第12話 念動力
ムイラスとの戦闘の後、家に帰ったダンはグッスリ眠った。
ミサとマサ、それにスザクは明日からのダンの旅立ちの準備を終えて、一息吐いたところである。
「今日はどうなることかとひやひやしましたよ」
「だから大丈夫だって言ったろう。精霊様と仙人様が付いてるんだ。ダンも戦闘慣れすりゃ大丈夫。ねえスザクさん」
心から心配だったと訴えるミサに、うわべ気丈に強くごまかすマサであった。が、スザクは笑いながら二人を見つめていた。
「今日はたまたま魔族がダンの得意な指弾の軸線に居てくれたから、命
中・・勝てたようなもの。相手が狡猾で戦上手であれば、ダンもアニカも危なかったとだけ言っときましょう。向こうから最初の罠に嵌った時点で、何も準備は出来ていませんでしたし、ダンの手の内を見ること無く、アニカと交戦しダンに煽られた感じですから」
スザクは二人に見たままの選評を論じた。
「そうね。アニカちゃんが出て行かなかったら、向こうももう少し探りを入れていたかもしれないわねェ〜」
「でもあん時のアニカちゃん凄い形相で、よくもダンをーって、あんなの初めて見たよ?」
「しょうが無いわよ。仲の良い友達がやられちゃったんだもの」
「あれは、何だな。将来ダンとくっ付いた時、ダンは大変だな」
「今から考えてどうすんのさ、そんなこと。まだ5歳だよ?」
「もうすぐ6歳だよ。後五、六年したらもう成人の準備だぜ?すぐだよすぐ!」
気の早いマサたちの会話に和みを覚え、微笑むスザクだが、「まあまあ、その時まだ二人がお互いをどう思うかは、神様もわかりません。だが未来は彼らの手にある事だけは確かですからなあ」
「そうね。大事なのは今はこの先に、邪魔者がいるんだからね。そいつを皆で何とかしないと」
「んで、スザクさん。明日から何処へ行くんです?修行の旅つっても闇雲に歩いて行く訳じゃ無いんでしょ」
「私はそれでもいいと思っています。旅の費用も稼ぎながらですからね。ちゃっちゃといってサッと帰ってくる旅とは違いますからな」
「なるほど。じゃあ、帰りは何時になるか分からないんですね?そんなら、今から一杯どうです?出立の祝い酒。ちょっとだけ。コボタ呼んで飲みましょう。ミサ、何かあるかい?」
「もう、明日から旅なんだからね。無理させちゃいけないのに。もう。わかった、。ちょこっとだけど肴作るわ」
「ちょこっとだけ待っといて下さいね」
マサは家を出てコボタを呼びに行き、ミサは酒の肴を用意した。
空にはこの世界独特の小さな月と、大きな月が並んで輝いていた。
大陸の東。砂漠を越え、歩いて一月半、飛んでも10日は掛かる距離。魔族ガルムは急ぎ東を目指して飛んでいた。
「早くゴズマ様にお伝えせねば。あの者が力を付けぬうちに」
ガルムは自力で飛ぶのを止め、地上に降り立ち指笛を吹いた。
月に雲がかかるように、地上に大きな影が風を起こしながら近づいてきた。月の光も吸い込む程の黒い体色。広げれば山を覆い隠す程の翼。眼光鋭く、口からは牙が突き出し、鼻から息を吐き出し時折炎が溢れている。
翼竜。伝説の最悪のドラゴン。それも黒龍。
ガルムは黒龍に跨り東を目指して飛んだ。
「夕べはすいません。コボタのやつ呑んだくれちまったもんで」
「あんた。先に居眠りしてたでしょ。もう、すいませんねえ。本当にこの馬鹿ポンコンビの為に。旅に影響出ませんように」
「ええ、大丈夫ですよ。酒では酔いませんので」
マサとミサの夕べの酒盛りの侘びを受け、だんの到着を村の門の前でスザク達は待っていた。
「スザクの叔父さーん。ごめん。遅くなって。アニカがどうしても送るって聞かなくって」
「いいじゃない私も行きたいの我慢してるんだから。お土産、忘れたらダメなんだからね」
相変わらず押されまくっているダン。特にアニカの押しが強いのか、ダンがただ押し弱いだけなのか。
「おーい、おーい。ちょっとだけ待っとくれェ」
「だれ?」「誰よ?」「誰じゃ?」「あれは誰?」「父さん母さん、あれは?」
マサもミサも、スザクも、ダンもアニカも、知らない人が。
「何を言っとる。私じゃよ。見て判らんか?村長じゃよ」
「「「「「えええええッ村長ううううう」」」」」
「何を驚いておる」
「いやあ。何をって、なあミサ」
「ねええ、あ、あんた。どうなったの?」
「村長さん、しばらく見なかったわよねえ。何処に隠れていたの?」
「アニカちゃん隠れてなどおらんよ。私は近隣の村や町を回って、魔族が攻めてくるかも知れんと教えに回っておったのよまさか留守の間にルコイの村に来るとは思わなんだが」
「いやいやいや、そんな事よりどうなってんの?皆聞きたいのよ。村長さん」
「ミサまで何を?」
「ああっわかったあ。村長さん毛が生えてる」
「「「「おおおおう」」」」
「もしかしたら神樹の雫の所為かも知れませんなー」
「あっあれか、精霊様にもらった一滴。若返りの副作用か」
「そうよあんた。村長さん若返ったんだわ」
「何よそれ。そんな事私知らない。私ならお肌スベスベの薬貰うんだけど」
「アニカは良いんだよそのままで」
