間章 片割れの心



『…寂しときは?』

『………名前を呼んで。そしたら心を半分あげる』




「花は、あれを振ったようだな」

眠りについた三人を置いて、陛下そっと外に出た。

冬終わりの満点の星空を仰いで魔女様は薄く笑った。

「そういえば、君の息子だったね。びっくりするくらい似てないよね、見た目」

中身はそっくりなくせにね。

彼女は花と同じことを言った。

それを指摘すれば、彼女は肩をすくめる。

「血筋だよ。可哀想だね」

「花とお前は、見た目も中身も全然似てないんだな」

「うん。血筋って言っても、血が繋がってるわけじゃないから。なんだろ………突然変異?」


花は雪と月には言っていないけれど、魔女の血を継いでいた。

滅多に生まれない魔女の子。

花が最後かもね。そう霧の森の魔女様は笑っていた。


「きっとあの子は、魔法なんて全然使わないだろうけど。薬も一からゴリゴリ作るしね。迷子になって星を頼りにとぼとぼ歩く魔女なんて聞いたら、お師匠様卒倒しそう」


こてんと陛下は首をかしげる。


「お前も迷子になったらそうするだろ?」

「いや。そもそも迷子になんかならないよ。………お師匠様の教えではさ、『魔女は常に大胆不敵!どんな時でも魅力的に笑ってやんな』だったからね」


魔女様は、言葉通り大胆不敵で、何を考えているか全然わからなくて、それでもって笑顔がにあった師匠を思い浮かべた。



どんなに長い時を生きても、彼女には追いつけそうにない。


「ふーん。俺はお前と花しか知らないからな」


「まあ、魔女もそれぞれだからね………。同じなのは、半分の心でうろついてることくらい」


「花も?」


「花はまだ心をあげてないからね………。正直、君の息子にあげてしまうかと思ったよ」


「やらなくていい」


陛下は不機嫌そうに言った。


「………なんか君、娘を嫁に出す父親みたいだよ」


「それは雪と月に言え。幾ら何でもあれは依存しすぎだ」


「まあいいじゃん。多分、二人とも本能でわかってるんだよ。いつか、花が自分たち以外のものになること」


「俺の息子に心を分けると?」


「君の息子とは限らないよ。むしろ、君の息子なら可能性は零に等しいかも」



陛下が魔女様を睨んだ。その顔は至極不満そうで物足りなげ。



「お前が俺にくれなかったように?」



「だって私は違う人にあげちゃったからさ。ほんと、君の血筋は不憫だよね。魔女にあったときには、いつだって彼女たちの心はだれかのもの。ふふふ。何かの呪いみたい」


「最悪だ」


陛下は吐き捨てた。

ますます気持ちが強くなる。

息子も、魔女の心をもらえないままでいいと。

そうして、ふと気がついた。


「………あいつは、まだ魔女の心が完全の時に出会ったんだな」


「そうだね。君とはじゃあ違うのかも」


魔女様は陛下を慰める気は全然ないので、陛下は一向に不機嫌なまま。

しばらくは黙って睨んでいたのだけど、やがて夜の闇に紛れるように歩き出した。


夜を纏った黒衣の王様。

長生きの魔女様は彼が王子様だった頃からずっと知っている。



ふと、陛下は足を止めた。

思い出したかのように振り返る。


「別に俺はお前の心を諦めたわけではない。半分しか残ってないなら、それを丸ごと拐ってく。だから、そのつもりで」


「………うん。いつかね」



魔女様はまた笑った。

楽しみだった。彼が彼女の心を取りに来る日が。



そして、心が丸々残っている魔女と出会った彼そっくりの王子様が。










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