霧の森の魔女

@leefie_no

序章 霧の森の魔女


ドアに括られた、滅多に鳴らない鈴がりぃんと鳴った。

魔女は振り向いて、ふふっと笑った。


「どうしたの。君が来るなんて珍しいね」


男はそれに答えず、ぐいっと藤籠を魔女に押し付けた。

その中身を見て、彼女はぱちりと瞬く。


「………これ、私の目がおかしくなかったら赤ん坊に見えるんだけど」


「正常で良かったな」



フンと男は鼻を鳴らした。

そういうことを言ってるんじゃない。魔女は彼を睨んだ。


「…君の子供?……にしては似てないね。と言うか、まさか私に子守をさせるつもり?」


「違う」


どちらが?……多分、どっちも。

男といえば、相変わらず尊大な態度を崩さない。


「そこらへんに落としてたぞ。拾ってやったんだ、感謝しろ」


「私が落としたんじゃないよ!?君が捨て子を拾うなんて、天変地異の前触れなんじゃあ…」




魔女は青ざめて空を仰いだ。

今は満点の星空だ。

でも彼女は、晴れた昼の空でも分厚い雲の覆う雨空でも星を読める。

それは、部屋の中にいても同じ。


「……なるほどね。あーあ」


魔女はやけっぱちになった。


「最悪だよ、最悪。君が来ると、いつも星が狂う」


そして、藤籠をぶんどった。


中には、3人の赤ん坊がスヤスヤと眠っている。


「…山羊の乳で育つかな?」


どうだろう。でも古い文献で、狼が赤ん坊を育てた記録を読んだ気もする。


「…好きにしろ。私はもう行く」


「……君、何の用で来たの」


「さあな」


短く答えると、男はさっさと出ていった。



……と思ったら、何故か戻ってきた。


魔女は胡乱気な目を向けた。

何なんだ、この男は一体。


「名前、決めた」


「ええー…。なんで君が決めるんだよ」


「俺が拾ったから」


じゃあ君が育ててよ!そう言おうと思ったけど、辞めた。


この男に育てられるなんて、不幸しか待ってない。


………でも、自分に育てられるのもそう変わりはしなかった。



「雪月花」



ポツンとの呟くと、男はさっさと出ていった。

残された魔女と言えば、ポカンと口を開けた。


「ええー!?どれが雪で月で花?」


魔女が頭を抱える空の上で、一つの星が流れる音を、彼女は確かに聴いていた。







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