第7話 神樹の雫
「六人の魔将軍と言われる者が居るのですが、全ての将軍同士が裏切り合い、皆が皆魔王の座を狙って居る者ばかり。全員が一斉に攻めてくるとすれば、魔王復活の後と思われます。ですので脅威は、魔王復活が鍵かと」
『では此方の世界、特に魔王軍は今すぐ事を起こす脅威はないと言うことですね』
「はい。ただ、先ほどの六魔将が何をしでかすか、見張っておかなければと思います」
此処までの報告で間違いは無いともう一度確認し、スザクは精霊の物と思われる光を見上げた。
マサ、ミサ、マッコイ、ダンの四人がポカーンとスザクと精霊のやり取りを聞いていたが、理解が追いつかなかった。
「すまんすまん。皆には悪かったが、先に精霊様に此処の現状を話さないといけないと思ったものでな」
スザクは精霊への報告を先にしたため、周りが置き去りになったのを、謝罪しようとした。
「仙人様、お気になさらず。私たちも、聞かされていないことも今からは知っておかなければいけない領分です。ダンにはこれから少しずつ言って聞かせます」
ミサは粗方精霊から今この世界が起きているかも知れない出来事を聞かされていたので、然程の驚きはなかった。
「そうだ。ミサの言うとおり。俺たちのことより、何に立ち向かえば良いのかの方が大事だよ。村の防御の方もそれで変わってくるし」
村長の顔を見ながらマサはミサの言葉の後を繋いだ。
マッコイはまだ精霊とのやり取りは数えるほどなだけに、相当緊張している。ぐっと拳を握って声を出して、
「そ、そ、そうですす。む、村のま、守りの方もも、す、仙人様とと、いよく、相談しねーとと」
『そうですね。マッコイ。大丈夫、スザクとよく相談してください。私も力を惜しみません』
「ははーっ」
マッコイは五体投地。土下座の上を行く勢いである。
「村長。そんなに緊張してたら、立てなくなるぜ」
「ダ、ダイジョブ。オレハダイジョブ」
「何でカタコト?」
マサがマッコイの緊張を解そうとしたがさらに深みにはまっていった。
『マッコイこれを』
精霊の言葉と同時に、マッコイの目の前に一滴の液体が注がれていた、小さなグラスが現れた。
『それをお飲みなさい』
「あ、ありがとう、ごご、ゴザイマスー」
礼を言ってグラスを手に取り、言われたとおり飲み干した。
マッコイの身体の中を何かが走り、強い酒を飲んだみたいな浮揚感に包まれ、得も言われない幸福感に、次第に心が落ち着いた。
少し赤みの差した顔を手で押さえながら。
「ありがとうございました、精霊様。落ち着いてきました。今飲ませて頂いたのは?」
『神樹の雫です。お酒なのですが、お酒と同じで緊張を解したり酔ったりするのですが、副作用がありまして』
「「「副作用?」」」
この不思議な光景を見ていた、マサ、ミサ、スザクは声を重ねてしまった。
「どうなるんです?」
マッコイが恐る恐る聞いた。
『実は』
「「「「じつは?」」」」
今度はダンを除く全員声を揃えた。
『寿命が・・・』
「「「「じゅみょうが?」」」」
『十年延びるんです』
「「「「おおおう」」」」
「精霊様、心臓に悪いです。副作用で石になるとか、死ぬとか言われたらどうしようかと思いました。十年延びる副作用ですか?出来れば毛が生えてくる副作用が欲しかったです」
神樹の雫のおかげで気分が解れた村長のマッコイ。
「村長。副作用に欲言っちゃいけないよ。それにその頭。年季が入ってるんだから、ちょっとやそっとじゃだめなんじゃ・・」
「年季が入ってようと俺の頭だほっといてくれ。マサ、お前も直にそうなるよ」
「村長さんさっきの雫でツルツルのピカピカね。お肌が」
「ミサまで~」
二人で解れてきたマッコイを弄りだした。
「でも雫で十年も延びるんだったら、もっと飲めば不死の酒になるんじゃないですか?」
誰もが思うことを臆面も無く、マサは聞いてみた。
『それは有りません。飲み過ぎると身体が消えて無くなります』
「ええーっ。と言うことは?」
マサは考えていることを口に出そうとして、ミサの顔を見た。
「若返ると言うことですか?」
『はい。ですが、あくまで副作用。必ず若返るとは限らないのです』
「神樹の雫恐るべし。神樹に貯まる力でお酒が出来るだけでも不思議な力。それが若返りの薬にもなる。正に神樹様だ。ありがたいことです」
マッコイは先程弄られたことなど、とうに忘れたように神樹の雫に感心し、感謝していた。
「話が少しそれてしまいましたが、よろしいですかな?」
スザクが報告の続きをしようと皆の顔を見回した。
「先程の六魔将が来た場合、ダンはまだ間に合いません。ですので役割をマサとミサに。あと、私が道中選んできた者でどうにか出来ると思います」
「えええーっ。私は戦えませんよ?て言うか足手纏いですよ?」
スザクの進言にミサが戦うという言葉に反応した。
「大丈夫。後方からの攻撃とヒーリング。つまり怪我とかの防御、癒やしと言ったところですかな」
「なるほど。私も戦うのは吝かではないのですが、格闘となると・・・では防御魔法とかを教えて頂けますか?」
納得がいったのか先程と違い、やる気を込めた表情になった。
「はい。そのために来ました。マサとミサ。お二人にはダンが戦えるようになるまで、頑張って頂きたい。まあ現状では魔物もそんなに強い者は此方には来ない様子。慌てることはありません。ですが準備だけはしときましょう」
ミサはコクリと頷き、マサの顔を見た。マサは、
「俺に任せとけ。攻撃の体術や村の周りの仕掛けとか、色々考えて作ってあるから。なあ村長」
「そうじゃな。若いもんと一緒に山や森に入って木を切り出して。家や塀を作るだけでなく、でっかい穴掘ったりしていたからな」
村長が感心するほどにこの二年間、マサは動いた。
「なるほど。後は魔法と体術ですね。仕事と両方で大変でしょうが、日替わりでどうでしょうか。村の若者も交代で鍛えたいと思うが、マッコイさん、どうかね」
スザクは村の人間も総動員で事に当たろうと考えているようだ。
「願ってもないこと。宜しくお願いいたします」
マッコイは拳を握って頷いた。
「ではマッコイ殿。今はこれくらいで。月に一度、会合を設けて貰えますかな?」
「ええ。いつでも結構です。役所の扉はいつも開けてますので」
「わかりました。では、マサとミサ。私は精霊様ともう少し話があるので。今日はここまでにしよう。あっダンはまだ用事があるので、私が責任もって送り届けよう。いいかね?」
「では、私は帰って食事の用意を」
「俺は役所で他の連中と、訓練とかを組み入れた日程を話してくる。ダンのこと、宜しくお願いします」
ミサが食事を、マサが村の皆のまとめをと、それぞれが役割を決めた。
「精霊様。ありがとうございました」
『ミサも。これからも神樹のことお願いしますよ』
深くお辞儀をし、マッコイ、マサとミサは一歩下がった。
すると結界から出た途端三人の姿は見えなくなった。
残ったのはダンとスザク。
「さてと。ダンよ。もうそろそろ良いだろう。今の調子を話してくれないか?」
スザクがダンの”何を?”と言うような不思議そうな顔をのぞき込んで、目を見つめた。
ダンはそのスザクの目を見つめ返した。
「えへへ。バレてましたか」
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