冬・花訪れ


再び魔女様の家に火が灯るようになってから一ヶ月。



しばらく出かけていた魔女様は独りぼっちで帰ってきた。

魔女様は花を探しに行ったわけではなく、お仕事をしていたのだ。



「ふーん。思ったより、いい顔してんじゃん」



二人の顔を見て、開口一番に行った台詞がそれだった

それから、ちょびっとだけ首を傾けた。



「いい情報持ってるけど、聞く?」



「………いい」



魔女様の前ではいつもだんまりな雪が小さく答えた。

そのまま黙って、旅装を解いた魔女様に寄り添う。

月もそれを引き剥がすことはなくちょんと隣に座った。

魔女様は目をパチクリ。

でも、ちゃんといい子にしていたようなので。

ご褒美にそのままでいることにした。






………やがて、扉に括り付けられた鈴がなった。

黒の王様が来た時ぐらいにしかならない来客の鈴。




二人が一斉にそちらを見た。

相変わらず全身黒装束の王様の腕に、ちんまり白い少女が抱かれていた。




雪が無言で花を奪った。

「おかえり、花」月が優しく花の髪を梳いた。

花は呆然と二人を見つめて、それから。


そっと雪を抱きしめ返すと、小さく答えた。




「………ただいま。雪、月。…何も言わずに出て行って、ごめんなさい…」




「うん。すごく心配したけど。ちゃんと帰ってきてくれたからいい」

「………この不良娘」




月はぐしゃぐしゃと頭を掻き撫ぜて、雪は抱きしめる力を強めた。

花はされるがままだったけれど、「お前も、もっと言いたいことがあるんだろう」と陛下に促されて、小さい口を開いた。




「………陛下から聞きました。帰り道に、ですけど。…二人ともご飯も火も焚かずにいて、もう少しで幽霊になる寸前だった、…って」



後半は涙交じりだった。

気が緩んだのか、ほとほとと泣き始めた花に二人ともワタワタと慌て始めた。



「私、幽霊になった二人に出迎えられても全然嬉しくないです。塩、撒きます…」



それからまた、ほとほとと涙を零し続けた。



涙が止まらない花を、二人はせっせと世話し始めた。

汚れた手足をぬぐい、ボロボロの服を変え。

親鳥みたいに餌を食べさせ。

そっと涙を拭った。



「さっきの、やっぱり嘘です」花はやっぱり小さい声で呟いた。

涙を拭う、雪の手が止まる。



「幽霊になっても二人のそばにいたいです。………でも、また手を繋ぎたいからならないでください」








久しぶりに三人は手を繋いで眠りに落ちた。

寒い冬は明け、仄かに馥郁たる花の香りがした。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る