雪のお気に入り_一つめ・魔女様の歌
雪はぶらぶらと森を散歩していた。
時々、気に入った石や落ち葉を拾っては大切に宝箱にしまうのが彼の日常。
動物は拾わないと決めている。
それは、違うやつが趣味にしているので。
動きやすいように、雪のために特別に仕立てられた服もお気に入り。
本当はこれも大切にしまっておきたかったのだけど、魔女様が着ると嬉しそうに笑うから愛用している。
雪の宝箱には、今はたくさんのお気に入りがしまわれている。
でも、宝箱には入っていないけれど、一番最初に彼のお気に入りになったのは大切な魔女様の歌。
こればっかりは、宝箱に入れることができなかった。
それが少し、残念。
でも、こうして歩いていれば魔女様の声が聞こえてくる。
自分たちがいると恥ずかしがって歌ってくれないので、こうして木と霧に隠れて息を潜めているのがコツ。
深い霧の合間から、ほんのりと太陽が顔を出す。
それが合図だ。
どこかをうろうろしていた月と花のほら、そっと息を潜めた。
風に乗って魔女様の歌が聞こえてくる。
誰も知らない、独特なリズム。
今日は鼻歌にしたみたいで、どこか音程を外しているのがお約束。
雪たちが今よりずっとずっと小さい頃は、子守唄を歌ってくれた。
勿論、音程を外していて下手くそ。
時折訪れる男の人が、いつも呆れた顔をしていた。
あの人が吹く笛は、信じられないくらいに上手だったことも思い出す。
でも彼が来るたび、なぜだか魔女様を取られてしまう気がするので雪は彼が全然好きじゃない。
それに、雪が猫みたいに毛を逆立てて威嚇していると意地悪げに笑っていじめて来る。
むしろ、嫌いだ。
顔を思い出して不機嫌になった気分も、魔女様の歌であっという間に拭われていく。
宝箱に仕舞えられない代わりに、そっと心の中にたたみこんだ。
やがて魔女様の歌が静かに消えていく。
雪はふらりと立ち上がって、また散策を開始した。
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