方に目をやり、忌々しい男の顔を思い出していた。


「オルフェ様」


「どうした?」


「一つ気掛かりなことがございます」


「何がだ」


「その小僧に付いているもののことでございますが」


「それが?」


「もしかすると、スザクと言う仙人かもしれません」


「何者だ。人間ならば然程気にする事も無かろう」


「はい。普通の人間ならばですが」


「普通ではないのか?」


「恐らく年も400近いかと。300年前から何かと色々邪魔をされまして。おそらく此度も奴が関係していものとおもわれます」


「何!そのような者が!」


「はい。もし其奴が関係している場合、私に処分をお任せ頂きたいのです」


「しかし、六魔将が直接出向くような者なのか?」


「少々因縁がございまして。其の者に今度こそ引導を渡しとうございます」


「そうか。万が一にも不覚を取ることのないようにな」


「はい。必ずや小僧もろとも仕留めてご覧に入れます」


「うんむ」


 300年前スザクの授業中に魔族の国が人間の国に手を出したので、スザクが乗り込み魔族の一国を滅ぼした経緯があった。騒乱時の生き残りである。


 謁見の間から出て廊下を歩いて行くと

 正面から六魔将の一人ファダルが歩いて来た。


「よう、ゴズマ。計画は上手くいってるか?」


「お主こそ国の乗っ取り、失敗るなよ。人間は弱いが集まってくると蟻のようだからな」


「ははは。心配ご無用。ゴズマに心配されるようでは俺もおしまいだな」


「まあお主がしくじったらケツは私が拭いてやるがな」


「ぬかせ。ゴズマに任せるほど落ちぶれてはおらぬ。お前こそ子供にやられて、泣きついて来ても知らんぞ」


「大きなお世話だ。私は完璧に任務を遂行する」


「おう。精々頑張りな。お前は子供を追いかけていろ。俺は国を作って色々好き勝手やらせてもらうからよ」


「好きにするが良い」


 魔族の幹部。特に六魔将ともなると、お互いのプライドと相手を蹴落として自分が上にと言う欲得がぶつかり合い、腹の探り合い、気のぶつけ合いでの神経戦が毎度繰り広げられている。


 王宮にある六魔将に与えられたゴズマの私室に入るとガルムが待っていた。


「ガルムか?」


「はい。ゴズマ様」


「今、謁見を済ませた。オルフェ王には説明したが、他の六魔将には内密にな。してムイラスのその後は?やはり殺られたのか?」


「はい。放った草の調べでは、やはり。一撃で殺られております。後も残さずに」


「先の連絡通りか?それからの行動はどうなっておる?」


「ポローニャへ行きそこから今はラモンへ移動中のようでございます」


「そうか。ムーラシアに行くまでは殺してはならんぞ。奴をやるのはその後だ。ファダルにスザクをぶつけよう。殺れれば良し、ムーラシアを出たところで人間達諸共潰してくれるわ」


「道中に放っております魔物は如何致しましょう」


「構わぬ。そのままで。其れで遣られればそれまでよ。まあスザクがそれに引っかかるとは思えんが。ラモンに足止めとムーラシアへの誘導が出来れば其れで良い」


「畏まりました」


「ムイラスの代わりにリガンドを連れて行くが良い」


「はっ、では直ぐに」ファダルは兎も角、・・・スザクめ。この手で始末してくれる!」


 指に生えた長い爪が掌に食い込み、血が流れるのも御構い無しに握り締めていた。


 ルコイの村からポローニャに移って1週間が過ぎた頃、ダンとスザクは町外れの荒野で訓練していた。


「はっ、はっ、はっ。どうだ、指弾三連発!!」


 まだまだ。そんな蝿が泊まるようなスピードでは私には当たらんよ。其れで終わりか?」


「まだまだ。とー!!!」


 今度は体術に切り替えたダン。


『ダン。攻撃に念動力を混ぜたらどう?』


「今僕もそれを考えてた所。当たらなくても慌てさせられたら僕の勝ちだ」


 ライカの考えとダンの考えていたことが一致した。

 ダンが行動に出た。


「先ずは叔父さんに動いて貰わないと・・・ちょっと大きめの火炎弾!!連発だー!!」


「何の真似だ。策を弄しても私には通じぬぞ」


 そう言いながら楽しそうに動き回りダンの動きを確認していた。


 火炎弾が着弾した辺りからモクモクと煙が舞い、辺りを見にくく隠した。


 風で煙が押し流された瞬間、スザクの姿が現れた一瞬をダンは見逃さなかった。


「バーン!」


 指弾をスザクに向け打ち出した。が、スザクは苦もなくそれを避けた。


「やっぱ避けるよな。・・でも」


 スザクの影を通り過ぎた指弾は後ろの岩や地面、木々などには着弾せず、弧を描いてスザクの背中めがけて飛んで来た。


 "ドッカーン"


 少々大きめの爆発だった。心配になったダンがスザクに声を掛けて駆け寄ろうとしたその時、


「油断大敵」


 真後ろから首筋に短刀の刃が当てられた。スザクの「まだまだ未熟」と言いたそうな顔が何が起こったかを物語っていた。


 変わり身。爆発したのは木の枝か、防御魔法。


「やったと思ったんだけど・・・・」


「良い考えだったかもな。私でなかったら」


『最初の陽動の火炎弾が如何にも誘ってます的だったんだよ。改良の余地有りだね』


「そうだね。良い感じだったんだけど・・・まだスピードが足りないや」


「まあそう落ち込まずとも良い。まだ修行は始まったばかり。身体も今から大きくなる。スピードはこれからじゃよ」


 この修行を物陰から見ているものの目があった。

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