第2話 精霊と子供
ふっと何かの気配がして腰の短剣の柄を押さえながら腰を低くして近づいていく。
すると木の根元で何かが黄色く輝いている。
男は恐る恐る近づいていく。
光はフワフワと上下左右に、まるで舞うように動いている。さらに男が近づいていくと、光はクルクル回りながら舞い上がり、少し離れた空中に移動した。
「何だこれは?光る虫か?そんな虫いたっけか。もしかしたらアンデッドの罠かも・・・」
男が近づいていくと又光も離れていく。
しかし逃げていく様子ではなく、男が不思議に思っていると光が呼ぶように上下に動いている。
「いよいよ罠っぽいな」
眉をひそめ、怪訝な顔のまま辺りを見回し、光の動きを目で追い様子を伺う。
用心深く潜んで見ていると、光がゆっくりと動き、その先に何かあることに気がついた。
「ありゃ何だ?何か籠みたいだが」
そこには小ぶりの籠が木の根元に草を敷き詰めておいてあった。
さらに光はクルクルと空中を舞っている。おいでおいでと呼ぶように。
「罠には嵌まりたくないけど、あの籠が気になるうーッ」
そのうち光は縦に回り出した。
虫を寄せる線香のごとく。
「何か怪しい。俺を嵌めようとしてもそうはいかねーぞ」
威勢良く言い切った。
普段はそんなにハッキリとは言葉にしない男であったが・・・言い切った。が、・・・。
「何だと!!」
気がつくと、男は呆然と立っていた。しかも隠れることも出来ないくらい開けた踊り場のような空間の大きな木の前で。
「あああ、あれーー??」
気がつき慌てて隠れようとするが、先程より光の動くスピードが速くなったような気がした。
「ええい!こうなったらしょうがない。あの籠の中身を確認してやるか」
少しずつ籠に近づきつつ、しかし男の腰はかなり引けていた。
「怖くない怖くない怖くない」
呪文のように繰り返し、唱えながら何とか手の届く位置までたどり着く。片手を短剣の柄に乗せて。
「ふうっ。さあ、何が出るやらだ。出るなら出やがれこのー!!」
抜いた短剣の先で、籠の上に乗って塞ぐように重なっている葉っぱのようなものを、一枚一枚剥がしてみることにした。
男は籠の中と光を交互に睨み、まだ「騙されないぞ」と目で訴えていたが、光りを見つめているうちに、
「お前を見てると、嫁さんに点けられた藻草の火を思い出すよ」
何日か前の夕べの嫁とのやり取りを思いだし、少し緊張が抜けたのだった。
「お前本当は悪い奴じゃないのか?」
そんな気がして呟いた男の顔の前を、光りは上下した。
「じゃあ、これは何だ?何かくれるのか?」
籠の中に意識を戻し、短剣を鞘に収めて葉っぱを剥がしていった。
「今まで苦労してきたから、神様が褒美をくれたりしてな」
先程までと真逆の不用心なことを考えていた。
何枚か取り除いた葉っぱの最後の一枚を取り除き、
「何日か前のコボタの奴の話に有ったな。嫁に見つかるとやばいから山に隠しに行ったって。もしかしてこれのことかあ?」
カード仲間の家庭問題の相談に乗ったときに聞いた話を思いだした。
先日の夜に狩りに行くと言って仲間とカードゲームをして、嫁にばれて、お灸を据えられたことは仲間には隠している。この時本当に大きなお灸を据えられたがこのお灸の火がフワフワ回ってる光りと重なっていたのである。
「何か布に包んであるな。なあに隠していったんだか。見てやるよっと」
男がそっと籠の中に手を入れてみると、少し生暖かい。
「ん?」
ぬのをめくり、顔を近づけてみると
「こ、これは・・・・・」
驚きの声を上げた。
「こ、子供?なのか?」
目をぱちくりしながらもう一度顔を近づけてみる。すると、光りが籠の上に舞い降りてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます