一日目 魔族視点
下級魔族。それは、魔族の階級の中でも最弱の階級。
魔族は十八歳になるまでに中級以上の階級にならなければ、中級以上の魔族の眷属なる事を義務付けられている。
そして、中級以上の魔族でないと名前を授けてもらえない。
その上、階級が上がらないと着れる服が限られる。
私が十八になるのは後一月後。
そして私は下級魔族……だから私は焦っていた。
『適当に選ばれた勇者がいるらしいねっ』
姉のプラがそんな事を言ってきた。
もう、藁にも縋る思いだった私はすぐに家を飛び出して、三つの国を越えてベータ王国まで来て、人間さんに色々聞いて勇者をの居る場所を見つけた。
勇者を倒せば中級どころか上級魔族だって夢じゃない!
適当に選ばれた勇者になんか負けるわけないんだから――!!
――なにあれ! なにあれなにあれ!!
なんであの馬車の周りに大量の精霊がいるの!?
え、勇者の乗ってる馬車ってあれだよね?
うわ、凄く近づきたくない。 でも、私にはもう戦う以外の道がない。
緊張しながら走って馬車の前へと飛んでいく。
緊張しすぎでスピードを誤って地面に激突してしまった。
あぁ、御者さんを驚かせちゃった。
でも、そのおかげで馬車止まったし……よしっ!
覚悟を決めて馬車に近づく。
「なッ!? 魔族!!?」
「あなたに用はない退け」
「なっ! うっぐッ!!!?」
あ、あわわわわわ、力加減間違えたぁあああ。
少し催眠で寝てもらうつもりだったのに吹っ飛ばしちゃったああああごめんあさいいい。後で絶対治癒しますからあああ。
「なんだ……」
馬車の中から私と同い年くらいの人間が出てきた。
でも、私とは明らかに違う。次元が、立っているステージが違う。
な、なにあれえええええええ!!? 魔王様が可愛いよ! いや、魔王様は元々可愛いけど!! 魔王様が可愛く見えるくらいの化け物だよ!
なに、あの内包している魔力量!? なぜかほんの少しも外に漏れてないけど……。
「お前が勇者だな」
「……そうだが?」
こいつ、私より強くね?
これ、勝てなくね?
なんかもう泣いちゃいそう。
「フッ」
笑われた……。
見透かされたんだ。
私が、勇者を恐れている事に……。
バカにされたままじゃ、またお姉ちゃんに弄られる。
「何故、笑った?」
「すまない。あまりに小さいのでな」
背が? 違う。
髪が? 違う。むしろロング。
彼は私の心の事を言っているのだろう。
今まで何をしても失敗続きで、楽に楽にと逃げ続けて……本当に不味い状況になって焦ってこんなところまで来た。
それでまた、逃げる事を考えている私に心の小ささを……彼は言っている。
ここまで馬鹿にされたのは初めてだ。
しかも、図星だから泣きそう。
だから、もう逃げない!! 絶対に、ぎゃふんぐと言わせてやる!!!!
「ッ! 後悔しろ!!」
お姉ちゃんには「ま、まだまだねっ! 全然なってないねっ! ほんと雑魚ねっ! あ、ごめこっちには向けないでねっ!!?」 って馬鹿にされたけど……私の中では一番強い魔法。
――必殺・スーパー超びっくり砲!! 相手は死んで!!
「なんだこれは?」
勇者に私の攻撃が当たりそうになった時、彼の背後から天使のような精霊が現れて私の攻撃を弾き飛ばした。
「え……?」
な、なにそれ~。
せ、せこいせこいせこい!!
「ふむ、すごいな」
「っ!!! クソッ!!!!」
また馬鹿にしたなぁ~。
嫌な奴だ!!
「では……」
ぞわ――!!?
殺気!? 勇者の!? 怖すぎる!!
それはいくら何でも、こんな可愛い女の子を殺さないよね? ね?
勇者がポケットに手を入れた。
あぁ、これ、殺す気ですね。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!! もうやだぁぁぁぁぁぁあ!!! 勇者がこんな化け物だなんて聞いてないよ!! だましたなおねぇちゃんめええええええええええええええええええ!!!!!!!」
こうして私は逃げたのでした。
だって、死にたくないもん。
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