「何よ。ダンの意地悪」
「そんなことより、スザクさん。北の国へは行く予定は?」
「今のところ行き先は決めてませんが」
「では北に向かって頂きたい。どうやら北の国の国王が魔の物に攫われたらしくて、国民が皆不安な毎日じゃと隣町、ポローニヤに出稼ぎから帰ってきた者がそういってましてな・・・何とかならんじゃろうかと相談されましてな」
「ふむ。では、様子を見に行きましょう。ですが、手出しするかどうかはそれからと言うことで。如何でしょう」
「どうか宜しく」
「ミサ殿マサ殿、お世話になりました。暫く国中を回ってきます」
「国中、あっちゃこっちゃ、魔物やっつけて、悪い奴やっつけちゃって、まるで伝説の王子様みたいね」
「それ、言い過ぎだから。もんだいあるから」
「ダンはビビリすぎよ。男らしくシャキンとして行ってらっしゃい」
「はははっ。行ってきます」
「さあダン。北へ行こうか」
「はい!」
振り返り手を振りながら、アニカの応援を聞きながら気を引き締め直すダンだった。
ポローニャで宿を探そうと、買い出しついでに聴き込んでいるとスザクの側に見知らぬ顔。マントで身を隠した獣人が物陰から、声を掛けてきた。
「スザク様」
「タンジか」
スザクが見つけて育てた隠密に動ける獣人軍団。8人の一人である。
「はい。北の国へ向かうのですか」
「今どうなっている?」
八人が国と国、町と町をそれぞれ連絡網を構築、スザクの指示を漏れること無く遂行し、どこでも陰出できるよう訓練されている。
「王子様が拉致され、王家一族も暗殺や闇討ちで尽く。何とか王位継承権を持つ者が数人、一旦国を離れてラモンまで逃げて居ります」
「して黒幕は知れたか?」
「全容はまだまだですが、どうやら魔族と結託している模様です」
「そうか。引き続き調べてみてくれ。私たちも何れ向かうが、国民に被害が出そうなら連絡を」
「はい。ではその時は精霊鳥を飛ばしますので」
「隠密にな」
「はっ」
「叔父さん今のは?」
「私の作った影の軍団だよ。ダンのことも守れと言ってある。今は私が居るから側にいないがね」
「えっ居るの?何処?」
「これこれ、キョロキョロ見ては他にバレてしまうよ。かれらは草と言って、雑草のように何処でも生きて、何にでも化けて。つまり、どんな手を使ってでも、情報を掴んで目的を果たして来る。そういう役割をやってくれているんだ」
「修行したの?」
「もちろん小さい頃からずっと訓練の毎日だよ」
「僕も毎日訓練しよー」
ダンは何が気に入ったのか、頻りに獣人タンジの真似をしていた。
宿を見つけその日は何事も無く、次の日の早朝。
まだ日が昇っていない時間、ダンは目が覚めてしまった。
「ファーっ。何か目が覚めちゃった」
『おはようダン。今日は早いね』
「うん。ライカは調子どう?あれから何か思い出した?」
二つの魂がダンの体の中で会話している。
『うん、少しね、僕は何となーくだけど、どうやら暗い空間を乗り物に乗って移動していたようなんだ。どんなのかまでは、まだ分からないんだけどね』
「へー。地竜とかじゃ無くて?翼竜じゃ無くて?」
『うん。変わった乗り物みたいだったよ』
不憫に思う同魂とも言うべき友を、自分に歯痒さを感じたダンだった。
『それとこれを教えとくよ』
「何を?」
『そこにコップを置いて』
「これを?一体何を?」
『まあ見てて』
ダンの手から風のような感じのエネルギーのロープがコップを輪投げの様に掠め取り、ゆっくりと手に収まった。
「これは?」
『そう。これがいつかのやつさ』
「いつか?・・・」
ダンが考えていると、コップを持つ手がダンの額の辺りまで上がって来て止まった。
『これならどう?』
「?・・・ああっ、あの時の」
『そう。初めてと言うか、自己紹介した時のアレだよ』
「これって念動力なんじゃ・・」
『うん、そうだよ。最初にやれそうな感じがして出来たのがこれ。兎に角やって見て』
「出来るかなあ・・・んんん、動かないよ?」
『この前の盾と同じさ。思い出してごらんよ』
「盾ねえ。んじゃ、これでどうだ。んんん」
『おっ、動くよ』
「きたきたきたあ」
なかなか念動力は難しいようで、精霊術や魔法の様に力がコントロール出来ていなかった。
やがて少しずつ動き出したコップは、
「おお、おお、きたきっ"ゴン"!」
『大丈夫?』
「いってて、。大丈夫」
『コントロールの練習、毎日しないとだめだね。』
「そうみたいだね。毎日痛いの嫌だし」
『じゃ、僕は交代で眠るとするよ。お休み』
「お休み。僕はもうちょっと練習してから寝るよ。まだ朝早いし」
『うん。頑張ってね』
隣のベッドで寝ながら、様子を伺っていたスザクは
「ほほう。ライカと相性は良いみたいだな。魔法でも精霊術でもないのか。念動力。法力に近いかもな。あれも魔法みたいなもんじゃが。ふふっ。兎に角面白い事になって来たぞ。」
寝ながら笑っているスザクを、ダンが気味悪がっていたのは内緒である。
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