デュエット ~ 機甲サムライと吸血少女の流離い道中膝栗毛 ~

11：限りなく、独り言

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　――ボクはカレを利用した。

　不健康な程白過ぎる肌に透き通る銀髪、精緻（せいち）な人形の様（よう）な顔に大きな銀眼では、この帝国（ニッポン）では目立ち過ぎる。

　無論、異国人も多く、多様な人造人間（レプリカント）も闊歩（かっぽ）している。外見的に紛（まぎ）れる事は、そう難しい課題じゃない。

　完全にヒトへの擬態も熟（こな）している、検知されない水準（レヴェル）で。

　併（しか）し、それでもダメなんだ。

　帝王としての資質（ヴァンパイアエフェクト）――

　人間達の言葉を借りるのであれば、カリスマ性、に喩（たと）えられるだろうか。

　主役性とでも云うべきか。偏（ひとえ）に、魅（み）せてしまう。見られてしまう衆目（しゅうもく）に。

　何気（なにげ）なしに注目させてしまう生来固有の能力、その雰囲気。オーラと云（い）うべき、ナニか。。

　生物学的に、遺伝学的に、或（ある）いはそれ以上の何かに、ボクには特異な存在性がある。それはボクの種（レイス）には絶対的、他のあらゆる種にも多かれ少なかれ影響を齎（もたら）す。

　この影響を受けないのは、無機物と純粋な機械、即（すなわ）ち人造物だけ。これは確実。

　凡（およ）そ、精髓（エッセンス）の有無に関与する。

　理由は分からない。

　誰もボクを研究対象とした事（こと）はないし、検証された訳ではない。ボク自身、解明しようとした事さえない。

　正直、ボクは気にした事がなかった。

　ＳＥ、そう、特異點（シンギュラリティ）爆發（エクスプロージョン）が起こる迄は気に掛ける必要もなかったんだ。只、起こってしまったんだ、ＳＥが。

　ボクの六感、いや、遺伝子、もっと深い処（ところ）にあるナニかだろうか。生存本能ってヤツが、ボク自身の消滅を意識してしまったんだ、ＳＥのせいで。

　危機感なんて云う思考領域ではない本能の性（さが）。

　ボクは知ってしまったんだ、存在し続けたい、と云う些細（ささい）な何者かの声を。それとも、願いは“逆”なのか。それさえ、よく分からない。

　ボクが御天道様（おてんとさま）に興味を抱（いだ）き、この国に来たのも無関係ではないのかも知れない。

　自分の存在証明を、ドコかに求めているのかも知れない。

　哲学に造詣（ぞうけい）があっても、それは人間が作り上げたヒトとしての学問上の話。

　ボクは、ボク自身の哲学に、興味を抱き始めたのかも知れない。

　兎（と）も角（かく）、ボクはカレを利用する事にした。

　ボクの目からしても奇異な対象に写るその者（をとこ）は、ボクへの注目を散らすに十分。

　大凡（おおよそ）、機械仕掛けのカレにとって、ボクの抱く感覚に気付く筈もない。

　今のボク程、自己陶酔（ナルシシズム）な利己主義者（エゴイスト）はいないだろう。

　そう、ボクは――怪物（モンスター）、なんだ。

「おにぃ！今日はドコに行くの？」

　おにぃ、と云うのはカレ、そう、クリカラの事（こと）。

　お兄（にい）さん、と呼ぶのは余所（よそ）余所しいし、兄様（あにさま）では堅苦（かたくる）しい。お兄ちゃんやあんちゃんと呼ぶのも、年下っぽさを作り続ける必要があるのでボロが出そう。

　なので、愛称（ニックネーム）、がいい。

　だからこそ、おにぃ。お兄さん、と思わせるその響きが丁度いい。尤（もっと）も、その意味合いとしては、鬼（おに）、なのだが。

　コイツは、滅法（めっぽう）腕が立つ。

　恐らく、人間基準で考えた場合、その強さは破格（はかく）、鬼神並（きしんなみ）。この国では古来、強者を指す呼び名に“鬼”の字を配す。丁度いいって訳。

　人間だってボクらを“吸血鬼（きゅうけつき）”と呼ぶんだ。ボクだって誰かを鬼呼ばわりしたって構わないだろ？

　カレは、不具者（かたわ）。それも重度の、極度の、致命的な程の。

　大凡（おおよそ）、人がヒトとして生きる為（ため）に必要不可欠な器官の、その殆（ほとん）どを欠いている。目、耳、鼻、口、四肢は勿論、内蔵や骨、歯、体毛、皮膚、血液、分泌液、果（は）ては知覚さえも損（そこ）なっている。

　その体を形作っている造形の多くが人工物。名うての義肢装具士（プロスセティスト）による作品、だとか。

　これだけ人造物に頼（たよ）っているのだ、靈性感知（ソナー）に引っ掛からない程、極端に貧弱な精髓（エッセンス）も頷（うなず）ける。

　唯一、完璧に備わっているモノ、生来のオリジナルの器官、それが“脳”。脳自体は、カレ自身のモノらしい。らしい、と云うのは、カレもよく分かっていないからだ。

　この点だけにおいて、人造人間（レプリカント）や絡繰人（からくり）とは違うのか。只、その正確な違い等（など）、誰も知らないだろし、興味もないだろうし。

　これ程、重度な障害を負っているにも関わらず、カレの遺伝子や染色体は全くの正常。カレの人塩基配列地図（ヒトゲノムマップ）に一切の損傷は見られない。

　そう、カレの障害は、後天性（こうてんせい）。事故や病気の類（たぐい）。とは云え、その要因について、教えてはくれない。

　ともあれ、健常な脳機能を有するカレは、共感覚洋（クオリアスタジア）への潜没（ダイヴ）が出来る。

　実は、この共感覚洋（クオリアスタジア）への潜没（ダイヴ）こそがカレを利用する点において最も有用性が高い。

　カレの潜没能力は達人（ウィザード）級。その機智力（ハッキング）は目を見張（みは）る。

　電腦網（サイバーネットワーク）への接続（アクセス）とは抑々（そもそも）、得られる恩恵が雲泥（うんでい）の差。そう、コレだけでボクは、あのいやらしいレンタル愛娘（まなむすめ）で働かずに済むんだから。

　だったらボク自身で潜没（ダイヴ）すればいいんじゃないかって？

　否（いや）、ダメなんだ。

　何せ、ボクには出来ない。機智（ハック）が？否々（いやいや）、潜没（ダイヴ）そのものが。臣民識別番号（ザイナンバー）を保有していないのだから弾かれる。

　それに――

　ボクが共感覚洋（クオリアスタジア）に没入（ジャックイン）したら……想像するだけで怖（おそ）ろしい。

　――それにしても。

　返事がない。

　失礼な者（をとこ）だな、コイツは。

「おにぃ！ドコに行くのさ？」

Kurikara＞...

Kurikara＞ドコにいくひつようもない

「え？ドコにも行かないって……旅してたんじゃないの？」

Kurikara＞ひつよう、がない

Kurikara＞ヤツらはかってにけンさく（サーチ）してくる

「検索（サーチ）？？？」

　――ヤツら、って？

　全く……喋（しゃべ）れないと云うより、無口過ぎるんだ、気質的に。

　まあ、別に行き先なんて本当はどうでもいいんだ。

　なんとなく―

　ただ、なんとなく、喋っていたいんだ。うん、もちろん、ボクが、さ。