第10話 秘密
訓練から帰ったダン一行は、広場の真中にある教会の前に集まった。
「今日のサバイバル訓練は初の魔物相手だが、村を出て直ぐの所だと、一角兎ぐらいだろう。明日は、もう五キロ西と南に延ばしていこう。間違っても北と東へは行かないように。以上!」
先に帰っていたサバイバル組が隊長のボギーの訓示を受けて、解散したところである。
「ボギー兄ちゃん、今日は何狩ったの?」
「キャタピーグリーンと、スライムライドドウドウ、あとベアオケイラかな?」
「虫と鳥とモグラかあ。アニカが嫌がる種類ばっかりだね」
「ダンは修行の旅なんだろ?無茶すんなよ」
「うん。ありがと。頑張るよ」
小さいときから片時も離れず、狩りに行くときも広場で遊ぶときもダンとボギーとアニカは一緒だった。兄弟のように見える三人だった。
村に帰ってから朱雀の姿が見えないので、ダンは
「スザクの叔父さん何処行ったんだろう。旅の準備に何がいるか聞こうと思ったのに」
しかしスザクの姿は何処にも無かった。
その頃スザクは神樹の前に腰を下ろしていた。
村に帰って直ぐ、精霊に呼び出されていた。
「精霊様。ただいま戻りました」
『結界の中へ魔の物らしき異物が入り込みました。まだ直接は手を出せない見たいですが、気をつけてください』
「はい。多分偵察でしょう。此処には色んな罠が仕掛けて有りますので。もしかしたら面白いことが起きるやも知れません。まあ、奴らが何をしようとダンのことは守り抜きます故、ご心配には及びません」
『知っていたのですね。安心しました。ですが、これから先この村にも旅に出るダンの行く先々にも、魔の物がおそってくる事を覚悟しなければ成りません』
「はい。相応の覚悟をした上での旅でございます。軍団ならば兎も角、小さい集団ならダンの練習相手に丁度良いと思いますが」
『スザクに任せていますから、大丈夫とは思いますがダンはまだ五歳。呉々も無理は禁物ですよ』
「御意!」
セイメイの心配を蔑ろにする気は毛頭無いが
「精霊様はまだダンの成長ぶりを見てないな。私でさえビックリしたぐらいだ。ふむ、これは一度精霊様に見て頂くしかないな」
何やら画策している様子のスザク。
「精霊様」
『どうかしましたか?』
「今夜、その忍び込んだ者をダンたちに捕まえさせましょう。そのときにダンの成長ぶりもご覧いただけるかと」
『なるほど。判りました。皆には悪い気はしますが楽しみにしています』
精霊が消えスザクは膝をついた姿勢で座っていた。
「あれ?スザクの叔父さん、いつから此処に?探したんだよ?」
「すまんすまん。精霊様に報告をすまして、一寸考え事をしていてな。帰って飯でも食おうか?」
「うん。まだだったら、お風呂入ろうよ。明日からの準備もあるし。装備もあれで良いか見て貰いたいし」
「よし。帰ってまずは装備からだな。その前に、ダン、この剣を持ってちょっとその柵を握ってもらえるかな?」
「この剣を?これは精霊の剣?」
「そうじゃ。それで柵を握ったなら、剣を地面に刺してこう叫んで欲しい。『ドラゴンの咆吼、大地を走る』ってね。出来るかな?」
「はい。こう握って、柵を掴んで、剣を突き刺して、いくよ。『ドラゴンの咆吼、大地を走る!』」
ダンが呪文を唱えた途端、剣が光り出し、その光が柵と地面を走り出した。
ものすごい勢いで皆の足下を走り抜け、しばらくすると
「ぎゃーっ!何をした!おっ、おのれ、人間風情があああっ」
何者かの叫び声が、集会場近くの家の裏庭の木陰で、モクモクと煙を身体から出しながら、ふらふらと這い出てきていた。
「く、くそううう!こうなったら。人間たちよ、思い知るが良い。魔族を怒らせると痛い目を見ると言うことを!!!」
ダンたちが走ってきたときには魔族の男が、血飛沫を上げて更に変身しているところだった
ダンは少し震えながらも魔族を睨み、スザクが渡した精霊剣を構えている。
魔族の男がダンを見て、
「震えているのか?小僧。お前にこのムイラス様がやれると思っているのか?笑わせてくれる。舐めて貰っては困る。この村の者たちよ、魔族の怖さ、思い知れえええっ」
ムイラスが腕を振ったその先に炎が走り、爆発が起き、その先にダンが居た。
ムイラスの攻撃がダンを直撃。はじき飛ばされたダンは集会所の広場の反対側まで建物を壊すほどの勢いで飛んでいった。
「ひゃひゃひゃひゃひゃっ。どうだ。思い知ったか。もうあの小僧は死んだぞ。他にかかってくる者はいないか」
「「「「「「ダーン!!」」」」」」
皆の叫び声が重なった。
瓦礫の中をもぞもぞと何かが動き出した。隙間から光が溢れ出し、やがてその光は大きな玉のような塊になり空中に出てきた。
その真ん中にダンが居た。
片手に精霊剣、そしてもう片手には見たことの無い盾を持って。
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