1000:VOODOO NINJA

 空席のボックスシートを熱赤サーマル外帯域ヴィジュアル視覚センセーション注視ちゅうし熱放射ねつほうしゃ残留変位ざんりゅうへんいを読み取る。3つとなりのボックス席に、熱源が残っている。

 ためしに、靈性感知ソナー残留思念探知サイコメトリーも実行。

 間違いない――取引相手のオドゥオールはこの席に座っていた。ほんの少し前まで

 テーブルに目を向ける。

 そこには出鱈目でたらめに作られたハンバーガーをい散らかした食い残し。そして、バーガー用のケチャップで描かれた文字が残されている、、と。


!ここにオドゥオールがたんだ、間違いない!」

Kurikara>......

「――それにしても、だけ短時間で逃げおおせるなんて。どんな仕掛けトリックを使ったんだ?」


 ボクに遅れてそのボックス席に迄やって来たおにぃクリカラは、しばし静止。

 何かを探っている様子。いや、分析か。


Kurikara>微小びしょう空隙ヴォイドを観測出来る

「!?何、それ?」

Kurikara>非想非非想天プシコ・トランスの残りの様なモノ。現世うつしよへの干渉残滓ざんしひずみと云うべきか

「前に見た人工知能AIの作り出す禍渦ヴォルテックスに似た空間の事だよね?」

Kurikara>潜没師ダイバーとしての心得こころえがあれば何人なんぴとでも生み出す事が出来る......ただ

「ただ?」

Kurikara>機械的過ぎる。機能美が過ぎるとった方が正しいか

理路整然りろせいぜん、そう云う事?」

Kurikara>......アソビがない!

「遊び?」

Kurikara>侘寂ワビサビがない

「……Wannabeワナビー?」

Kurikara>ヒトならざる何かの手を借りた、そう見受けられる。マズイな、店を出るぞ


 はボクの腕を掴んで店の裏口に回る。

 裏口は鉄扉を抜けてトイレに繋がるビルの通路、店外に迄通じている。

 足早に立ち去るボク達を、出入口上部に取り付けられた監視カメラビデオ・サーベイランスがじっと追う。


!カメラに撮られた」

Kurikara>大丈夫、記録はぶっ壊クラックした


 仕事が早い――そう思った刹那せつな

 ヒィーッハッハッハッハッハーーーッ!!!――

 甲高い笑い声。

 ――!?な・に・ご・と!!?


ガラクタァーファッカドォー!ドぐされ野郎ォーメェーーンキヤメラカメラを潰したからって、てめぇー、オレからのがれられるとか揶揄からかってねぇーだろォーなァ~~~?イヤァオ!」


 沈み行く夕日を背後バックに、忍装束しのびしょうぞくまとった黒色人種ニグロイドの男。左目に微光暗視装置スターライトスコープを装着し、細かな三つ編みブレイズの毛先には無数のかぎが取り付けられている。

 りのない直刀ちょくとう忍刀シノビソードを構える。


「誰だ、アンタ!?」

影法師シャドウマスター、ヌワンゴ“黑曼巴蛇ブラックマンバ”ギグ!

 御方おかたからの殺人マーダー命令オーダー型通かたどおり実行しに来たもんだ。大方おおかた、逃げおおせられるとでも思っていたんだろうが、だまだぁ~甘いな!そーだろ?」


 ――一体、何者……?

 精髓エッセンス極限きょくげんまで抑え、気配を消して追って来たのか。

 姿を現してからは、せ返る程、すさまじい忍魂シノビソウルを感じる。

 この男、狩人ハンターと同類、か。


Kurikara>阿弗利加乃牙アフリカのキバ、通称ブードゥー・ニンジャ。精霊ヴォドゥン忍術ニンジュツを使う非合法組織。風魔フーマの流れを乱波ラッパー。恐らく、その一人だろう

「コレが世界一危険な暗殺者アサシンと云われる“ニンジャ”なの?」

Kurikara>これだけ明けけに姿を現す程だ。かなりの手練てだれだろう


 その黒人は胸元に手をもぐり込ませる。


標的ターゲットがい小娘ガキまぎんじまったが、まあ、運が悪かったとあきめるがいい。悪足掻わるあがきしても苦しむだけ、と。うらむんなら、そこのガラクタタフガイを恨めよ!分かったかい?」


 胸元から素早く引き抜いた手をこちらに向ける。手許てもとにちらりと光るモノ。

 ――ヒュン!

 手裏剣シュリケンズ――星型の投擲用短剣スローイングダガーの一種。

 達人忍マスターニンジャ級の者がこれを使った場合、一撃で首をねる程の威力を持つ脅威の暗器あんき


 せまる手裏剣――

 ――キィイン!

 義手から突出とっしゅつさせた単元刀ナノブレードでその兇器きょうきはじ


「ヤルじゃあないかぁ~、クリカラぁ~?それじゃあ、コイツはどうかなぁ~?」


 再び、高速で胸元に手を忍ばせ、き手の要領で手裏剣を投擲とうてき

 かたむいた夕日の明かりを白刃しらはにきらりと反射させ、高速回転する手裏剣がせまる。

 クリカラは縦横に2度、単元刀ナノブレードを振るう。

 キュイン!キィイイイン!

 ――二枚!!

 り返す白刃の手裏剣を地に叩き落とし、そしてもう1つ、黒塗くろぬりのヤイバを持つ手裏剣を斜め後ろにはじき飛ばす。

 白刃に巧妙こうみょうかさかくされた黒刃こくじんの手裏剣をも見抜く。


「ブラボー!いやぁ~、正直しょうじき驚いたよガラクタブラザー!あるまじき事態だ、ブラックブレード手裏剣も見切っていたとはな――だが……」


 不意ふいに、脇腹わきばらから白い人工血液が吹き出す。

 出血――

 ――いつの間に!?


「ヒィーッハッーハッ!ガラクタファッカドォーの血はやっぱ赤くはねぇーなァ~?ヤバそうだが、足掻あがくだけ足掻いてみるか?さぁ、どぉ~するぅ??」


 は気付いているのだろうか――

 ――“”の存在を。

 弾き飛ばしたはず黒刃こくじんの手裏剣の作り出した影、その手裏剣の影がの影に重なったのをボクは見逃してはいない。そこに収束された精髓エッセンスも。

 そう、コイツは影法師シャドウマスター――影使かげつかいなんだ!


 黒人は手にした忍刀シノビソードを高々とかかげる。

 夕日に照らされた刀の影が、地を沿って長く長く伸び、の作り出す影に近付く。


 ――まずい!

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