第8話 二つの魂
スザクがダンの目を見つめると
「えへへ。バレちゃったか」
「本物のダンはどうなっている?そして君はどうしてこの結界の中でいられる?この中は精霊様の加護無くしては居られない領域・・・説明して貰えるかな?」
眼光鋭く重力が変わる勢いのオーラを発するスザクにたじたじのダンの体の中にいる偽物の”ダン”
「すみません。別にこの子をどうこうしようという気はありませんし、あなた方と敵対する気もありません。ただ、偶然と偶然が重なったというか・・・」
やや恐縮しながら流れる冷や汗を拭う偽”ダン”
『貴方は大事なその子の身体にいつからいたのです?私にも見つけられないほど巧妙に』
「いやあ、隠れていたわけじゃなくってですね。気絶していたわけですよ。長いこと。気がついたのは最近でして」
『そう言えば、貴方変わった魂の形をしていますね。この世界の者では有りませんね』
精霊も今度は見逃すまいと真剣である。
「あのー、一寸だけ私の話を聞いて頂けます?」
スザクが精霊の方を見やる。精霊の光りは上下に揺れる。
「申してみよ」
「ありがとうございます。実は私はこの世界の者でもこの星の者でもないみたいなんです」
『神界か?時空界?それとも変遷の新世界か?』
神の世界よりもっと遠い世界を精霊が指摘したが
「そんな大それた世界ではなくってですね、此処の魔法のようには行きませんが、結構現実的と言いましょうか。火は使いますが、魔法は使いません。此処とは少し考え方が違うんですね。文明の発展の仕方、とでも言いましょうか」
此処で少し言い方に悩んでいるような偽”ダン”
まだスザクからのオーラは緩んでいない。
『続きを聞かせてください』
「はい、では。ん、ん。私も何故此処に居るのかまだ完全に記憶が戻って来ません。しかし住んでた環境が此処ではないこと。遠い暗闇を通って、一本の光をたどってきたこと。来る途中にあなた方の時間で言う二年ほど前、この子の魂とぶつかり今此処に、こうしています」
『スザクはどう思います?』
精霊の言葉に頷き、顎に手を当てながら
「暗闇とはどんな所か解るかい?一本の光りとはどんな光りかな」
偽”ダン”は空中を睨み、やがて
「暗闇は上下は解らないんだけど、光りが有り影があって、寒くて暑くて何より空気もないところ・・かな?んで、一本の光りは遠い遠い場所に届く紐のように細い光りの木の枝のような、いくつもに道が分かれているその紐のような光の道と言うか枝の中みたいなところを、多分通ってきたような・・・・」
スザクは目をつむってしばし考え、やがて
「精霊様」
『ふむ。これは偶然と言うより、何かの意思かもしれませんね』
「はい。暗闇とは空間のこと。一本の光りとは恐らくユグドラシル。ユグドラシルを通ると言うことは悪意有れば淘汰されます。浄化され消されます。それがこのこといっしょにきたということは、ユグドラシルの思し召しですか?」
『そうかも知れませんね。私はこれからエルフの里へ行き真相を確かめに行ってきます。もともとのダンの世界のことも確かめ直してきます』
「申し訳ございません。私が調べたときは此方で対処すればうまく時間を稼げると時空を遡ってきたのですが、我々の想像するもっと以前に何かあったやも知れません」
『良いのです。それより今一度段の成長と悪の復活の時間が間に合うのか調べる必要が出てきました。私が帰ってきたらお願いできますか?』
「無論です」
『して、ダンの中に居る者よ。其方は名を覚えていますか?』
「いいえ。そもそも名前があったのかも怪しいですが。覚えていません」
『そうですか。では、今日よりライカと呼びます。光の道という意味です。よろしいですか?』
「あ、ありがとうございます。私はダンの、彼の邪魔にならないように、彼の成長を見守っていることにします。多分それくらいしかすること無いですし」
「精霊様、私がこのものを見ております故。ご安心を」
『そうでしたね。全て背負わせるようで誠に申し訳ないのですがお願いしますね。スザク』
「畏まりました」
『私はこのままあちらに飛びますが、何か有ればマーリンに』
「心得ております」
光りがスザクとダンの上をクルッと回ると空に向かって飛びかき消えた。
「あのー。」
「何かな。ライカ」
「思いだしそうで、まだ思いだせないのですが、これについて見て貰ったりって・・・出来ますか?」
「ふむ。それをするには、私の魔素が貯まるまで待たなければならんな」
「え、出来るんですか?やった!どのくらいで貯まります?」
「そうよなー?後五年くらいか」
「がくっ。ご、五年もー」
「そうだ。異世界転移だの時空移動を繰り返したおかげで、すっからかんだからな。貯まるまでは出来ないぞ。まあ、焦ることはあるまい。過去が解ったところで今すぐその身体から出ることは出来ないのだろ?」
「そう。そこなんですよねえ~。出られない。魂を何かに移し替えられたら良いんですが」
「まあ、しばらくダンを守ってやっておくれ。その間にライカの記憶も戻らんとも限らんからな」
すでにスザクの他者を威圧するオーラは影を潜め、普段の優しい包み込む暖かい精霊の光りに似たものに変わっていた。
「今ダンはどうしてる?」
「はい。よく寝ていますよ。私が出たことで意識が入れ替わり眠りに入っています。明日の朝には起きてくるでしょう」
「一つ聞くが・・・」
スザクが何か考えて顎に手をやりながら
「はい。この際何でも。私が覚えてる事なら」
「ガイアと言う名前に心当たりはないだろうか?」
「ガイア・・・」
ライカは何となく何処かでその名を聞き、心を掻きむしられ、急いで何かをしなければ落ち着かない。そんな気持ちにさせられた。
「何か知っているのか?」
スザクがダンの体ではあるが、中に居るライカを射貫くような目で見つめた。
「解りません。解りませんが、何かしないとって言う焦りみたいな、気持ちに余裕がなくなるような、嫌な感じです。・・・ガイアって何ですか?」
「ダンの宿敵。世界の悪の根源。もしかすると、星々にも影響する、悪の権化そのもの・・・になるかも知れない者の名だ」
「え~!!解りにくーい!!何ですかその回って回っても一回回るような、謎かけみたいな」
「そうよなー。初めて聞くとそうなるか。まあ予言みたいなもんかな。そう思っていてくれ。とにかく相当悪い奴には違いないからな」
「うううんん、何か頭の隅でこびり付くお焦げのような記憶の中に・・・ううう、解らん。思い出せません」
「良い良い。何れ戦うであろう者だ。焦っても何も変わらんよ。それより準備、準備じゃよ。お前もダンの成長を手伝ってくれるかい?」
「是非もなし。前に進まなければ、私も生き残れませんからね」
覚悟を決めたように、何かをしなければと焦る気持ちに押されるように、気持ちの奥から何かが沸いてくるのをライカは感じていた。
「明日から頼むぞ」
「了解しましたあ~」
「ほほほっ、調子の良い奴め」
スザクはライカの本性は、素性は解らずとも悪意はないと判断して、意識をこれからのこの異世界の戦いに向けた。
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