異世界で育った未来の子スーパースーツで無双する

第6話 報告

　村長の家は村の一番北の奥にあった。作りはそこそこ頑丈に作ってあり、外敵や災害からも村人皆を守れるようにと、この二年で作り上げたものである。

　玄関は広めで質素倹約を絵に描いたような何の飾り気もない、有るのは村の外れでミサたちが育てた花が飾られていた。

　正面に受付、その向こうに応接室。受付の左手に村長の執務室。二階に村長の官邸兼自宅となっている。

　受付の奥、応接室の入り口脇に村の門番をしていた青年が立っていた。

　中ではスザクと村長のマッコイが挨拶を交わし、給仕の女の子が入れてくれたお茶を飲んで一息入れたところである。

「村長のマッコイと言います。長旅ご苦労様です。もう少しでマサとミサもここに来るでしょう。ゆっくり寛いでください。お泊まりは此方で部屋を用意しますので、もう少しお待ちください」

　普段着よりは少しはましな格好で、スザクに応対している緊張気味の村長である。

「ありがとうございます。スザクと言います。村長さんは精霊様のことは御存知で？」

「はい、伺っております。ですが、私は村を守る加護を頂きましたが、マサとミサはもっと大変な使命を頂いたと聞き及んでおります」

　神樹に住む精霊との邂逅。その他諸々村の周りで起きた事などを話しているうちに、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。

「村長様。マサさんご家族見えられました」

「此方に通しなさい」

「はっ。マサさん此方へ」

　青年の案内に促され、ダンとマサ、後ろをミサが付いて部屋に入ってきた。

　マサはハッキリと皆に聞こえるように、

「村長、遅くなりました」

　少し頭を下げながら挨拶をし、周りを見てスザクの存在を目にとめ、スザクに向かってお辞儀をした。

「マサと言います。貴方が精霊様が仰っていた仙人様ですか？」

「まあ、正しくは精霊術士ですが。初めまして。スザクと言います。いろいろ聞きたいことがおありと思うが、私もそちらの子供のことを聞きたいので追々話しましょう」

「はい。精霊様には貴方が来たときにこれから起こることや、身を守る方法を教わるように言われましたが？」

「私は精霊様と話しながら・・・。今から精霊様の所に報告がてら行きませんか。精霊様も待っておいででしょう」

「わかりました。その前に紹介だけさせてください。此方が女房のミサ」

「初めまして。宜しくお願いいたします」

「スザクです。此方こそ宜しく」

「で、こっちがダン。息子です」

「おお！ダンか！おお！うん、うん。たしか二歳であったな」

　ダンを見るなり感激しながらダンの頭をなで、目線をダンに合わせた。

「初めまして、ダン。叔父さんはスザクって言う精霊術士だよ。魔法とか精霊術に興味はないかい？」

「僕、魔法使えないよ？父さんや母さんは使えるけど。僕はできないんだ」

　そう言ってダンが、一寸うつむき加減になってしまった。

「大丈夫。まだ二歳だし。焦らなくて良いよ」

　スザクはダンの顔や掌を見ながら何かを探って居るようだった。

「ううむ。左手に龍の紋章。右手に精霊の紋章。それもまだ発現してないみたいだな」

　独り言を言いながら、

「最近、夢を見たかい？」

「ううん。見ないよ」

「走ったり飛んだりは大丈夫かい？」

「いつもアニカと勝負してアニカに負けてる。他の子には負けないんだけどね」

「そうかあ。アニカって子は相当早いんだね。ダン、身体を鍛えたらそのアニカに勝てると思うぞ！叔父さんが鍛えてあげようか」

「叔父さん村に住むの？」

「そうだ。ダンを鍛えようと思ってきたんだよ。此処にダンがいることを精霊様に教えてもらって、楽しみにしてきたんだ」

「やったあ！じゃあ魔法教えてくれるの？」

「そのために来たんだ。明日から少しずつ練習しながらやっていこうか」

「アニカも一緒にやって良い？たぶん僕だけやってるとアニカもやりたがると思うんだけど」

「ああ良いとも。一緒にやって見よう」

「うん！」

　元気よく返事したダンを見て目を細めるスザク、マサとミサだった。

　スザクはマサとミサに向き直り、

「前向きな良い子によくぞ育てられた。マサ殿ミサ殿」

「私は何も。普通に育てただけで。あの子は何も言わなくても自分で考えて、周りの人の事も含めて一番良い方法を選ぶ子なんです。持って生まれた性格だと思います」

　ミサはキョロキョロ窓や天井を珍しそうに見回しているダンを見ながら目を細めた。

　村長が間を見て声をかけた。

「そろそろ精霊様もしびれを切らしてると思いますぞ。行きますかな」

「そうですね。あんた、そろそろ」

「おう。ダンいくぞ」

「はーい」

　皆の顔を見渡しスザクは頷いた。

　神樹の前に移動した一行は、ミサが持ってきた供物をささげ、祈りを捧げる儀式を行った。

　しばらくすると五人の身体の周りを光りが包み込んだ。

　光りのバリヤーのような効果で他の者が近くにいても誰にも気づかれないように隔絶されているようだった。

　そして周りの光りは集束しだし、気がつけば全員の頭の少し上、神樹の幹の前でフワフワ浮いていた。

　神樹に住む精霊の降臨である。

『ミサ、いつもありがとう。村長のマッコイ。まさ、久方ぶりですね。村と神樹のためにありがとう。そしてスザク、よくぞ無事でいてくれました』

　跪いて胸に手を当てていたが、やがて顔を上げ、神樹の前の光りを見上げた。

「精霊様にはご健勝で。色々情報を得るのに苦労しました。時間がかかってしまい申し訳ございません」

『良いのです。すべて解っていることです。想定していましたからね。マサとミサの頑張りで、ダンも元気で・・・この通り良い子に育つ時間も必要でしたから。スザクが無事で何よりです。あなたが欠けても、ここに居る誰が欠けても旨くいかないことだけは確かですからね』

　スザクはさらに申し訳なさそうに、

「ありがとうございます。そう言って頂けるとやった甲斐があります」

『では、早速報告を聞きましょう』

「はい。まずはこの世界。魔王ですが、まだ小さく本来の凶暴さはまだ発揮されず。力の復活にはまだ相当の時間が掛かると思われます」

『貴方の見立てではどのくらいで完全復活するのでしょう』

　精霊に問われ、スザクは対峙した魔王とその側近たちとのバトルシーンを思いだし、側近たちの強さとそれに守られてる魔王の力を考えてみた。

「恐らくまだ十年は復活しないかと。それよりも魔王の側近たちをどうやって無力化するかですが・・・かなりの実力者もおりましたので、油断は禁物かと」

『そうですか。規模はどうですか？』

「そちらは人間の三分の一程度ですが、人間側が団結さえ出来れば問題ないでしょう。魔王軍は側近の団結はないみたいですので」

『それは何がそうさせるのか解りましたか？』

　スザクは少し考えて、極めて重要な案件を選んで話し出した。