冬・花隠れ 2

厚く黒ずんだ雲から、しんしんと雪が降りきしる。

辺りは雪に覆われ、生きとし生けるものは皆ひっそりと息を潜めた。


霧の森の魔女の家もしんと静まり返っている。

それどころか、憂鬱げで暗い雰囲気。


冬の始まりから一月。

雪と月は家や森の中をうろうろと歩き回っては喧嘩をした。

どうしようもなく苛ついて。

もはや言葉は必要もなく、ボロボロになるまで喧嘩した。

けれどもちろちろと雪が降り始め、一月経っても彼らに薬草が持ってこられることはなかった。



魔女様はどこかに出掛けてしまって、二人は迷子になった幽霊みたいな顔で部屋の隅にじっとしていた。

食事も忘れ、暖炉に火がつくこともなかった。

文字通り、家は火の消えたように静まり返り。

彼らは凍える体を寄せあって、更に一月が経った。





うとうとと微睡みの中で聞こえてきたのは、パチパチと木の燃える音だった。

体はぬくぬくと暖かく、何だか張り詰めていた気持ちも解けていくよう。

無意識にほっと息を吐いて、モゾモゾと身動ぎをした。




「____馬鹿め」


だからその呆れた声がした時には心底驚いた。

ぎょっとして目を覚ませば隣はもぬけの殻。

そして目の前には腕を組んだ黒の王様が立っていた。


「お前も起きたなら飯を食え」


陛下が顎をしゃくった先では、雪がせっせと食事をかきこんでいた。

山盛りの食事があっという間に消えていく。


「さっさとしないと食いっぱぐれるぞ」



月は一つ瞬きをした後、ノロノロと立ち上がった。

何であんたがここにとか、花はどこだとか色々聞きたいことはあったけれど、一先ずは食事にすることにした。


本能で生きているような雪とは違って、月は常に理性的だったけれど。

今回ばかりはそれも限界。

回らない頭は思考を放棄して、ただ本能のままに空っぽのお腹を満たしていく。


陛下はただ黙って見ていた。

この寒さの中、飲まず食わずで一ヶ月も生きていた生命力にはもはや呆れ返っていたけれど。


やがてお腹も満腹になり、白いばかりだった頬にも赤みが差す。


「手のかかる餓鬼だな」


肩を竦めた陛下を雪はギロりと睨んだ。


「………花はどこだ」


「知るか」


俺はあれの保護者じゃない。

陛下は心の底からそう思っている。

でも毎回迷子になった花を拾うのは、彼なりに責任を感じているからだ。

それに、一回拾ってしまえば何回拾っても同じような気がしたので。


そんな事情を知らない雪はため息をついた。

使えねえな、みたいな感じで。

月もまるで無能を見る目で陛下を見てきた。

これには流石にムッとした。

死にかけているのを助けて、食事まで与えてやったのに。

こっそり陛下が復讐を誓ったことなどつゆ知らず、雪はガタリと立ち上がる。


「雪」


冬になって、また雪は少し身長が伸びた。

月は見上げるような形で雪を睨む。


「森の中を探すのか」


しばらく二人はにらみ合った後、ふいっと雪は背いた。




「ああ、薪をな」




彼女はきっと寒い思いをして、どこかを歩いているだろうから。




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