冬・花隠れ


雪は陽だまりの中でぶるりと身を震わせ目を覚ました。

木々の狭間を冷たい風が通り抜け体を撫ぜる。

「冬か……」

彼の好きな雪のちらつく冬が来る。

月はきっと暖炉を掃除しているだろうから、薪でも拾って帰ろうか。

むくりと体を起こして、彼は何かが足りないことに気が付いた。




いつも隣に丸まっている、小さな少女がいなかった。






雪と月は顔を合わせれば喧嘩する。

それは互いが嫌いだからとかそういうものじゃなくて、息をするようなもの。

魔女様だって雪と月が殴り合いを始めても放ったらかし。

後から花が、コトコトと二人の傷を手当する。

花も何も言わないけど、表情が少し寂しげ。

だから、その時ばかりは雪も月も協力する。

歳は同じだけど、二人にとっては花は妹のような存在だから。


月は片手に本を抱え、雪は身軽に両手をぶらり。

そして花を間に挟み、小さな手をそっと拾う。

陽気な日は外に散歩へ。夜だったら星を眺める。雨の日は書庫で月の読み聞かせ。

花は真剣に、雪はうつらうつらと話を聞く。


最後は三人で仲良く眠る。



いつも一緒ではないけれど、繋いだ手を離すことはなかった。


だから。




「おい、月」


「何だ、雪」



その日初めて顔を合わせた二人は、珍しいことに喧嘩をしなかった。


「今日花見たか」


「……朝はいつも通りだったが」


時計はくるりと丁度一周。

辺りはすっかり夜の帳が落ち、だのに白い頭はどこにも見当たらない。



「そうかよ」


雪はくるりと身を翻した。


「待て。僕も行く」


月は掃除道具をほっぽり出した。

コートも明かりも持たずに、でも二人は見つかるまで探し続けるつもりだった。






「花はいないよ」




いつの間にそこにいたのか、魔女様が椅子に腰掛けていた。




「魔女様………」



「昼に森を出てそれっきり。まだ戻ってきていないよ」



三人の中で花は唯一の女の子。

そして、唯一森の外の世界を知っている。



「そんな顔しないでよ。待ってたら花は帰ってくるよ。今までだって、そうだったでしょ」



そう、花はふらりと森の外に出かけて。

黒の王様が拾い上げて戻ってくる。



「うん。君たちの嫌いな陛下に拾われてね。ああ、でも………」



魔女様はふと空を仰ぎ、それから首を傾げた。







「今回ばかりは、花次第かもね………」






その年の冬は、十五年で最も寒い冬になった。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る