一日目 御者視点
御者とは様々な人間を見る。
のちに英雄と呼ばれる人間を乗せた事もあるし、大悪党を乗せた事もある。
そうして、様々な人間を乗せ見るうちに『見る目』というものが養われていく。
平民で魔力値0の俺でも30年御者をしていれば、見ただけでその人間がどれだけの事を成すか分かるようになる。
そんな俺の目が訴えかける。
「それではよろしく頼む」
「は、はい!!!」
大声で返事をして丁重に馬車の中へと案内した。
――こいつは今まで見てきた奴らとは次元が違う。
英雄レベル? そんなもんじゃねぇ。
きっと、こいつは世界の頂点にだって立っちまう男だ。
そんな方を俺の馬車に乗せられるなんて光栄で仕方がない。
馬車をしばらく走らせて、夕暮れ近くになった時、目の前に隕石のような物が降ってきた。
俺はすぐに馬車を止めた。
降ってきた物体を見ると、人型に角と羽が生えた姿。
これは俺でなくてもすぐに気づく、魔族だ。
「なッ!? 魔族!!?」
「あなたに用はない退け」
俺の体が馬車からはじき出され、近くにあった木に叩きつけられた。
痛みに悶えていると、馬車からあのお方が降りてきた。
「おまえが勇者だな」
「……そうだが?」
俺が、逃げてくれと声を出そうとした時、俺の体の傷が回復した。
先程まで感じていた激痛が嘘の様に消えた。
まさか、あの方が?
「フッ(どんな恰好だよ)」
「何故、笑った?」
その笑みを見て確信した。
あのお方は目の前の敵を子供がじゃれてきた程度にしか認識していない。
だが、相手は魔族だ。油断していい相手じゃない。
「すまない。あまりに(布の面積が)小さいのでな」
なッ!?
「ッ! 後悔しろ!!」
あれは灼熱魔法!?
消せない炎を生み出し、圧縮して放出するという伝説の!!?
まずい。あれは……!!
「なんだこれは?」
え……?
「え……?」
魔族の女も驚いた声を出していた。
いや、仕方ないだろう。
伝説の灼熱魔法を食らう前に消滅させたのだ。
そんな事、おとぎ話の中でもありえない。
「ふむ、すごいな」
「っ!!! クソッ!!!!」
凄い……。いや、そんな言葉じゃ足りない。
伝説の魔法を操る魔族を赤子の相手をするかのように捻り、皮肉すら言ってみせる。
本当に人間なのか。
「では……」
彼がポケットに手を入れた瞬間、とてつもない威圧感が辺りを包んだ。
なんだこれ、魔族なんかかわいく見える。
手の震えが、いや全身の震えが止まらない。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!! もうやだぁぁぁぁぁぁあ!!! 勇者がこんな化け物だなんて聞いてないよ!! だましたなおねぇちゃんめええええええええええええええええええ!!!!!!!」
脱兎の如し。
女魔族が羽の存在も忘れ走って逃げたが、それも仕方ないだろう。
彼に勝負を挑んだ時点で負けだったのだ。
あそこまで圧倒的力の差を見せつけられたなら逃げるのが最善の手だ。
「……逃げたか(化け物って……それは酷いよクスン)」
「追いかけないのですかい?」
「逃げた者を追う趣味は無い(え、逃げた女の子を追うってこの人変態?)」
「そう、ですか……」
優しい。
だが、少しだけ不安に感じてしまう。
この優しさが、彼の弱点になってしまうんじゃないだろうか……。
いや、この人なら大丈夫だろう……。
どんな状況でもこの人が負ける姿が想像できない。
本当に、とんでもない人を乗せたもんだな。
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